第6話 聖女への輝き
魔王と聞いて緊張する使用人達に対し、フランクは静かに話し始める。
「そんなに緊張しないで聞いてくれ。私自身、詳しく知っているとは言えないし、前に聖女様と魔王が現れたのは200年ぐらい昔の話だからな。それに、人類に災厄をもたらす魔王も居れば、土地を荒らすだけの魔王も居たり、その脅威は様々だ」
人類に災厄をもたらすと聞いて青褪める者、土地を荒らすだけと聞いて安心する者、使用人達の反応も様々だった。
「記録では、およそ200年ぐらいの周期で聖女様が現れ、それと前後して魔王が現れる。その前後と言う期間も、記録では数ヶ月から十数年とバラバラだ。現段階では魔王が現れたとの報告は無い。神託では数年の内に聖女様が現れるとの事だが、それは明日かも知れないし、2~3年後かも知れない」
使用人達はフランクの言葉を黙って聞いている。
気の弱いソフィアだけは、魔王と聞いてからずっとガタガタ震えているが…
「ソフィア、大丈夫?」
シンディがソフィアを抱き寄せ、背中を擦る。
「だだだだだ… だいじょうぶですぅううううっ…」
シンディには、とても大丈夫とは思えなかった。
「余計な緊張をさせてしまうかも知れないが、使用人達の中には聖女様と関わる者が何人か居る。現段階で決まっているのは世話役のシンディ、雑用係のソフィア、それらを纏めるアンナの3人だ」
(あ… 私も聖女様に関わるのね…? まぁ、メイド長だから当然かもね…)
フランクの話を聞き、アンナは納得した。
(聖女様の世話役って聞いた時は嬉しかったけど… 魔王がどうのって聞くと、ちょっとねぇ…)
シンディには聖女の世話役の嬉しさより、魔王が現れる事の方が気掛かりだった。
(まおー… まおー… まおー… こわい… こわい… こわいよぉ…)
シンディの腕の中で震えるソフィア。
ソフィアの頭の中に聖女の事は既に無く、魔王に対する恐怖に埋め尽くされていた。
そんなソフィアの頭を、シンディは優しく撫でるのだった。
「今の段階で私に言えるのは以上だな… 後は聖女様が現れるのが先か、それとも魔王が現れるのが先か… とにかく聖女様に仕える者は、相応の心構えだけはしておいてくれ。これで話は終わりだ、解散して良いぞ?」
フランクが話を終え、自室へと向かう。
妻のルイーズや子供達も、それぞれの部屋へと帰っていく。
使用人達もゾロゾロと会議室を出て、各々の仕事に向かっていった。
シンディは、まだ震えているソフィアと共にメイド達の大部屋へと向かい、アンナも同行する。
部屋に入ったソフィアは、まだ震えていた。
「ソフィア、本当に大丈夫なの? まだ聖女様も現れてないし、貴女も侯爵邸での生活に慣れてないんだから、少し休んでなさい?」
シンディがソフィアをベッドに寝かせようとする。
すると突然、ソフィアの身体が今まで以上に激しく震えだした。
「ふぁっ! あぁあああああっ!!!!」
「ど… どうしたの!? ねぇっ!? ソフィア、大丈夫!? ちょっと! 返事してっ!?」
慌てるシンディ。
その様子に気付き、アンナが駆け寄る。
「シンディ! どうしたの!? ソフィアに何が!?」
「わ… わかりませんっ! 急に激しく震えだして…! これ、どうすれば良いんですかっ!?」
ソフィアの身体を抑えるだけで精一杯のシンディ。
アンナ自身、どうすれば良いのか解らずオロオロしている。
「ふぁああああああああ~っ!!!!」
「「なっ… 何っ…!?」」
ソフィアが絶叫し、アンナとシンディが思わず耳を塞ぐ。
すると、ソフィアの身体が眩い光を放ち始める。
「ま… まさかと思うけど…! とにかく、急いで旦那様を呼んできて!」
「わ… わかりました!」
部屋を出ていこうとするシンディの前に、フランクが現れる。
「どうした!? 今の叫び声は… って、これは何だ!?」
彼はソフィアの絶叫を聞き、急いで駆け付けたのだった。
