第72話 セリナの決意?
翌日、ソフィアとセリナは護衛を伴って修練場に来ていた。
セリナが聖光矢雨を教えて欲しいと、ソフィアに直訴した為である。
「えぇとですね、まずは大岩の上空に光の円盤を作り、そこから光の雨を降らせる事をいめーじしてみて下さい」
ソフィアはセリナに、自身が魔法を行使した時の感覚を伝える。
「こ… こうかしら…?」
すると、修練場の上空に光の円盤が出現し、そこから光の雨が降り始める。
その雨は正確に大岩に降り注ぐ。
「良い感じですね♪ 次は、その雨の速度を上げてみて下さい」
「こ… こうですの…?」
セリナが意識を集中すると、降り注ぐ光の雨の速度が増していく。
「そうです、そうです♪ 次は、そのまま光の雨の範囲を動かしてみて下さい」
「動かす!? 無理ですわよ! 今の状態が私の限界ですわっ!」
そう言うセリナは既に息が上がってきていたのか、ダラダラと汗を流している。
そして、ガックリと地に膝を突いたのだった。
「はぁっ! はぁっ… はぁあ~………」
数度、深呼吸を繰り返したセリナは、光の雨を降らせた大岩を見る。
そこには、何の変化も無い大岩が鎮座していた。
「き… 傷一つ付いていませんわよ…? ソフィアさんの聖光矢雨って、魔獣を尽く屠ってましたわよね…?」
言われてソフィアはあっけらかんと答える。
「そりゃあ… 今のは聖光矢雨の光の雨を発現させただけですから…」
「…………は?」
「ただ発現させて、落下速度を上げただけです。本当は、この後に聖光矢雨を移動させたり、さっしょーのーりょくをふよして貰おうと思ってたんですけどねぇ…」
淡々と話すソフィアを、セリナは息も絶え絶えで見つめる。
そして…
「こんな感じですね」
と、聖光矢雨を展開し、光の雨を降らせながら、その範囲を動かしてみせる。
ソフィアの手の動きに合わせ、光の降り注ぐ範囲が移動する。
「で、この光の雨にさっしょーのーりょくをふよするんです」
ソフィアが言うと、それまで単に光の雨が高速で降っていただけの場所が抉れ、地面の土が飛び散る。
更に、大岩の方へ光の雨を移動させると、光の雨の集中砲撃を食らった大岩は、跡形もなく粉々になったのだった。
「ソ… ソフィアさん…? 私が… 同じ事をしようと思ったら… どれぐらい魔力量を増やさなければ…?」
セリナが今にも倒れそうになりながら質問すると、ソフィアは平然と…
「う~ん……… 今、私が使った聖光矢雨ですと、火球だと300発ぐらいのあまうんとでしょうか…? ちなみにですが、ラファネル辺境伯様の救援で使った聖光矢雨だと、火球500発ぐらいのあまうんとですかねぇ… 戦闘で聖光矢雨を使用するなら、少なくとも火球を1000~1500発は撃てるあまうんとは欲しいですねぇ…」
「そんなの… 今の私には… 無理ですわよ…」
言ってセリナは気を失ったのだった。
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大聖堂に戻る馬車の中でソフィアとオリビアは、マッカーシー大司教、アンナ、シンディ、ナンシーと共に、倒れたセリナを介抱しつつ相談していた。
「ソフィア様… セリナ様には、まず最大魔力容量を増やす訓練を受けて頂いた方が良いのではありませんかな? 聖光矢雨の必要魔力量が膨大に過ぎる様なので、そちらの方が重要だと愚考致します」
マッカーシー大司教が言うと、オリビアもウンウンと頷く。
「ソフィア様。マッカーシー大司教様の仰る通りだと、私も愚考致します。過去の文献で学びましたが、聖女の能力は光に包まれて眠っている期間が長ければ長い程高くなる… それも、1日延びる毎に倍になるとも言われているとか… ですので、セリナ様の7日に対し、ソフィア様は15日ですからセリナ様の… えぇとぉ~…」
オリビアはそこまで言って、ソフィアとセリナの差を計算し始める。
…が、計算しきれずマッカーシー大司教に救いの視線を向ける。
すると、マッカーシー大司教は平然と…
「単純に考えてソフィア様の最大魔力容量は、セリナ様の256倍となるでしょうな。仮にですが、一般の魔導師が持つ最大魔力容量は、最大でも聖女の10分の1程度と言われております。それも、最低ラインの聖女です。それを踏まえ、一般の魔導師の最大魔力容量を10、1日眠った場合の最大魔力容量を100とするならば… セリナ様の最大魔力容量は6万4000になります。これまでの歴代聖女の記録では最長3日眠ってましたから1万6000の計算になります… さすがは聖女と言えましょうな。その4倍ともなれば、確かにセリナ様は突出した能力と言えましょう。しかし、ソフィア様は15日間も眠っておられました… 単純計算で、最大魔力容量は1638万4000になるかと… もはや、これ以上の聖女は現れないと言っても過言ではありますまい…」
言って、マッカーシー大司教は遠い目をしていた。
オリビア、アンナ、シンディ、ナンシーが心の底から感嘆した目でソフィアを見るが、そのソフィアと言えば…
「あの… ぐこうって、どう言う意味ですか…?」
相変わらず言葉の意味を理解しておらず、同じ馬車に乗っている面々を脱力させたのだった。
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大聖堂の聖女邸に到着した一行は、食堂で簡単な会議を始める。
「私の最大魔力容量を増やすんですの? それって一体、どうやるんですの…?」
会議の議題は勿論、セリナの最大魔力容量を増やす事である。
増やした方が良いと提案したのはマッカーシー大司教なので、全員の視線が彼に集中する。
「まぁ… 簡単に申しますと、魔力を使い切る事ですな。魔力枯渇を起こしますが、回復した時には多少なりとも最大魔力容量が増えます。それを繰り返せば─」
「どのぐらい増えるんですの!? 少しでもソフィアさんに追い付けるなら、やってみる価値はありますわ!」
セリナは自分とソフィアとの最大魔力容量の差を聞き、ライバル心が芽生えた様であった。
だが、その差が256倍だと聞き、目を点にした。
「わ… 私とソフィアさんの差って、そんなにあるんですの…?」
マッカーシー大司教は…
「それは仕方ありません。聖女の最大魔力容量は、〝聖女への目覚めの眠り〟が1日延びる毎に倍になると言われております。それを考えれば、セリナ様は歴代最高とされた聖女の4倍もの最大魔力容量を持っておられるのです。それだけでも、充分に誇れる事だと思います。ソフィア様が使った聖光矢雨に拘らず、使える魔法の制度や威力を高める事を考えられては如何ですかな?」
と、セリナを説得した。
セリナは少し考え、やがて大きく頷く。
「そう… ですわね… 出来ない魔法を無理して使う事を考えるより、その方が確実に私が役に立てますわ!」
ソフィアとの最大魔力容量の差に半ば意気消沈していたセリナだったが、それと自分に出来る事は別なのだと割り切ったのだった。
そして彼女はソフィアに対して今まで以上にベタベタする様になり、オリビアをヤキモキさせる事になるのだった。




