第82話 ソフィアの勉強、セリナの鍛練… そしてソフィアの提案
ソフィアは毎日、一般常識…
と言うか、一般的に理解出来る言葉の勉強に取り組んでいる。
僅か3歳で戦争のゴタゴタに巻き込まれ、5歳で奴隷商に売られた為、知らない言葉が多過ぎた。
だが、勉強の甲斐あって、徐々にではあるが様々な言葉を覚えていっていた。
「今日はここまでにしておきましょう。あんまり多くの言葉の意味を説明しても、忘れてしまったり混同してしまいますからね」
「そうですね… 似た言葉も多いですし、意味を履き違えて覚えたら勉強してる時間が無駄になりますから…」
アンナが言うと、ソフィアも納得して頷く。
そのソフィアの一言に、アンナは思わず目を細める。
以前のソフィアなら『履き違える』などと言う言葉は使わなかったし、アンナの言った『混同』と言う言葉に首を傾げていただろう。
8歳には少し難しい言葉ではあったが…
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「ソフィア様は随分と勉強が進んでるみたいだな、アンナ殿」
「えぇ。今まで何も知らなかった事が幸いしてか、一般常識に関しては問題無いレベルに達するまでに教養を身に付けておられますね」
大聖堂の聖女邸の一室で、オリビアとアンナが話し込む。
「確かに、一般常識は問題無いレベルに達して下さったんだが…」
「えぇ… オリビア様が懸念されてる様に、魔法に関しては相変わらずご自身のレベルの高さを自覚しておられない様で…」
オリビアの言葉にアンナが困った様に言うと、言ったオリビア自身も困り顔になる。
「そうなんだよなぁ… 以前、セリナ様がソフィア様に聖光矢雨を教えて欲しいって言ってきた事があったろ?」
「あぁ、そんな事もありましたね。セリナ様、光の雨を降らせるまでは出来ましたけど、その範囲を移動させたり殺傷能力を付与させるには至りませんでしたね…」
アンナが思い出しながら言うと、オリビアは頷き話を続ける。
「結局セリナ様は、それだけで魔力を使い過ぎて失神。帰りの馬車の中で、マッカーシー大司教様からソフィア様とセリナ様の最大魔力容量についての話を聞いたよな?」
「はい。確かソフィア様は、単純計算でセリナ様の最大魔力容量の256倍だと仰ってましたね…? 馬車の中にはソフィア様も居られましたから、当然その話は聞いておられたと思いますが…?」
アンナが言うと、オリビアは首を振る。
「多分だけど、聞いてなかったと思う。マッカーシー大司教様の話が終わった後、ソフィア様が何を聞いたか覚えてるか?」
オリビアの指摘にアンナは記憶を辿る。
そして…
「…その話の前にマッカーシー大司教様が仰った言葉… 『愚考』の意味を尋ねてらっしゃいましたね… と言う事は…?」
オリビアは疲れた表情で頷く。
「聞いてなかったって事だな…」
そして、2人揃って盛大に溜め息を吐いたのだった。
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セリナは毎日、如何にして少ない魔力消費で攻撃魔法の威力を高められるかに腐心していた。
以前、聖光矢雨をソフィアに教わったは良いが、魔力が足りずに限界に達してしまった事が悔しかった。
だからと言って、ソフィアに対抗心や敵愾心を抱いたワケでもない。
ソフィアに対する想いは、どちらかと言えば尊敬や思慕の念に近いモノであった。
なので、この〝悔しさ〟は、自身の不甲斐なさに対する〝悔しさ〟だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁあ~~~…」
大きく息をするセリナの前には、大岩が粉々に砕かれたモノが転がっていた。
額から流れる汗が、ポタポタと地面に滴り落ちる。
「セリナ様。本日の鍛練ですが、ここまでにしては如何でしょう? これ以上続けますと、魔力枯渇を起こしてしまいますよ?」
最近のセリナの過酷な鍛練を見兼ねたマッカーシー大司教が苦言を呈する。
いや、苦言と言うよりは進言だった。
会った頃のセリナに比べ、今のセリナにマッカーシー大司教は好感を抱いていた。
確かに最初は高飛車で高圧的で傲慢で高慢で傲岸不遜だった。
が、ソフィアとの魔法対決で惨敗した上、そのソフィアの実力を認めて尊敬の念を抱いて以来、打って変わって魔法の修練に励んでいるのである。
マッカーシーの彼女に対する見方は、180度変わっていた。
その為、最近のマッカーシーは、セリナに付きっ切りで彼女を指導しているのだった。
「そ… そうですわね… 魔力枯渇なんか起こしてしまっては、明日は1日動けなくなってしまいますものね…」
セリナは素直に了承し、馬車で王宮の聖女邸へと帰ったのだった。
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「へぇ~。セリナさん、頑張ってるんですねぇ♪ 私も久し振りに修練場で魔法の鍛練、してみましょうかねぇ?」
大聖堂の聖女邸を訪れたマッカーシー大司教から報告を聞いたソフィアは、嬉しそうに微笑んで言う。
が…
「いや、ソフィア様は一般常識の勉強が先でしょう? それに、こう言っては何ですが、ソフィア様は今さら魔法の鍛練など必要無いのでは?」
オリビアが言うと、アンナ、シンディ、ナンシーは勿論、マッカーシー大司教や執事、メイド達までもが頷く。
「えぇ~っ!? 確かに一般常識の勉強も大切ですけど、魔法の鍛練も同じぐらい大切なんじゃありませんか? それに…」
「「「「「それに?」」」」」
ソフィアが言うと、オリビア、アンナ、シンディ、ナンシーに加え、マッカーシー大司教が同時に聞いてくる。
するとソフィアは少しモジモジしながら…
「それに私、まだまだ試したい魔法があるんですよねぇ… 例えば魔王が地下に逃げられない様に、地面を鉄みたいに硬くする〝地面鉄化〟とか、魔王に対してどんな効果があるか判らないんですけど〝空間圧縮〟とか…」
全く聞いた事の無い魔法の名前に困惑する一同。
そんな中、なんとか言葉を絞り出すオリビア。
「ソ… ソフィア様…? あいあん・ぐらうんどは何となく解るのですが、すぺいしゃる・こんぷれっしょんとは一体…?」
「簡単に言いますと… 例えばですけど、この食堂の空気ですね。それを一点に集中して、文字通り圧縮するんです。それも、ゆっくりではなく一気にですね」
「そ… そうすると、どうなるのでしょうか…?」
すると、マッカーシー大司教は納得した様に頷き、ソフィアの代わりに説明を始める。
「空気は急激に圧縮すると高温になる、と聞いた事がありますな。その性質を利用したのがファイヤー・ピストンと言う発火装置だとか… つまり、魔王に向かって急激に空気を圧縮する事で、魔王自身を発火させようと言う事ですかな?」
ソフィアは頷くが、苦笑して頬を掻く。
「考えとしては、そうなれば良いかな~ってトコですけどね… なので、実験してみたいって思ったんです。実際には修練場より広い空間の空気を圧縮する事になるでしょうけど… だからこそ、実際に使ってみたいと思ったんですよねぇ…」
後日、その実験をしてみた結果、その威力に一同は凍り付いたのだった。




