第93話 オリビアの悲劇?
オリビアは毎日、指輪を除いて違うブレスレットやアンクレットを身に付ける様になった。
ソフィアからの評判は良く、毎回の様に──
「わぁ~♡ 今日のぶれすれっととあんくれっとも、凄く綺麗ですねぇ♡」
と、褒められていたと言うか感心されていたのだが…
「……でも、今までオーリャさんってあくせさりーとか身に付けてませんでしたよねぇ? それが最近になって付ける様になったのって、何か理由でもあるんでしょうか…?」
と言われて焦り始めた。
まさか『ソフィアを見詰める自身の表情を確認する為の指輪の存在を誤魔化す為』とは言えない。
しかし……
「いやまぁ、何と言いますか… ホラ、私ももうすぐ16歳じゃないですか。ですので多少ではありますが、お洒落に目覚めたと言いますか! ただ、ソフィア様の護衛騎士として、あまりブラブラした物は不適切なのではと思い、出来るだけ腕や脚にフィットし、尚且つ護衛騎士としての品格を落とさない物を選びつつもマンネリ化しない様に日替わりで付け替えておりまして! この指輪も、護衛騎士としての仕事とは関係無く、表面が鏡になっておりまして、自身がだらしない表情をしていないか確認する為の物でありまして!」
ソフィアからの質問…
と言っても、彼女はほんの少し気になった事を聞いてみただけだったのだが…
その質問に焦り、言わなくて良い事までベラベラ話してしまい、結果としてソフィアに呆れられたのだった。
────────────────
「何を余計な事までベラベラ話してるしまってるんですか…?」
修練場に移動し、ソフィアとセリナが魔法の鍛練をしているのを眺めながら、アンナはオリビアに苦言を呈する。
「いやまぁ…… 適当に誤魔化すつもりだったんだけど、話してる内につい…」
オリビアの言い訳に、アンナは溜め息混じりに言う。
「はぁ…… ソフィア様を敬愛するオリビア様が、ソフィア様からの質問に焦ってしまうのは解ります…… ですが、もう少し落ち着いて、余計な事まで話さないで下さい。お陰であの指輪が〝オリビア様がソフィア様に対してだらしない顔をしているのを確認する為〟に付けているのが、ソフィア様は勿論ですが、一緒に居たセリナ様や侍女・メイド・執事達にも知られてしまったんですからね?」
「うっ…… それは何とも…… って、今の話だと、あの場に居た全員に〝私が指輪を付けている理由〟がバレたって事か!?」
オリビアは慌ててアンナに確認する。
するとアンナは首を振ってから頷く。
「……どっちなんだ……?」
怪訝な表情で聞くオリビアに、アンナは淡々と告げる。
「さすがに私も、あの場に居なかった者に、どこまで伝わっているかは把握してはおりません。が、恐らくですが、侍女から侍女、メイドからメイド、執事から執事へと伝わっている可能性は否定出来ないかと思います」
「マジかよぉおおおおおお……」
オリビアは頭を抱え、修練場の床に突っ伏したのだった。
オリビアとアンナがそんな会話をしているとは全く知らないソフィアとセリナは、懸命に魔法の鍛練を続ける。
「空間封鎖!」
セリナが叫ぶと、修練場に在る大岩が魔法の壁に包まれる。
「更に空間封鎖!」
続けてセリナは2回目の空間封鎖を発動。
すると、大岩を包む魔法の壁の外側に、もう1枚の魔法の壁が現れて強固さを増す。
「もう1発、空間封鎖!」
これで魔法の壁は三重になり、かなり頑丈になった。
「最後の空間封…………」
最後の空間封鎖を発動させようとセリナが言葉を発している途中で彼女は力尽き、失神こそしなかったものの、その場にへたり込んでしまう。
「セリナさん、大丈夫ですか? 今日はもう、これぐらいにしておきましょう」
すぐ側に居たソフィアがセリナを支え、周囲で見守っていた司祭や司教が慌てて駆け寄ってくる。
「だ…… 大丈夫ですわ…… それより、ソフィアさんに頼みがありますの……」
発する声は弱々しかったが、セリナの意識がハッキリしている事に安心するソフィアは、彼女の願いを聞く事にした。
「何ですか? 私に出来る事なら、何でも言って下さい」
セリナを支えながら言うソフィアに、セリナはソフィアに抱き付きながら言う。
「このまま…… 私が満足するまで私を抱き締めていて下さいまし…… 私に足りなくなった〝ソフィアさん成分〟が補給出来次第、復活出来ますわ♡」
そう言いつつ、セリナは更にソフィアをガッシリと抱き締め……
「その、セリナさんの言う〝ソフィアさん成分〟ってのが私には解らないんですけど…… まぁ、私を抱き締める事でセリナさんが回復するなら、いくらでも抱き締めてくれて構いませんよ?」
言いつつソフィアはセリナを抱き締め、無意識に彼女の頭を撫でていた。
その傍らでは……
「さ… さすがに聖女セリナ様とは言え赦せんっ! よりにもよって私のソフィア様に抱き付き抱き締められるだけでなく、頭まで撫でて貰うなど… ぐぇっ!」
「ハイハイ…… そもそもソフィア様は誰のモノでもありませんし、聖女であるセリナ様に対して剣を抜こうとするなど、そちらの方が赦されませんよ?」
と、セリナに嫉妬したオリビアが激昂して剣を抜こうとし、それを素早く察知したアンナに軽く絞め落とされていたのだった。
────────────────
「何をやっておるのだ、オリビア……」
オリビアの父、セルゲイは彼女を呼び出し、最近のオリビアの振る舞いについて問い質す。
「余程の事が無い限り、剣は抜かないと誓ったのではなかったのでは? なのに今回、ソフィア様がセリナ様を抱き締めて頭を撫でただけの事で剣を抜こうとしたと聞いたぞ? これは誓いに反するのではないか?」
セルゲイはかなり厳しい眼でオリビアを睨み、問い詰める。
「いや、父上! 私は何も疚しい気持ちで剣を抜こうとしたのではありません! ただ、ソフィア様に抱き締められ、頭を撫でて貰ったセリナ様が羨ましかっただけなのです! 仮にですが、もし母上が父上の敬愛する人を抱き締めたり頭を撫でたりしたら嫉妬しませんか? 嫌だと思いませんか?」
オリビアは必死になって言う。
しかし……
「まぁ、確かにナタリア(セルゲイの妻、オリビアの母の名)がその様な事をすれば……」
「でしょう!? 私の感情は、それと同じ事です! ですので私はソフィア様がセリナ様に対し──」
「話が別だろうがぁあああああっ!」
その後、オリビアはセルゲイから散々説教を食らった上、ソフィアの護衛時には帯剣すら許して貰えない事になったのだった。
理由としては、剣を持っていなくてもソフィアの護衛には何の支障も無い程の体術を習得していたかららしい。




