第79話 オリビアの暴走(?)でバレたソフィアの出自
まだ8歳のソフィアに『証左』と『証拠』の違いを詳しく説明するのは難しいとのセリナの言葉を受け、マッカーシー大司教は『細かくは違うが、大筋では似た様なモノ』で落ち着かせた。
当のソフィアも…
「えぇと… つまり… もっと私が成長したら理解出来るって事ですか…?」
と、困惑しながらも納得していた。
そんなソフィアの肩にポンと手を置き、セリナは言葉を掛ける。
「成長するだけじゃありませんわよ? ソフィアさんは知らない言葉が多い… 多過ぎますの… それはまぁ、ソフィアさんの生い立ち… は、私も詳しくは知りませんけれど、少なくとも年齢の事を考えると仕方ありませんわね… とりあえず、私がソフィアさんと話す時は、貴女が知らないであろう言葉は説明を加えながら話す事にしますわ。ただ、ソフィアさんにも頼みがありますの。知らない言葉が出てきた時だけ、手を挙げて下さいましね? 知ってる言葉まで説明するのは時間の無駄ですもの」
そこまで言って、セリナはオリビア達の方を向く。
「オリビアさん、アンナさん、シンディ、ナンシー。貴女方は、それで宜しいですわね?」
頷く一同。
セリナはマッカーシーに向き直る。
「では、彼女達以外のメイド達や執事達には、大司教様から伝えておいて下さいませんかしら? 司祭達や司教達に伝え、手分けさせて伝搬させれば早いでしょう?」
マッカーシーは頷き、すぐに部屋を出て行く。
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司祭達や司教達の詰所に着いたマッカーシーは、セリナの案を伝える。
話を聞いた司祭達や司教達は、納得しながらも口々に言う。
「なるほど… 確かにソフィア様は幼いからか、知らない言葉が多いですねぇ…」
「言葉に出すのは憚られますが、僅か5歳から奴隷でしたから仕方ありますまい…」
「いや、それは些細な事でしょう。奴隷であろうと王族・貴族であろうと、誰もが等しく人である事に変わりありませんぞ?」
「然り! 神の名の元に於いて、王族も貴族も平民も奴隷も人間として平等です! ソフィア様の元の身分が何であれ、知らない言葉をお教えするのは我等の使命と言っても過言ではありませんぞ!」
「使命とは、さすがに大袈裟では…? ソフィア様が知らない言葉をお教えするのは、誰でも出来そうな気も…」
「各々方、落ち着かれませ。大司教様からの命は、王宮や大聖堂の聖女邸に勤める執事達やメイド達に、セリナ様の案を伝える事ですぞ?」
「然り。だが、我々もソフィア様と話す機会は少なくない。ソフィア様が知らない言葉をお教えするのは、我等にとっても義務であり責務でありましょう」
口々に言う司祭達や司教達の言葉を聞き、満足気に頷くマッカーシー。
彼はパンパンと手を叩いて注目を集めると、注意事項を伝える。
「では皆さん、各々王宮と大聖堂の聖女邸に向かって連絡を。ただし、王宮の聖女邸に勤める執事達やメイド達は、ソフィア様が平民出身であるとしか知りません。ですので、ソフィア様の元の身分が奴隷であった事は、絶対に言わないで下さいよ?」
マッカーシーの言葉に全員が大きく頷き、王宮の聖女邸と大聖堂の聖女邸に向かって詰所を出ていくのだった。
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「セリナ様、私が奴隷だった事を話しても変な目で見ませんでしたね…」
「そうだなぁ… 以前のセリナ様なら、奴隷だったって聞いた瞬間に目付きが変わったんじゃないか?」
ナンシーが言うと、オリビアが宙を仰ぎながら応える。
確かに以前のセリナなら、ナンシーが奴隷だったと知った瞬間に態度を変えていただろう。
