第94話 落ち込む事になったオリビア、しかし……
現在のオリビアはソフィアを護衛する際、形式上帯剣している。
が、それは飽くまで見た目だけで、鞘に柄が付いているだけ。
所謂〝刀身〟は外されている。
理由は言うまでもない。
ソフィアに抱き付き、頭を撫でて貰ったセリナに嫉妬し、剣を抜こうとしたからである。
幸い、それを素早く察知したアンナがオリビアを絞め落とした事で事無きを得たのだが……
オリビアの父セルゲイに依って、帯剣を禁じられてしまった。
勿論、今回の件だけが原因ではない。
ソフィア絡みで何度も剣を抜こうとした、あるいは抜いた事はソフィアの近習からセルゲイに伝えられており、国王のエドワードと共に頭を悩ませていたので当然の措置とも言えた。
ちなみにオリビア自身は……
(父上や国王陛下の懸念は納得せざるを得ない…… だが、もしも武闘大会の時の様に、魔王崇拝者がソフィア様を襲わせる為に上位悪魔を召還したら…… 剣身の無い柄だけでは、魔力を纏わせて悪魔を斬る事は出来ない…… とまでは言わないが、かなり難しい事には変わりない…… まぁ、今のソフィア様なら上位悪魔程度なら、軽く屠れるだろうが……)
と、思案顔でソフィアの隣を歩いていた。
当然、観察眼は勿論だが、微妙な表情から何を考えているかまで読み取ってしまうソフィアには、オリビアが何を考えているかは手に取る様に解っていた。
なので、オリビアに提案する。
「オーリャさん? 質問なんですけど、でーもんは剣では倒せないんですよね?」
「はい。悪魔は精神生命体ですので、剣で斬り付けても効果はありません」
「でも、剣身に魔力を纏わせたら斬れる…… 倒せるんですよね?」
「はい。剣身に魔力を纏わせる事で、精神生命体である悪魔でもダメージを与え、屠る事は充分に可能です。私の持つ魔力はソフィア様やセリナ様には遠く及びませんが、下位悪魔や上位悪魔程度ならば、お二方の手を煩わせるまでもありません」
「う~ん…… だとしても、今のオーリャさんの剣は、鞘と柄だけで剣身は無いんですよねぇ…… これって、かなり不利なんじゃありませんか…?」
ソフィアの指摘にオリビアは固まる。
確かにソフィアの言う通り、今の状態はオリビアには(と言うか、剣身に魔力を纏わせる事で悪魔を斬れる者に対して)かなり深刻な状態だった。
剣身が在る事で魔力を纏わせる対象を認知し易くなり、その事で正確に魔力を纏わせた剣身を振るって悪魔を斬り伏せる事が出来るとも言える。
が、その剣身が無いと、魔力を纏わせる対象が無い事で認知し難くなり、魔力が拡散して充分なダメージを悪魔に与えられなくなる可能性が高くなっていると言える。
事実、オリビアが試しに下位悪魔相手に剣身の無い柄だけに魔力を纏わせて戦った時……
普段なら一撃で屠れる程度の悪魔を相手に、10回以上も斬り掛からないと倒せなかったのである。
「ですが…… 私は陛下と父上からの厳命で、見た目だけの帯剣しか認められておりません…… こんな状態では体術でしかソフィア様の護衛の任務を果たせず、ソフィア様を害しようと考えた連中が悪魔を嗾けた場合、私はソフィア様を……」
「なら、その剣身を木剣にしたらどうですか? さっしょーのーりょくの無い木剣なら、国王陛下やオーリャさんのお父さんも認めてくれると思いますよ? それでもダメなら、柄と鞘をくっ付けて、そのまま振るえば──」
「それだぁああああああっ!!!!」
オリビアは叫び、ダッシュで聖女邸を飛び出していく。
そして馬に跨がるや、王宮へ向かって駆けていったのだった。
その様子を呆然と見送るソフィア。
そんな彼女の後ろで、やはり呆然……
と言うより、目を点にして唖然としているアンナ、シンディ、ナンシーの3人はソフィアの意見を聞いて……
「えぇと…… 私の言いたい事(主に剣に関する事)、ソフィア様に全部言われてしまったんだけど……」
「ソフィア様、一般常識の勉強ばかりしてたのに…… そんな知識(主に悪魔に関する事)、いつの間に…?」
「はぁ………… ソフィアってば、変なトコで時々鋭いのよね…… 剣身を木剣するとか、柄と鞘をくっ付ければ良いとか、9歳になったばかりのガキんちょじゃ思い付かないわよ……」
