第81話 アンナとジルの、意地の張り合い?
ソフィアは毎日言葉の意味を勉強し、セリナは魔法の精度を上げる事に腐心していた。
アンナ、シンディ、ナンシーを中心に、ソフィアの世話をするメイド達は勿論、大聖堂に勤める司教や司祭、時には国王一家と親族までもがソフィアに言葉の意味を教えているのだった。
それとは違い、セリナは魔法の精度を上げる為にマッカーシー大司教を初めとして、多くの司祭や司教にも教えを請うていた。
セリナの父、ガディッツが聞いたら信じられない変化だろう。
そしてアンナとジルは…
「…と言うワケでして… げ、現在ソフィア様は魔法の訓練を一時中断し、い、一般常識の勉強に取り組んでおられます… し、司祭様や司教様達の協力もあり、勉強は順調に進んでおります…」
「セ、セリナ様は引き続き、今の魔力量を効率的かつ有効に使って… よ、より大きな効果の魔法に昇華させるべく訓練を続けておいでです… げ、現状ですが効果は出ている様で… い、以前に比べて魔法の威力は格段に上がっている様子です…」
「フム… 現状に於いては、それがベストであろうな。それにしてもセリナ様は随分と変わられたのぅ… 初めて会った時とは別人の様じゃな♪」
「陛下から聞いていたイメージとは全く異なる人物像ですわね♪ 私も一度、お会いしたいですわねぇ♪」
と、最近の2人の様子を逐一報告する事に忙殺されていた。
と言うのも、最近のソフィアとセリナの動向を聞いた国王が彼女達の様子を知りたがり、2人に報告役を命じたのである。
エドワードの妻のタチアナも便乗し、2人の報告を楽しみにしていた。
勿論、アンナもジルも報告の度、ガチガチに緊張していた。
それは仕方が無い。
アンナもジルも平民であり、普通なら国王や王妃と直接話す事などあり得ないのだから。
「そ、それでは本日の報告を終わらせて頂きます…」
「し、失礼致します…」
アンナとジルはエドワードとタチアナに一礼し、そそくさと応接室を後にする。
部屋を出た2人はドアを閉めると…
「「はぁああああああ~… 緊張したぁ~~~~~~…」」
と、その場にへたり込む。
しばらく脱力した後、2人はそそくさと王宮から出て行く。
普通ならジルは王宮の聖女邸に帰り、アンナは大聖堂の聖女邸に帰るのだが…
報告を終えた後、2人は決まって王都の街中へと出掛ける。
さすがに仕事の合間なので酒は飲まないが、代わりにスイーツを爆食いしながら愚痴るのが最近の日課になりつつあった。
「なぁ~~~んで私がこんな緊張を強いられなきゃならないのかしらっ!? そりゃ、メイド長って立場だから報告の義務が生じるってのは解るけど! そんなの… って言っちゃ語弊があるかもですけど、報告書に纏めて提出するだけでも良いんじゃありませんか!?」
ジルがアンナに捲し立てながらもパフェをバクバクと食べまくる。
そんなジルを見ながらアンナは溜め息混じりに言う。
「はぁ………… 貴女の言いたい事は解るわ… けどね、書面に記して渡すだけじゃ、私達を含めて関わっている人達の雰囲気までは伝わらないわよね? …まぁ、あの報告で両陛下に雰囲気が伝わったかどうかは微妙だけど… それでもね? 今回の話とは違うかも知れないけど、言葉で伝える事は大切よ? まだ貴女は若いから解らない事も多いと思うけどね?」
同じくパフェを食べながら言うアンナ。
「とは言うものの… 私も28歳だから、貴女に『若いから』なんて言える歳でもないんだけどね…」
「いえ… 私、もう25歳なので、そんなに変わらないと言いますか… それに、王宮のメイドになって20年になりますから… 見習い期間を含めてですけど」
アンナは驚き、目を丸くしてジルに聞く。
「今、25歳でメイドになって20年!? じゃ、5歳からメイドをやってるって事!?
