第92話 オリビアのお洒落?
「ぬぁりゃぁあああああっ! 雷撃粉砕!」
セリナの放った魔法の一撃で、オークの群れは行動不能に陥る。
そこへオリビア率いる精鋭部隊が攻め込み、オークの群れは駆逐された。
意気揚々と帰ってくるオリビアに、セリナは満足そうに声を掛ける。
「さすがオリビアさんですわね♪ お聞きしますけど、ソフィアさんと魔物相手に戦った時も、こんな感じでしたの?」
問われたオリビアは、かつて〝グレイヤール〟や〝西の森〟でソフィアと共に戦った時の事を思い出す。
「そうですねぇ… 以前〝グレイヤール〟って街が魔物の群れに襲われた時は、今の様な戦術は組まず、私とソフィア様は一緒に魔物達と対峙してましたね。〝西の森〟に魔物の群れが現れた時は、私もソフィア様も空から… 私はグリフォンに乗り、ソフィア様は空中浮遊で上空から兵士達に指示を出してましたよ」
話を聞いたセリナは軽く頷き…
「そうなると、今回の様な戦術(セリナの様な魔導師が魔法の遠距離攻撃で敵を混乱させ、オリビアの様な近接部隊が蹂躙する戦術)は、あまり経験が無いのではなくて?」
と、オリビアに聞く。
しかし、オリビアは苦笑を浮かべて首を振る。
「訓練では同様のシチュエーションは何十回も経験しております。まぁ、さすがに実戦では4~5回ぐらいですけどね。全くの未経験ではありませんよ♪」
「なるほど… 確かに、先程までの兵士達の動き… 〝初めて〟と言うよりは〝久し振り〟って感じでしたものね… さすがはオリビアさんの率いる精鋭部隊ってトコでしょうかね♪」
傲慢で高慢で(以下略)なセリナが手放しで褒める程、オリビア率いる精鋭部隊の働きは良かった。
そしてセリナとオリビア達は、食材になるオークの遺骸を残らず回収し、ホクホク笑顔で王都に凱旋したのだった。
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「ん~~っ! 美味しいですねぇ♡ 私、オークのお肉を食べるのは初めてなんですけど、こんなに美味しいとは思ってませんでしたぁ♡」
ソフィアがオーク肉を喜んで食べているのを見て、料理人達も嬉しそうに微笑む。
そしてそれを見ていた2人…
ソフィアを敬愛(微妙に意味が違う気がするが…)しているオリビアと、ソフィアを自身の癒しの対象と見ているセリナの感想は全く違っていた。
オリビアは…
(私達が狩ったオークの肉を『美味しい』と言い、幸せそうに食べるソフィア様… か… 可愛いっ♡)
と思い、セリナは…
(ホント、素直な感想を述べて下さいますわね…♪ これなら、私の対魔王を想定した魔法修行を兼ねた魔物や魔獣の狩り… 討伐にも気合いが入りますわね♪)
と、まるで違った思いを抱いていたのだった。
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「オリビア様… オリビア様がソフィア様を敬愛されている事は周知の事実… ですが、夕食時の様な表情でソフィア様を見詰めるのは止めた方がよろしいかと…」
アンナがオリビアと共に湯船に浸かりながら言う。
勿論、ソフィアやセリナ、シンディ達メイドや侍女達も一緒である。
「夕食時の様な表情…? 何か変だったか? 自分で自分の顔は見えないから、どんな表情をしてたか分からないんだが……」
アンナは溜め息を吐きつつ宙を見上げ…
「ヨダレ……」
と、一言。
「はっ…? ヨダレ…?」
訝し気に聞くオリビアに、アンナは半眼になって答える。
「はい… ソフィア様を見詰める眼はともかく、口が半開きになっていた上、ヨダレがダラダラと… ソフィア様を間にし、反対側に座られていたセリナ様は勿論、横並びに座っておられた国王・王妃両陛下は気付かれていない様子でしたが… 対面に座っていた私達は、全員がオリビア様のだらしない顔を──」
「ゴボゴボゴボゴボ…………」
あまりの羞恥にオリビアは失神、そのまま湯船に沈んでしまったのだった。
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「よし、これなら問題は無いだろう。アンナ殿、どう思う?」
オリビアは両手の親指に嵌めた指輪を見せる。
その指輪の内側は当然〝円〟だが、外側は4面の鏡になっている。
回して角度を調整する必要は生じるが、上手くすれば食事しながら自身の表情を確認出来る。
「鏡の大きさは1枚が1㎝程度… オリビア様の視力なら充分な大きさでしょうし、食事しながら手元を見るのは不自然ではありません。ただ……」
「ただ…? 何か気になる事でも?」
オリビアの質問に、アンナは言う。
「えぇ… 普段、何のアクセサリーも身に付けないオリビア様が、食事の時だけとは言え指輪を付けている事自体が不自然かと…」
「う~~~~ん………… 言われてみれば、確かになぁ…… しかし、他に良い方法も無いし……」
言われて悩むオリビアだったが、そこにセリナがやって来る。
そしてオリビアの指に嵌まった指輪を見て言う。
「それ、良いですわね♪ ただ、その材質って鏡ですの? だったら剣を握る側は無い方が良いんじゃありません? 少し強く握ると割れそうですもの」
なるほどと思うオリビアとアンナ。
更にセリナは続ける。
「それに、普段からアクセサリーを付けてないって事ですけど、今付けている指輪とかブレスレットとかアンクレットみたいなモノを、ブラブラしないサイズで付ければ邪魔にもならないし気にもならないのではなくて?」
「確かに…… ネックレスとかペンダントなんかだと、ブラブラして邪魔…… と言うか気になりますね。そりゃ、戦闘時には外せば良いじゃないかとは思いますが、戦闘ってのはいつ始まるか判りませんからねぇ…」
「それはそうですわね… だけど何故、今まで付けていなかったアクセサリーを付けようと思われたんですの?」
セリナに聞かれて理由を言うオリビア。
聞きたくない理由を聞かされたセリナに呆れられながらも、その日からオリビアは然り気無くアクセサリーを身に付ける様になった。
もっとも、観察眼の鋭いソフィアには一瞬で見付かっていたのだが…
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「最近のオーリャさん、お洒落に目覚めたんでしょうか? ぶれすれっととかあんくれっとって言うんですか? あれこれ日替わりで付けてますねぇ…?」
「そうですよねぇ… 何だか最近、街のアクセサリーショップに出入りしている姿を度々見掛けますし… ただ、親指の指輪だけは同じモノを付けてらっしゃいますけどね」
「ブレスレットやアンクレットは何種類も持ってて日替わりで付け替えてるのに、指輪だけは同じモノなのよね… 何か理由がある気がするんだけど…」
オリビアがアクセサリーを身に付け始めた理由が分からず、あれこれ考えながら話すソフィア、シンディ、ナンシー。
そんな会話を交わす3人の後ろに控えるアンナはボソッと呟く。
(まぁ、オリビア様の指輪は『自身のだらしない顔を確認する為のモノ』だものね… ナンシーだけは、その事を正確に… と言うか、本能的に察知したみたいね… 本能的と言って良いかは微妙な感じだけど…)
こうしてオリビアの作戦(?)は、一応の成功を(疑問を抱いたナンシーを除いて)収めたのだった。




