第78話 ソフィアの頭上に?マークが飛ぶ
オリビアがマッカーシー大司教を悲しませたのではなく、感動させて泣かせたのだと判り、ソフィアとセリナはホッとした。
「まったく、紛らわしい事は止めて下さいませんこと? …とは言え、オリビアさんの姉君の為さってる事は、素晴らしいですわね」
セリナはオリビアに文句を言いつつも、アンナとエルザの行為に対しては素直に賞賛するのだった。
「そんな事をしてくれる貴族がランドール王国にも居れば、私も騙されて奴隷商に売られる事もなかったのかもね… まぁ、オリビア様のお姉さんみたいな貴族ばかりじゃないってのも解ってるけど…」
話を聞き、改めて自らの境遇を愚痴るナンシー。
隣で聞いていたアンナは大きく頷く。
「そうよねぇ… 孤児院は教会が運営してるけど、その運営資金は基本的に国からの支援と国民の寄付で成り立ってるのよね… だけど、貴族の殆どは無関心なのが現状だものね…」
ナンシーとアンナの会話を聞いていたセリナが、ナンシーに問い掛ける。
「ナンシー… 貴女、奴隷商に売られましたの? 私、奴隷って生まれた時から奴隷だと思っていたんですの。でも、売られて奴隷になったのなら、私の認識は間違っていたと言う事ですわね…?」
「生まれた時から奴隷って、ど~ゆ~事ですか?」
セリナの感想に、今まで黙っていたソフィアが質問する。
セリナは自身の認識の間違いに、少しばかり頬を赤くしながら答える。
「今にして思えば当たり前の事ですわね… 生まれつき奴隷なんて、不自然と言えば不自然ですもの… で、ソフィアさんの質問ですけれど… 私、奴隷は奴隷同士で結婚して、それで生まれる子供も奴隷だと思っていましたの。でも考えてみれば、奴隷商に居る奴隷が何処にも買われず結婚して子供をって方が不自然ですわね… それに、買われた奴隷同士が結婚して子供が生まれるのは不自然ではないとしても、その子供が奴隷商にってのも変ですしね」
セリナの説明を聞き、ソフィアは納得する。
「なるほどぉ… 確かにそれなら生まれた時から奴隷ですよねぇ… でも奴隷って、孤児とかが奴隷商に売られてってぱたーんが多いみたいですよ?」
ソフィアの言葉にナンシーが付け足す。
「後は犯罪奴隷って言いましたっけ? 何らかの罪を犯して奴隷身分に堕とされる場合があるんですよね。まぁ、私みたいな子供の場合、さっきも言った様に騙されて売られるパターンが多いみたいですけど…」
セリナに対する説明の為か、敬語で話すナンシー。
それを聞いたオリビアが、揶揄う様に言う。
「へぇ~… 初めてセリナ様と対峙した時は噛み噛みだったのに、今はスムーズに話せてるじゃないかw」
言われて真っ赤になるナンシー。
「オ… オリビア様! それは言わないで下さいよ! だいたい、私にソフィアのフリをしろって言ったのはオリビア様じゃないですか!? それも一夜漬けって無茶振りで!」
「まぁ、ソフィア様のフリをするのはナンシーが適任だって言ったのは確かに私だけどさ。それはナンシーならソフィア様と違って、セリナ様から何を言われても言い返せると思ったからなんだが… 一夜漬けで教えたのはアンナ殿とシンディだったけどな…」
オリビアが言うと、ソフィアがアンナとシンディに聞く。
「もしかしてですけど… 今のオーリャさんの言い分って、せきにんてんかってヤツなんでしょうか…?」
「「もしかしなくても責任転嫁ですね…」」
2人はハモって答え、更にアンナが続ける。
「確かにオリビア様の言う通り、私がナンシーに一夜漬けで覚え込ませたのは事実です。ですが、そもそもナンシーにソフィア様のフリをさせようと言い出したのはオリビア様ですよね? 私とシンディは、その提案に乗っただけに過ぎません」
アンナが言うと、ソフィアは素直に納得する。
が、言われたオリビアは冷静に返す。
