第90話 オリビアとアンナの会話、あれこれ
「聖光矢雨!」
セリナの〝力ある言葉〟で、上空にに光の円盤が出現し、そこから光の雨が降り始める。
以前と違い、標的の大岩は光の雨に因って粉砕される。
すぐさまセリナは召還士が呼び出した上位悪魔に向かって空間封鎖を発動させる。
「空間封鎖!」
上位悪魔は空間封鎖に閉じ込められて動けなくなり、ソフィアの放った聖魔滅砲で屠られたのだった。
しかし…
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁあああああぁぁぁぁ…………」
セリナは何度か大きく苦し気な呼吸を繰り返し、やがて失神したのだった。
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「はぁ…… まだ最大魔力容量はギリギリみたいですわね… なんとか聖光矢雨と空間封鎖を発動させる事は出来ましたけど… それで失神してる様では、ソフィアさんの〝魔王退治〟に協力するどころか足手纏いに成り兼ねませんわね…」
王宮の聖女邸の自室で失神から覚めたセリナは、頭を抱えて悩んでいた。
傍に控えていたミランダは、即座にお茶を淹れてセリナに差し出す。
そして、一気に捲し立てる。
「マッカーシー大司教様はセリナ様に感心しておられました。失神してしまったとは言え、聖光矢雨と空間封鎖を完全な状態で連続使用… それも、ソフィア様から教わってから何ヶ月も経っておられませんでしょう? マッカーシー大司教様が仰るには、元のセリナ様の最大魔力容量から考えると、聖光矢雨と空間封鎖を完全な状態で連続使用するには、最低でも半年以上は最大魔力容量の底上げに費やす必要がある筈だとの事でした。それを僅か2ヶ月ちょっとで成し得たワケで──」
「そんなに一気に話さないで下さいまし… 寝起き… と言うか、私は失神から覚めたばかりなんですから、まだ頭がハッキリしてませんのよ…?」
「それは、申し訳ありませんでした…」
セリナのクレーム(?)に、ミランダは軽く頭を下げて詫びる。
が…
「ですが、聖光矢雨と空間封鎖を完全な状態で発動させる事は出来ても、先程セリナ様が仰られた様に、それで失神してる様ではソフィア様の足手纏いに成り兼ねない事は確かかと…」
「ハッキリ言い過ぎですわよ! …でもまぁ、私自身がそう言ってますものね… 否定出来ないのが悔しいですわ…」
ズバリ、ハッキリ言うミランダに、肩を落とすセリナだった。
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「そうなんですね…? でも、まだ魔王が復活する兆しも見えませんし、まだ焦る時期でもないでしょう。と言っても、楽観視してもいられませんが…」
マッカーシー大司教が懸念を示すと、ソフィアは首を傾げつつ…
「うぅ~ん… でも、考えてみたら、セリナさんが聖光矢雨を使う必要は無いんじゃありませんか? 私が地面鉄化で魔王が地中に逃げられなくして、そこにセリナさんが空間封鎖を二重に発動して魔王の逃げ場を無くす。空間封鎖を発動させる魔力量は聖光矢雨の半分程度ですから、今のセリナさんの最大魔力容量なら余裕ですよね♪ その上で、私が聖光矢雨と空間圧縮で魔王を弱体化させ、止めに聖核爆滅を使えば、まず間違いなく魔王を倒せるでしょう。仮に1回の聖光矢雨と空間圧縮と聖核爆滅で魔王を倒せなくても、もう1回聖光矢雨と空間圧縮と聖核爆滅を使えば…」
と話すと、オリビアが慌てて苦言を呈する。
「待って下さい! いくらソフィア様でも、2回連続で聖光矢雨と空間圧縮と聖核爆滅の3連発… 合計で6連発など、さすがにソフィア様でもキツ過ぎるのではありませんか!? そもそも、ご自身で2回が限界だと仰っていたではありませんか!?」
するとソフィアは…
「まぁ、確かに… 今の私では、それが限界ですからね… でも、私もセリナさんみたいに一つ一つの魔法に使う魔力量を減らす訓練をしてるんです。ですので、もう少しで3回の連続使用が出来そうな感じなんですよね♪」
軽く言うソフィアに、オリビアは目を丸くし…
「3回!? もうそんなに最大魔力容量を増やされたのですか!?」
と、驚きの声を上げる。
勿論、一緒に話を聞いていたマッカーシー大司教もである。
