第84話 セリナの気合い
3つの強力な攻撃魔法を連続で放つと聞いた面々は、そんな事が可能なのかとソフィアに詰め寄ったのだが…
ソフィアの答えは意外なモノだった。
「3つの魔法を連続で使ったとして、私の最大魔力容量からは半分ぐらい失いますかね? あ、地面鉄化は展開する範囲次第ですが、だいたい火球10発~20発ぐらいの魔力量で展開出来るので心配要りません。ですけど、聖光矢雨、空間圧縮、聖核爆滅の連続使用は、どれだけ頑張っても今の私では2回が限界でしょうけど…」
若干不安気ではあるものの、かなりの破壊力を持った魔法3つの連続使用を、限界とは言え頑張れば2回行使可能と言ったソフィアに対し、驚愕するマッカーシー大司教。
他の面々は、イマイチ理解していないのか、呆けた表情だった。
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「凄まじい威力であったな、あの空間圧縮と言う魔法は… だが、その魔法を以てしても倒せぬのが魔王か… 歴代の聖女の誰も倒せなかったと言うのも頷けるのぅ…」
王宮の自室に戻った国王は、椅子に凭れて宙を仰ぎながら呟く。
「そうですわね… 魔王とは、それだけ脅威と言える存在なのでしょう。ですけど陛下… 倒せなかったとは言え、魔王の魔力を地上に居られなくなるまで削っただけでも、歴代の聖女の成した事は素晴らしい功績と言えますわよ?」
国王の呟きに、王妃は微笑みながら応える。
「そうじゃな… 魔王を倒せなかったとしても、追い払ってくれただけでも僥倖と言えよう。その意味では、歴代の聖女様には感謝じゃな。そして、その魔王をソフィア様なら本当に倒せる可能性がある。セリナ様も魔法の鍛練に励んでおられるし、良い兆候じゃな♪」
国王も王妃に満面の笑みで応えるのだった。
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ソフィア達は場所を移し、大聖堂の聖女邸の食堂で話を続ける。
「今の私では… と、仰いましたな? それはつまり、今は2回行使するのが限度でも、ゆくゆくは3回行使する事が可能だと言う事ですかな?」
「そうですね… 私がセリナさんみたいに少ない魔力量でそれぞれの魔法を発動させる事が出来れば、3回は攻撃出来るんじゃないかな~と思うんですけど…」
マッカーシー大司教が聞くと、ソフィアは考えつつ答える。
勿論、口で言う程容易い事ではない。
火球や雷撃の様な、元々多くの魔力量を必要としない魔法ならばともかく、膨大な魔力量を必要とする魔法を魔力量を抑えた状態で発現させる事自体、無謀とも言える。
「ソフィア様ですら頑張って2回行使するのが限度の魔法を、魔力量を抑えて行使する事で3回ですか… さすがに難しいのではありませんかな? 勿論、2回行使した後に残る魔力量にも由りますが…」
ソフィアの答えに、マッカーシー大司教も考えつつ疑問を呈する。
するとソフィアは…
「そうなんですよねぇ… 聖光矢雨も、空間圧縮も、聖核爆滅も、発動させるには膨大な魔力を消費しますから、そもそも発動させる膨大な魔力量を抑えるって事自体が無謀なのかも知れませんねぇ…」
と、首を捻りながら答え、マッカーシー大司教は勿論、話を聞いていたオリビア達も頷くのだった。
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ソフィアから〝空間封鎖〟で魔王を拘束する事を頼まれたセリナ。
彼女は毎日の様に修練場へと通い、如何にして少ない魔力量で魔法を発動させるかに腐心していた。
ソフィアの弁に依れば、空間封鎖は聖光矢雨の半分程度の魔力量で発動出来るとの事だが、聖光矢雨を完全な状態で発動出来ないセリナでは、1回発動させるのが精々だった。
2回発動させる事も可能と言えば可能だったが、現在のセリナの最大魔力容量では間違い無く魔力枯渇を起こしてしまう可能性が高かった。
その為、修練場でセリナが空間封鎖の発動修練を行う際には必ずマッカーシー大事件が付き添い、無茶をしない様に気を配っている。
これはソフィアからの懇願だった。
人を観察する事に長けているソフィアは、セリナの事を『傲慢に振る舞っているが、責任感が強い』『責任感が強いが故に、時に無茶をする』と視ていた。
「相手の微妙な表情の変化で何を考えてるのかを読めるのにも驚きましたけど… ソフィアさんって、そんなトコまで読めるんですのね…? 観察眼が鋭いなんて言葉で片付けられる程度の鋭さじゃありませんわよ…」
「それは、ソフィア様の見立てが正しかった… と言う認識でよろしいのですかな? セリナ様は『傲慢に振る舞っているが責任感が強く、それ故時に無茶をする』のだと…」
マッカーシー大司教が聞くと、セリナは気恥ずかしそうに頷く。
「はぁ… これでも伯爵家の長女であり長子ですもの… ゆくゆくは伯爵家を継ぐ器量を有する子爵家あたりの次男以下を婿養子に迎えるか、私自身が女伯爵として家を継ぎ、やはり婿養子を迎えて家を存続させなければいけないんですもの。責任感は芽生えますわよ… 侯爵家や公爵家、あわよくば王家に嫁げるかも知れないと考えた事もありますけど… 妹達は、私の傲慢… だけではありませんけど、悪い所ばかり見て手本にしてましたから、伯爵家を継がせるには責任感が足りませんわ。勿論、他家に嫁ぐとしても問題でしょうけど…」
思いの丈をブチ撒ける様に話すセリナ。
そんなセリナにマッカーシー大司教は優しく微笑み、一つの提案をする。
「妹君達も、いずれは気が付くでしょう。人は失敗を繰り返して成長するのです。セリナ様も、ソフィア様との魔法対決で実感なされた筈でしょう。心配ならば手紙でも書き、それとなく責任感を育む様に促しては如何ですかな?」
「それとなく…? つまり、直接的な表現を避けて、自らが責任感を育む様にって事ですの…? それは何故ですの…?」
マッカーシー大司教の提案に、首を傾げるセリナ。
マッカーシー大司教は、にこやかに話を続ける。
「傲慢な性格であるならば、そのままズバリと『責任感を持て』と書いても反発心を抱いてしまう可能性が高いでしょう? ですので、自らの意思で『責任感を育まなくてはいけない』と思わせる様な内容を… と、言うのは簡単ですが、なかなか難しいですな。私はセリナ様の妹君達を知りませんので、アドバイスも出来ませんし…」
苦笑するマッカーシー大司教。
が、それは仕方無い事だと理解したセリナは、意を決した様に頷く。
「解りましたわ。妹達に私の現状を伝えた上で、自ら責任感を育む事を促す手紙を書きますわ。そうしないと、私も後顧の憂いなく魔法の修練に集中出来ませんもの!」
と、あれこれアドバイスしたマッカーシー大司教自身が、思わず後退る程の気合いを見せたのだった。