なら、私と同じぐらい長いじゃない!?」
「5歳で見習いとして働き初めまして、10歳から正式なメイドになりましたね。ですので、正確には15年ですけど…」
サラッと言うジルに、アンナが突っ込む。
「あんまり変わんないし! 見習いでもメイドはメイドだし! 見習い期間を含めたら、私よりメイド経験長いんじゃない!?」
が、ジルはあっさり否定する。
「あ、それは無いかと思いますよ? だって、アンナさんも5歳からメイド見習いとして働いてるんですよね? なら単純に考えて、年齢的にも私より3年長くメイドとして務めている事になります。加えて、アンナさんはバドルス侯爵様の子女の皆さんの侍女兼護衛だったんですよね? なら、単なるメイドでしかなかった私より、一段上の仕事を熟していたと判断しますが?」
アンナは少し考え首を振る。
「それは違うと思うわよ? だって、侍女や護衛とメイドは全く別の仕事だもの。私はエリック様が生まれてからフィリップ様が5歳になるまでの10年間を護衛として過ごしたんだから、その分をメイドとしての期間から引かなきゃダメでしょ?」
アンナの意見を『なるほど』と思いつつも、ジルは逆に意見を述べる。
「確かにアンナさんの仰られる様に、純粋なメイドとしての期間なら私の方が長くなります。ですが、侍女や護衛の仕事はメイドの仕事より遥かに大変ですよね? エリック様、メアリー様、フィリップ様の護衛を務め上げたアンナさんは、やはり私より遥かに優れているのではありませんか?」
「ま… まぁ、確かにメイドの仕事は細分化されてるし、侍女みたいに主人の身の回りの世話をするなんて事も少ないし… それに、護衛みたいに身体を張って主人を守ったり、武術を身に付ける必要もないけど… って、やっぱりメイドと侍女や護衛は全く違うんだから、貴女の方がメイド経験長いじゃない…」
アンナはジルの意見に納得しかかったが、やはりジルの方がメイドとして長いのだと結論着けた。
だが…
「いえ、やはりアンナさんの方が優れていると私は思います。確かにメイドとしての経験だけなら、私の方が長いでしょう。ですが、侍女や護衛の様に専門性の高い仕事を熟してきたアンナさんには敵いませんよ…」
と、ジルは全く譲る気は無い様である。
その後も2人の言い争い(?)は続き、結論が出ないまま解散となった。
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「何を不毛な言い争いしてるんだ、アンナ殿もジル殿も…」
「そうですよ… アンナさんはアンナさん、ジルさんはジルさんで良いじゃないですか…」
「どうでも良いと思うけどね… 結局は主人の役に立ってたかどうかじゃないの?」
話を聞いたオリビア、シンディ、ナンシーが呆れた様に言う。
「いやまぁ、私も少しムキになってしまったと言いますか… 国王陛下や王妃陛下への報告でのストレスと言いますか… 鬱憤晴らしとまでは言いませんが、メイドとしての経験に限ればジルの方が長いのだと自分自身を納得させたかったと言いますか…」
「私も… 少々、意固地になっていたと言いますか、片意地を張っていたと言いますか… アンナさんの方がメイドとしての実力が高いのだと、アンナさんに納得して貰いたかったと言いますか…」
3人から突っ込まれ、アンナとジルは言い訳めいた弁明をする。
が、そこへソフィアとセリナが会話に加わる。
「ん~… そうは言っても、アンナさんもジルさんも、メイドとしての能力は突出してるんですよねぇ…? だからメイド長を任されてるんでしょうし」
「そうですわね。歯に衣着せぬ発言をする部分を除けばメイドとして充分過ぎる程に優秀ですし、何より若いメイド達への教育係としては何の問題もありませんものね」
セリナから歯に衣着せぬ発言と言われ、ムッとする2人だったが…
「でも、それがアンナさんだと思いますし、ジルさんだと思います。まぁ、セリナさんが言う様に、確かに口煩いのも確かでしょうけど」
と、ソフィアに言われ…
「ソフィア様ぁ~?」
「ちょぉ~っと、お話しましょうかぁ~?」
「は… はぃいいい~…」
ソフィアを引き摺る様に奥へと去って行き…
残されたオリビア達は、遮光器土偶の様な表情で見送るのだった。