しかし、当のソフィアは…
「えぇ、思っていたより早く最大魔力容量が増えたんで、自分でも驚いてるんですけどね♪」
と、あっけらかんと答え、2人を呆然とさせたのだった。
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「やっぱりソフィアって規格外よね… 生活魔法しか使えない私が言うのも何だけど…」
「ナンシーの言う通りですね。2回発動させるのが限界だった聖光矢雨と空間圧縮と聖核爆滅の3連発… これは単純計算でも、使用魔力量が1.5倍になる事を意味しています。ソフィア様… いったい、どの様な鍛練を…?」
ナンシーの言葉を受け、アンナがソフィアに問う。
当のソフィアはあっけらかんと…
「簡単ですよ♪ 自分が使える魔法の中で、一番魔力量を多く使う魔法を使えるだけ使って魔力枯渇させただけです♪ さすがに物凄い脱力感に襲われましたけどね…」
「「当たり前よ…」ですよ…」
ナンシーとアンナの呆れた言葉が、微妙にズレつつハモったのだった。
「それにしても… セリナ様が最大魔力容量の底上げを始めたのが2ヶ月程前… それとほぼ同時期にソフィア様も最大魔力容量の底上げを始められたんですよね…? ジルに聞いた話だと、セリナ様も完全な形での聖光矢雨と空間封鎖の発動に成功させられましたが、最大魔力容量が限界だったのか失神… ですが、空間封鎖だけなら余裕で2回発動させられるだけは最大魔力容量の底上げ出来ているとか…」
オリビアが言うと、アンナが目を丸くする。
「もうそこまで…? 確かにセリナ様は、ソフィア様の役に立とうと努力されていると聞き及んでおりましたが… かなり成長されていますね… これなら、いつ魔王が復活しても安心かと…」
するとオリビアは首を振る。
「いいや、安心は出来ない。飽くまでもソフィア様とセリナ様が行っているのは、魔王を倒す為… 魔王を滅ぼす為の努力だ。その前の露払い… つまり、魔王の前に立ち塞がる魔獣や魔物、悪魔を倒さなければならないんだ。そして、その負担をソフィア様やセリナ様に負わせるワケには行かない… だろ?」
オリビアの言葉に、アンナは神妙な面持ちになる。
「それは… 確かに… では、どうなさりますか? オリビア様はマクレール公爵閣下の御息女であられますが、近衛兵や王国軍に対する権限は──」
「あぁ、魔物や魔獣なんかを討伐する場合の指揮権は持ってる。しかし、それ以外… つまり、普段の訓練内容なんかへの口出しは出来ないな。その権限はロベルト・アレックス騎士団長が持っている」
オリビアの話を聞いてアンナは…
「ロベルト・アレックス… あぁ、セリナ様の護衛に就いたシルビア殿の父君でしたね… なら、彼女を通じてアレックス騎士団長に伝えれば、間接的とは言え訓練内容に口出し… と言うと語弊がありますが…」
「いや… アンナ殿の言う通り、シルビアを通せば私の思い通り… って、こっちの方が誤解を招きそうだな… とにかく、近衛兵にせよ王国軍の兵士にせよ、現状でも魔物や魔獣なら軽く倒せるのは間違い無い。だが、上位悪魔は勿論、下位悪魔が相手では、満足に戦えるかすら怪しいだろうな…」
オリビアは腕を組み、表情を曇らせてソファーに凭れ掛かる。
アンナはオリビアの言葉と表情に、かつて彼女が言った言葉を思い出す。
それは、闘技場で行われた『武闘大会』…
その中の〝下位悪魔 vs 魔導師〟で、魔導師が下位悪魔を魔導刃の一撃で屠った際、不満気に漏らした一言…
『まぁ、あの程度の下位悪魔なら、私でも剣に魔力を纏わせれば一撃で屠れますけどね…』
だった。
「なるほど… つまりオリビア様は、自分が近衛兵や王国軍兵士を指導する事が出来れば、下位悪魔や上位悪魔を相手にしても、苦も無く… とまでは言いませんが、ソフィア様やセリナ様の露払いでしたか…? 少なくとも、お2人が魔王と対峙するまで余計な魔力を消費しない様に、壁役として戦う事が可能になるまでに鍛えられると仰られてるワケですね?」
淡々と話すアンナに、オリビアは眉を顰め…
「アンナ殿… 今の貴殿の言葉、何だか凄~く刺々しく聞こえたんだが… それは私の気の──」
「気の所為です」
オリビアの言葉に被せる様に言うアンナ。
だが、その頬には一筋の汗が流れていたのだった。




