第89話 再浮上したオリビアのレズ疑惑
セリナの護衛となったシルビアと、側近となったミランダ。
彼女達にセリナが聞く。
「シルビィにミランダ、貴女達は何歳ですの? それと、納得した上で私の護衛と側近になられたのかしら?」
セリナの質問に、シルビアはビシッと敬礼。
「はっ! 私は先日15歳になりました! そして、先程も申しました様に、私が自らセリナ様の護衛に立候補致しました! 故に、納得ではなく希望しての事であります!」
「そ… そうですのね… で、ミランダは…?」
シルビアと違い、ミランダは淡々と答える。
「私は16歳です。側近となるのに納得するも何もありません。上司からの命令であれば、私自身に命の危険が無い限り拒否する事はありませんので」
あまりにも素っ気ない回答に少しばかりムッとしたセリナだったが、聖クレア王国に来てからの様々な経験をした事で、感情的になる事は無かった。
が…
「そ… そうですのね…? で、その〝上司〟とは誰ですの…?」
俯いて眼を閉じ、肩を震わせながら聞く姿にマッカーシー大司教とオリビアはコッソリと話し合う。
(聖クレア王国に来た頃と比べれば、かなり感情を抑えられる様になられたと見受けられますな…?)
(えぇ… しかし、ソフィア様と比べると、まだまだ感情の起伏が激しいと言わざるを得ません… いや、ソフィア様と比べる事自体、間違いなのかも知れませんが…)
するとセリナは2人をジト目で見つつ…
「聞こえてますわよ…? まぁ、否定はしませんわ? まだまだ私自身、自分の感情を制御し切れていないと言う自覚はありますもの…」
と、肩を落とす。
「でも… だからこそ、魔法のコントロールが完璧にならないのだと思ってもいますの! ですので、まずは感情のコントロールを少しでも… って、話が逸れてしまいましたわね。えぇと、何を話してましたっけ…?」
「私に『セリナ様の側近になる』事を命じた〝上司〟が誰なのか…? でしたね」
ミランダが言うと、ハッとするセリナ。
「そ… そうでしたわ! で、その〝上司〟って誰ですの…?」
ミランダはセリナの様子を見て苦笑し、少し表情を和らげて話す。
「マクレール公爵様です。実は私、1ヶ月程マクレール公爵家の侍女として働いていたのですが、公爵様からセリナ様の側近として働く事を命じられました」
ミランダの言葉に驚いたのはオリビアだった。
「父上が!? それは何故…?」
「一言で申せば、セリナ様が国王陛下だけでなく、貴族様達や大臣様達にも〝自身に護衛を付ける事を直訴されたから〟ですかね? それから何度も〝誰をセリナ様の護衛にするか〟が話し合われたとか… こう言っては何ですが、当時のセリナ様の貴族様達や大臣様達からの評判は悪かったと聞き及んでおります。故に、今になってようやく決まったと言いますか…」
ミランダの発言を受け、シルビアは頷きつつ後を継ぐ様に話し始める。
「私はセリナ様が護衛を欲してると聞き、すぐさま立候補したのですが… 『立候補したからと言って、実力も判らない者を安易に聖女の護衛に任命する事は出来ない』と言われまして… 近衛兵の中でも上位の実力を持つ10名との模擬戦… 木剣での立ち会いですね。それに勝ち残ればセリナ様の護衛として採用すると言われまして…」
話を聞いたオリビアは、納得した様に頷く。
「なるほど… で、その模擬戦を勝ち抜いてシルビアはセリナ様の護衛として認められた。ミランダは… その結果を見据え、父上が側近として仕える事を命じたってトコか?」
シルビアとミランダはコクリと頷く。
すると、ここまで黙っていたソフィアが疑問を口にする。
「シルビアさんが実力でセリナさんの護衛になったのは解りますけど、どうしてオーリャさんのお父さんがセリナさんの側近を決めたんでしょう…?」
首を傾げるソフィアに、ミランダ自身が答える。
「それはきっと、私が何事にも動じない性格だからではないでしょうか? 自分で言うのも何ですが、私は『感情の起伏に乏しい』とか… 酷い時には『感情が無いのではないか?』と言われておりまして… まぁ、そんな性格だからこそ、逆に『感情の起伏が激しい』と言われるセリナ様の側近として丁度良い… と、マクレール公爵様が思われたのではないかと…」
ソフィアは更に首を傾げる。
「セリナさんって、そんなに感情的でしたっけ…?」
その言葉に、セリナを含めた全員が固まった。
自ら〝何事にも動じない性格〟だと公言したミランダを除いて…
「ソ… ソフィアさん…? 私が自分で言うのも何ですが… 私自身、自分が感情的な事は自覚しておりますわよ…? それに、先程も言いましたわよね…? 私自身、『自分の感情を制御し切れていないと言う自覚はある』『だからこそ、魔法のコントロールが完璧にならないのだと思ってる』と…」
疲れた表情で語るセリナの言葉とは逆に、ミランダは淡々と続ける。
「感情を制御し切れていない… と言う自覚はあっても、ソフィア様の様に感情を抑え込むには修行が足りませんね… そして、だからこそ魔法のコントロールが完璧にならないのだと思ってるとの事ですが、感情のコントロールと魔法のコントロールは別物なのではありませんか? まぁ、これは私の勝手な想像に過ぎませんので、その辺りの話はマッカーシー大司教様とされた方が良いのではないかと…」
辛辣と言えば辛辣…
が、的を射ていると言えば的を射ているミランダの発言。
しかも何の感情も無く、淡々と事実と思われる事のみを話すミランダの言葉に、全員が納得するしかないのだった。
そして、ミランダの言葉を受けたマッカーシー大司教が頷きながら話し始める。
「確かにミランダさんの言う通り、感情のコントロールと魔法のコントロールは別物ですな。感情のコントロールが苦手でも、魔法のコントロールに長けた人物は多く居ります。ただ、セリナ様が仰る様に、感情の細かいコントロールと魔法の細かいコントロールは似ている部分も無いとは言えません」
「なら、セリナさんの努力は無駄じゃないんですね? セリナさん、感情と魔法のコントロール、これからも頑張りましょう♪」
と、ソフィアはセリナに抱き付き発破を掛けるのだが…
「ソフィア様… 話がややこしくなりますので、ここは一旦お下がり下さいませ」
ミランダに素気無くセリナから引き剥がされてしまう。
すると…
「ちょっ… せっかくソフィアさんが私をハグしてくれましたのに、何て事をしてくれますの!?」
と、セリナは激昂。
しかし…
「ミランダ、よくやった♪ 聖女たる者、誰かを簡単にハグするのは問題になりかねないからな。特に、ソフィア様にハグされたい者は多い。私自身、ソフィア様にハグされたい、ソフィア様をハグしたいとの想いを隠すのに、どれだけ苦心しているか…!」
思わず本音を漏らしたオリビアを、全員が冷めた眼で(ドン引きしながら)見ていたのだった。
【追記】
結果的に、自らの言動で自らのレズ疑惑を深めてしまったオリビア。
必死になって、言動の真意を『ソフィア様を聖女として敬愛するあまりの失言』だと説明しまくったのだが…
以前からの言動の態度も相まって、結局オリビアのレズ疑惑は解消されなかったのだった。