「提案に乗っただけって言うけどさ、私は2人に『ナンシーに一夜漬けで教えろ』とは言わなかったよな? むしろ、2人は率先してナンシーに教えてたと思うんだけど…?」
「いやまぁ… そう仰られては何も言い返せませんが…」
「私もです… つい、調子に乗ってしまいましたね…」
すると、セリナが訝しげな表情で3人を見詰め…
「要は、私にナンシーをソフィアさんだと思い込ませたかったと…? それって、何の為ですの? あ、何を聞かされても怒る気なんてありませんわよ? ソフィアさんの凄まじい魔法の能力や威力を目の当たりにして、今では自分が傲慢に過ぎていた事を恥じてますから…」
と、顔を赤くしながら言うのだった。
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「はぁ… まさか、バドルス侯爵やマッカーシー大司教までが一枚噛んでたなんて… 私が聖クレア王国に来た時に取っていた態度… それ程までに不快だったって事なんですのね…?」
オリビアとマッカーシー大司教が事に至った経緯を説明すると、セリナはソファーに座って項垂れる。
その様子にマッカーシーは…
「こう言っては何ですが… 聖クレア王国に来られたばかりの頃のセリナ様は、聖女という立場や自らの能力に傲っておられましたな?」
と、問い質した。
セリナは黙って頷く。
不貞腐れているのではなく、恥じているのだと判断したマッカーシーは続ける。
「これは私の想像でしかありませんが… 以前のセリナ様なら、私の言葉に不貞腐れていたのではありませんかな?」
やはり黙って頷くセリナ。
そんなセリナにマッカーシーは優しく微笑む。
「成長されましたね。不貞腐れるのではなく、恥ずかしく思う… それは自らの行いを反省してるという事です。反省するのは成長している証左でもあるのですよ?」
マッカーシーの言葉に顔を上げるセリナ。
その眼には、涙が滲んでいた。
「成長か… 確かに、ここ最近のセリナ様からは傲慢さは感じられませんでしたね…」
「そうなんだが… ソフィア様にベタベタし過ぎているのは問題じゃないか…?」
「それは… それだけソフィア様の実力をセリナ様が認められた… と言うと、セリナ様の方が上っぽい言い方になっちゃいますけど…」
「そんな事、ソフィアが気にするとは思えないけどね。むしろ、他人から認められた事を喜びそうだけどね」
2人のやり取りを見ていたアンナ、オリビア、シンディ、ナンシーが思い思いに感想を述べる。
が、ソフィアだけは何かを考えている。
それに気付いたオリビアが聞く。
「ソフィア様? 何か気になる事でもありましたか?」
「は、はい… あの… 大司教様が仰ったしょうさって、ど~ゆ~意味なのかな~と…」
全員、力が抜けてしまった…
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「なるほど… 『証左』って『証拠』って同じ意味だったんですね?」
納得して頷くソフィアに、マッカーシーが細かく教えようとする。
「意味としては、ほぼ同じです。ただ、『証左』は〝事実を明らかにする拠り所となるもの〟の事で、『証拠』は〝事実・真実を明らかにする根拠となるもの〟の事ですな。『証左』と『証拠』の線引き… と言って良いか判りませんが、私の考えとして『証左』と『証拠』の違いは…」
「ストップ! ストップです、マッカーシー大司教様!」
セリナが思わずマッカーシーを止める。
何事かと目を丸くするマッカーシーに、セリナはソフィアを指差す。
「まだ8歳のソフィアさんに、その説明は難し過ぎますわ。ソフィアさんの表情をご覧下さいまし」
セリナの言葉にマッカーシーがソフィアを見ると…
彼女の表情は完全に呆けており、頭上に多くの『?マーク』が飛んでいる様な幻覚(?)が見えたのだった。




