とある写真家、馬車がない
自分の投稿する作品の中で、少々既視感がある作品がありますが、そうです。ちょいとリメイクしまくった作品ですよこれ。見てみれください(TдT)
ここはグランド・エデンと、そう呼ばれる場所。その森では、ありふれた木々でさえ美しい花が咲く。光を帯びた結晶も道端に顔を出す。緑に染められた風がなびく様子は、まるでエメラルドの川を見た時と同じ感動を覚える。
聞けばわかるだろう、ここは異世界。そして驚くことなかれ、この場所はこの世界の一端にすぎない。
感動をもたらす一景はここばかりではない。未だかつて、誰も到達したことのない場所だって無数に存在する。
そんな世界を旅する者達がいる。彼らは旅人と称され、世界に見初められた探求者といわれている。
彼らは特別な存在なのだが、君がそれを志すなら大歓迎だ。この世の先見者たる我、白霊の狐たるコハクが導いてみせよう。
『さしずめ自分は、下手な傀儡の写真家なのですが、知恵と知識は人並み以上に。それでも及ばぬところはありましょうが……そうですね、貴方で補いましょう』
共に信頼し合い、同じ旅路を歩む。そんな、最高のパートナーとして。
=☆☆=☆☆=☆☆=
ある噂が広まっている。とある写真家の噂だ。
奴は写真家としては三流だ。しかも、価値なきその写真に値をつけるのだ。そんなもの誰も見はしない。
だが一度、見方を変えるだけで評価を変える。
『これは、ただの写真じゃない。宝の地図だ!』
それが発覚したのは、つい最近のことだ。そのお陰か写真の需要が高まり、品切れが多発することになった。
もしかすると、こうなる事を予想して写真は撮られたのかもしれない。これが、まことしやかに噂されることになった。
「で、結局どうなんだい。コハク?」
コハクと、そう呼ばれた彼こそ噂の写真家である。人の身にでありながらも、ふわりとした尻尾と尖った耳を携え、それらを染める水色がかった綺麗な白が際立つ少年。
少し着飾れば少女のようにも見えるであろう可憐な姿なのだが、それを周りに気取られぬためか、ローブを身に纏って隠されていた。
そのおかげか、ここ喫茶店の中でその顔に注目する者は、コハクと対面する女性を除き、いないようだった。
「噂は噂です。自分の意図した評価では決してありません」
「そうかいそうかい、こりゃ傑作だな。笑える」
「こっちは駄作ですがね」
「ああ、なるほど。上手いこと言うではないか」
静かで優雅な喫茶店の中で、盛大な笑い声が響き渡った。コハクの方はというと、笑えぬと言わんとするように顔をしかめていたのだが、それすら顧みぬ笑いぶり。
とはいえ、集められた周囲の視線に気づき、女性は話を戻した。
「しかしねぇ、コハクはどうしたいんだい?」
「どうって……」
「何を思ったのか、写真家を目指して挫折して。それぐらいのことは誰にでもあるだろうけど、結局はそこで諦めないかどうかさ。あんたはどっちだい」
「続ける。周りの評価なんて気にするまでもない」
「それでこそ、我らがリーダーだ。で、今度はどこへ行くんだい」
「ここから東の、夜兎森まで」
「これまた辺境じゃないか。まぁ、また希少な素材と写真をとって来てくれるなら、いくらでも待つさね。良い値で売ってやるからさ」
「その間はいつも通り……」
「ああ、もちろんだ。クランの方はアタシに任せな」
「よろしくお願いします、ホーさん」
こうしてホーと呼ばれた女性はそそくさと店を後にした。心なしか良い値と言ったあたりから、浮き足立って多様に見えたが、気の所為なんかではない。
ちゃっかりと会計を全てコハクに押し付けるあたり、お金にがめついのは間違いなさそうだ。
「まったく……さて、自分も準備するか」
程なくして、コハクも会計をして店を出ることにした。そうして、一歩町を歩けば不思議な世界が目に入る。
二メートル程のケットシーが経営する宝石店あれば、変な形のキノコが並ぶ店でさえ当たり前にある。空に目を向ければ、飛竜の定期船が視界を横切っていった。
いつ見ても、自分がこの世界の一部だとはとても信じられなかった。
「綺麗だな……」
そう言い、コハクはカメラを取った。今ある記憶を永久に残すため。この時もまた、一枚写真を撮った。
「さて、定期馬車は来てるか……あれ?」
普段は掲示板にて、馬車の交通状況が共有されているのだが、それを見て目を疑った。どういうわけか、目的地までの馬車が全て動いていないようなのである。
「あー、マジですか。うわ、どうしよ」
別に急ぎの用事があるわけではないので、馬車が動くまで待つこともできる。
とはいえ、馬車が何の前触れもなく止められることは相当珍しいことであり、少々気がかりであった。
掲示板の横を見れば、同じく馬車利用者かと見られる男性が立っていたので、話を聞いて見ることにした。
「あの、あなたも馬車利用者ですか」
「お、まあそうだが」
「どうして馬車が、止められたのか知ってますか?」
「いやー、わからねぇがよ。道中に盗賊が出るようになったって、前から警告が出ててな」
「なるほど。それで馬車が止まったと」
「いやぁ、あくまで予想だがな。ただ、護衛が増えはしたが、こうして止められることはなかったんだがなぁ」
心当たりこそあれど、確信めいたものにはなり得なさそうだ。無関係とも取り難いが、いまいちぱっとしない。
「そうですか。ちなみに、その盗賊に向けた討伐クエストは出されていましたか?」
「ああ、らしいな。もう既にどこかしらの、旅人が受注してたはずなんだがなぁ」
「なら、そこで何かアクシデントがあったのかもしれませんね」
「そうかもな」
まだ想像の範疇に過ぎないが、話に出た盗賊騒ぎかそれ以上の脅威が存在するのは確かなはずなのだ。
この際、何が脅威でも問題はない。むしろこの世界では、何が起こってもおかしくないのだ。何故なら……
「にしても、トラベラー……プレーヤーかぁ」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでも。お話ありがとうございました」
何故ならここは、グランド・エデンと、そう呼ばれるゲームなのだから。
「とりあえず、盗賊でもプレーヤーでも、相手になりますよ」
馬車がなくとも自身の足で、進み行こう。そう突き動かす燃料は、怒りの感情で。
前書きの時の自分、情緒やばいですね。
次回もあったらよろしく〜。