しかし、現時点では何の変化も無かった。
それは現在でも身分の低いナンシーであるからなのかも知れない。
だからソフィアが奴隷であった事を知ったなら、聖女としての能力が遥かに高い彼女に対しても態度が変わる可能性は高い。
「そうですかねぇ…? セリナ様は例の魔法対決でソフィア様が平民出身である事は知りましたが、その事に対する態度の変化は見受けられませんよ? まぁ、平民でさえ見下す奴隷だった事を知られたら、態度が変わる可能性は考えられますけど…」
シンディが考えながら言うと、オリビアとナンシーが成る程とばかりに頷く。
「では、引き続きソフィア様が奴隷であった事は内緒にしておく、と言う事で… まぁ、この大聖堂に勤める司祭様達や司教様達は、私達が言うまでもなく理解していらっしゃいますから、改めて注意喚起するまでもありませんが─」
「問題はソフィアよね… あの娘、ちょっと前にも自分が奴隷だったって事、ポロッと言いそうになってたから…」
アンナの言葉にナンシーが被せる様に言うと、オリビアが辺りを見回しながら問う。
「そう言えば… ソフィア様は何処に…? それに、セリナ様も一緒だった筈だが…?」
一同は部屋──大聖堂の食堂──の中を見渡すが、何処にも2人の姿は見当たらない。
嫌な予感がしたオリビアは、1人のメイドに詰め寄る。
「おいっ! ソフィア様とセリナ様は何処に行った!? えぇと…?」
「エ… エレナです! ソフィア様とセリナ様は、お風呂に入ると浴室に─」
「ソフィア様が風呂なら、私も一緒に入らねばああああぁぁぁぁ…………」
メイドが答えると、次の瞬間オリビアは駆け出していた。
「オリビア様って、やっぱりレ─」
「私達も行きますよ。オリビア様のレズ疑惑はともかく、お風呂で気が抜けたソフィア様が自身の出自を漏らさないとも限らないわ」
あり得なくもない…
そう思ったシンディとナンシーは、アンナの後を追って駆け出したのだった。
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オリビアが浴室の脱衣場に着くと、2人は笑顔で話しながらパジャマ代わりのドレスを着ようとしていた。
「お… 遅かったか… 私とした事が… 不覚…!」
ソフィアと一緒に風呂に入れなかった事を本気で悔やむオリビア。
そんなオリビアを見て、追い付いたシンディとナンシーは思わず呟く。
「やっぱりオリビア様って…」
「ソフィアを愛するレズ─」
「だからそれは違うっ! 誤解だっ! 確かに私はソフィア様を敬愛しているが、レズだの恋愛感情だのとは違うんだっ!」
シンディとナンシーは顔を見合わせ頷き合い、オリビアに聞く。
「それじゃ、一体ど~ゆ~感情なんですか? 私もソフィア様を敬愛していますが、何がなんでも一緒にお風呂に入りたいとは思いませんよ?」
「私もよねぇ… 確かにソフィアはオリビア様の言う通り、敬愛するに値するとは思うけど… オリビア様みたいに添い寝したいとか、何がなんでも一緒にお風呂に入りたいとは思わないわね… てかオリビア様、実際にソフィアに添い寝して、凄く幸せそうでしたよねぇ?」
2人に突っ込まれ、オリビアは思わず言ってしまう。
「ソフィア様は凄いだろぉ!? 見た目の可愛らしさは勿論だけど、元の身分が平民だったにも関わらず、歴代最高と言われる最大魔力容量を誇ってるんだぞ!? しかも、5歳から8歳までの一時期とは言え、奴隷商に売られて過ごしていたにも関わらずだ! そんなソフィア様だからこそ─」
そこまで言って、オリビアの口は塞がれてしまう。
つい先程、内緒にしておくと言った内容を暴露してしまったが為に。
しかし、時既に遅し。
ソフィアが奴隷出身である事は、セリナにしっかり聞かれていたのだった。




