第86話 ソフィアとマッカーシー大司教の悩み
「お父様、セリナ姉様から手紙が届いたそうですわね? 何が書いてありますの?」
「セリナ姉様って、歴代の聖女を上回る能力をお持ちの史上最高の聖女なんでしょう? 大活躍された事の報告なんですの?」
2人の娘がガディッツの部屋に入りながら口々に言うが、当のガディッツは手紙に目を落としたまま唸っていた。
「「お父様…?」」
娘2人が再度声を掛けると、ようやく気付いたガディッツは手紙から目を離す。
「おぉ、来たか。ミリア、モニカ。まぁ、そこに座りなさい」
ガディッツに促され、対面のソファーに座るミリアとモニカ。
再び手紙に目を落とすガディッツに、ミリアとモニカは訝しげな表情になり…
「あの~、お父様…? それ、セリナ姉様からの手紙ですわよね…?」
「いったい、何が書かれてますの…? 随分、真剣に読まれてますけど…?」
と、心配そうに聞く。
ガディッツは手紙を読み終えるとテーブルに置き、スッと2人の方に滑らせる。
2人は手紙に手を伸ばすが、手に取る前にガディッツが言う。
「まず最初に言っておく。お前達が言っていた、セリナが歴代の聖女を上回る能力を持った史上最高の聖女と言うのは間違いだ」
「「はぁっ!? それって、どういう事ですの!?」」
2人がセリナを〝歴代の聖女を上回る能力を持った史上最高の聖女〟だと思っていたのは、ガディッツがセリナを聖クレア王国に送る前にグレッディ王国国王であるカール・グレッディとのやり取りを伝えていたからである。
その事を聞いた2人は、姉を誇らしく思っていたのだが…
ここへ来てそれが間違いだと言われ、2人は揃ってガディッツに食って掛かる。
「ど~ゆ~事なんですの!? セリナ姉様が〝歴代の聖女を上回る能力を持った史上最高の聖女〟だと仰ったのは、国王陛下とシュナイダー大司教様だと聞き及んでおりますわ!」
「ミリア姉様の仰る通りですわ! お父様、どう言う事ですの!? 説明を求めますわ!」
2人の剣幕に、ガディッツは疲れた様に手紙を指差し…
「それはセリナからの手紙を読めば解る… 私もお前達と同じく、当初はセリナが史上最高の聖女だと思って浮かれていたのだがな…」
言われて2人は手紙を手に取り読み始める。
手紙を読み進める内に2人の表情は徐々に曇り、やがて絶望感を漂わせる。
「セリナ姉様の〝聖女への目覚めの輝き〟は7日… それを倍も上回る15日…? 単純計算で、最大魔力容量がセリナ姉様の256倍…?」
「しかも、それが僅か8歳の幼女で、セリナ姉様も使えない魔法を軽々と操ってみせた…?」
「セリナ姉様が魔法対決で為す術も無く負けた…?」
「ソフィアって聖女が軽く行使する魔法をセリナ姉様は形だけの発動に留まった…?」
手紙を読み終えた2人は、半ば放心状態でガディッツに言われる。
「手紙を最後まで読んだか? セリナはソフィアと言う聖女に負けた事に依り、考え方を改めたそうだ。まぁ、セリナは自身が実力を認めた相手は徹底的に崇拝する性格だからな… 今ではソフィアと言う聖女にぞっこんの様だ。そして、今まで傲慢でいた事を殊更に恥じているのだそうだ… そして、お前達への忠告として、自分の様に恥を掻く前に傲慢である事を止める様に… との事だ」
ガディッツの言葉にミリアとモニカは互いに顔を見合せる。
そして…
「恥ずかしい思いは…」
「したくありませんわね…」
と、互いに頷き合い、態度を改める事を決意したのだった。
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「上手く妹達を説得できたてでしょうか…? 何だか自信がありませんわ…」
手紙を出して半月。
早馬の便で送ったセリナだったが、妹達の傲慢さを抑える事が出来たか不安だった。