と、呆れ(主にナンシー)つつも感心していたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「陛下ぁああああああっ!!!!」
王宮に(無許可)で入るなり、オリビアはエドワードの元へと向かって駆け出す。
が、王宮勤めの衛兵に依って取り押さえ……
……られなかった。
オリビアは、自身を取り押さえようとする衛兵を殴り飛ばし蹴り飛ばし、難無く自室で寛ぐエドワードの元へと辿り着く。
部屋の扉を勢い良く開け、オリビアは叫ぶ。
「陛下っ! 私が帯剣を禁じられたのは致し方ない事と納得しておりますっ! しかし、この剣では剣身が無いが故に魔力が拡散してしまい、下位悪魔にすら苦戦してしまいますっ!」
オリビアの勢いに、エドワードは思わず隣に居るタチアナにしがみ付く。
「い…… いきなり何じゃ、オリビア!? と…… とにかく、まずは落ち着け! 落ち着いて説明せいっ!」
エドワードはタチアナを盾にする様にし、ガクガクブルブルと震えながらオリビアに抗議する。
その姿には、国王としての威厳は全く感じられない。
代わってタチアナがオリビアに言う。
「オリビア…… 陛下の仰る通り、まずは落ち着きなさい。そして、順を追って説明しなさい」
タチアナの冷静な対応に、オリビアも冷静さを取り戻す。
そして、剣身の無い柄だけの状態では魔力が拡散してしてしまい、下位悪魔ですら簡単に屠れない事。
魔力を纏わせる云々が関係無いとしても、柄だけではソフィアの護衛剣士としての職務を全う出来ない事を告げた。
タチアナは納得し、オリビアの持つ剣の柄に木剣ではなく鉄剣(ただし刃引きの剣=切れない様に加工した剣)の装着を許可。
この措置に拠り、何とかオリビアは〝ソフィアの護衛剣士〟としての務めを全うしつつ、悪魔を屠る能力を維持したのだった。
しかし……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
無事(?)、ソフィアを守る力を取り戻したオリビアだが、その後の行動がダメ過ぎた。
「貴様! 私の許可無くソフィア様に近付くとは、何を企んでいるっ! 返答次第では、この剣で斬り棄てる…… 事は出来んが、剣で殴り倒して再起不能にするまでは可能だぞ!」
と、ソフィアに新たなドレスを勧める服飾業者に食って掛かったり……
「貴様! 私の許可無くソフィア様の横に立つとは! 我が剣の錆…… には出来んが、剣でボコる事は可能だぞ!」
と、ソフィアを護衛するオリビアの反対側に立った護衛剣士を威圧するなど、とにかくソフィアにベッタリで、さすがのソフィアも辟易し、オリビアに言うのだった。
「オーリャさん…… 私の事を思っての行動でしょうから、あまり強くは言いたくないんですが…… ハッキリ言いますけど、皆さん困ってらっしゃいますよ? もう少し落ち着いて──」
「ソフィア様。そこから先は、私に言わせて下さい」
ソフィアがオリビアに話し始めると、途中でアンナが割って入る。
「オリビア様。私はオリビア様がソフィア様を敬愛なさっておられる事は充分に理解しております」
いつになく真剣な眼で語るアンナに、オリビアは固唾を呑む。
「しかしです。少しはご自身の行動・言動を客観的に視て下さい。言い過ぎかも知れませんが、常軌を逸してるとは思いませんか?」
言われてオリビアは考える。
(言われてみれば、確かに最近ソフィア様に近付く者を尽く排除していたな…… いや、勿論ソフィア様を世話するメイド達は排除などしていないが、少しやり過ぎたか…?)
すると、オリビアの思考を読んだソフィアが言う。
「オーリャさん…… 私が言うのも何ですが、少しやり過ぎだと思いますよ? 私の事を思っての事なのは解りますけど、脅すのは止めて下さい。ハッキリ言いますけど、オーリャさんがふくしょくてんの人や護衛に就いてくれている兵士さんに対する態度…… なんだか例の場所に居た時の店主さんを思い出してしまいます…… 勿論、内容はまるで違いますけど、雰囲気が……」
ソフィアの言葉にオリビアはショックを受け、しばらく塞ぎ込んでいた。
ちなみにオリビアが塞ぎ込んでいた数日間、大聖堂の聖女邸では使用人達は誰もがリラックスして仕事を熟していたのだった。