自らの恥を晒してまで説得の文言を考えておいて、何の効果も無かったらと思うと居ても立っても居られないのだった。
そんなセリナに、ソフィアは…
「えぇと… セリナさんって、何か恥ずかしい事しましたっけ…?」
と、全く自覚の無い事を言ってのける。
「何を仰ってますの…? 私、ソフィアさんに魔法対決で散々に負けたでしょう…? それに、ソフィアさんが軽く使える聖光矢雨も、私では形だけしか発動出来なかったじゃありませんか…」
ソフィアの自覚の無さに呆れつつ、セリナは自身の苦い過去(とは言っても最近の話だが…)を話す。
話を聞いたソフィアは宙を仰ぎ、思い出す。
「あぁ~、そんな事もありましたねぇ… でも、気にしなくても良いと思いますよ? セリナさんの魔力を抑えて魔法を発動させるってのも順調みたいですし… 私の見た感じですと、もう少しで聖光矢雨を2回発動させる事が出来るんじゃないですかねぇ?」
「本当ですの!?」
ソフィアの言葉に、驚きつつも満面の笑みを浮かべるセリナ。
喜びを隠せないセリナは無意識に飛び跳ねてしまう。
が…
「え… えぇ… 今の感じだと、威力を少し落とせば2回は使えそうな感じですね♪」
「え…?」
続くソフィアの言葉に困惑する。
「威力を少し落とせばって… どの程度落とすんですの…?」
「う~ん… だいたい20%とも落とせばって感じでしょうか? ですので、もう少し最大魔力容量を増やす事が出来れば、威力を落とさなくても完全な形で使える様になるでしょうね」
ソフィアに言われ、セリナは考える。
(もう少し最大魔力容量を増やせば、聖光矢雨を完全な形で発動出来る… 威力を20%も落とせば2回は発動出来る… でも、それは逆に完全な形で聖光矢雨を発動させるのが限界、威力を20%落としても2回が限界って事ですわね…? そしてそれは、その状態で聖光矢雨を行使すれば… 完全な形でなら1回、威力を落としても2回行使すれば、忽ち魔力枯渇に陥るって事ですわね… 私はソフィアさんから空間封鎖で魔王を拘束する事を頼まれているワケですから… 今の私がソフィアさんをフォローするなんてのは烏滸がましいですが、一発ぐらいは聖光矢雨で魔王を牽制、その後で空間封鎖で魔王を拘束するぐらいの事は出来る様にならなくてはいけませんわね…)
セリナは強く決意し、更なる自らの最大魔力容量の底上げに邁進するのだった。
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「最近のセリナさん、なんだか頑張り過ぎてませんか? マッカーシー大司教様からも、少し休む様に言って貰えないでしょうか?」
ソフィアがセリナと話してから1週間。
セリナは毎日魔力枯渇で倒れるまで魔法を使っていた。
そして、翌日には魔力を回復させるポーションを飲んで魔力を回復させ、また魔力枯渇で倒れるまで魔法を使うのである。
その様子を見ていたソフィアは無茶が過ぎると思い、休む様に言ったのだが…
「休んでる場合ではありませんわ! 少しでもソフィアさんの役に立てる様に頑張らなくては!」
と、全く聞く耳を持って貰えなかった。
そこでマッカーシー大司教に相談したのだった。
相談を受けたマッカーシーは、困惑した表情でソフィアに答える。
「実は先日、私も同じ事を思ってセリナ様に進言したのです。ですが、私の時もソフィア様の時と同様、全く聞く耳を持って貰えませんでした。恐らくですが、セリナ様は焦っておられるのでしょう。今のままでは魔王が復活した時、場合に依ってはソフィア様の足を引っ張ってしまうかも知れない。魔王を倒す事が出来ず、逃がしてしまう事になるかも知れないと… そうなると、また200年後の人々や聖女に迷惑を掛けてしまうかも知れないと… セリナ様は責任感が強い方ですからな…」
そうマッカーシーは言い、ソフィアと共に無理をし過ぎるセリナに対して悩むのだった。