部屋の中で輝く物体を見て、フランクは驚く。
が、それがソフィアだとは気付いていない。
「アンナ、一体これは何なのだ? こんな物、部屋に在ったのか?」
「いえ、旦那様… それはソフィアです。ソフィアが激しく震えだしたと思ったら、今度は輝きだして… まさかと思うのですが、ソフィアが聖女様なのでは…?」
唖然とした表情で聞くフランクに、アンナは動揺しながらも説明する。
「…だとしたら、確かにまさかだな… 確認せねばなるまい、シュルツ! シュルツは居るか!?」
「はい、ここに控えております」
フランクが呼ぶと、部屋の外に居たシュルツが顔を出す。
「急いで教会へ行って、大司教様を連れて来てくれ。居なければ、この状況を見て理解できる司教か司祭を頼む」
「分かりました… 誰か! 馬車の用意を! 急いで!」
言って走り出すシュルツ。
すぐに馬車は用意され、馬車に乗り込んだシュルツは御者を急かして教会へ向かった。
(奴隷が聖女だったなど、前例が無いぞ…? いや、ソフィアも元は平民だし、平民が聖女の力に目覚めた例は在るが… そうなると、私がソフィアを見た時に感じた何か不思議な感じのする娘と言うのは、偶然ではなかったと言う事か…?)
フランクは考えるが、いくら考えても自分に答えは出せないと思い、考えるのを止めた。
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1時間程が経過し、シュルツが大司教を連れて帰ってきた。
フランクは大司教を急かしてメイド達の寝室へと向かう。
まだ光を放ち続けているソフィアを見て、大司教はフランクに聞く。
「バドルス侯爵殿… これは…?」
「それが解らないから大司教様を呼んだのです。神託にあった聖女様の世話役… 雑用係にと雇った少女なのですが… 突然、身体が光を放って… かれこれ1時間以上、この状態なのです…」
フランクの話を聞き、大司教は思わず跪いた。
「それは…! これぞ正しく…! 教会の記録にある、聖女様が顕現なされる時の状況と合致しますぞ! この輝く少女こそが聖女様なのでしょう!」
大司教は手を組み、光を放ち続けるソフィアに祈る。
「それで… この状況はいつまで続くのですかな…?」
眩しさに目を細めながらフランクは大司教に聞く。
「記録では、最低でも丸1日… 最長記録は3日だったと記憶しております。聖女の能力に目覚めるまで輝き続ける様ですな… 光を放ってる間は触れる事もできませんし… その間、この部屋を使っている方々には申し訳ない事ですが、他の部屋を使って頂く事に…」
「まぁ、それは仕方が無かろう… この光の中では、満足に眠る事もできないだろうしな…」
フランクの呟きに、メイド達は頷きながらも…
(((それ、気にするんだ…)))
と、心の中で突っ込んでいた。
しかし、確かに眩しくて眠れそうになかったので、今夜から何処で寝たら良いんだろう? とも考えていた。
だが、その懸念はすぐに晴れる事になる。
ソフィアを寝かせていたベッドは動かせなかったが、それ以外のベッドを会議室へと運ぶ事で問題は解決。
何人かは客室に使われている部屋のベッドで寝る事になったが、普段使っているベッドより快適だったからか、文句を言う者は1人も居なかった。
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翌朝、ソフィアの事を心配したシンディがメイド達の寝室を覗くと、そこには未だに輝き続けるソフィアの姿があった。
「確か大司教様は、聖女の能力に目覚めるまでこの状態って仰ってたわね… て事は、ソフィアは…」
「光りながら眠ってるんでしょうね。いつまでこの状態が続くのか判らないけど… 私達には理解できない事よね…」
独り言を呟いていたシンディの後ろに、いつの間にかアンナが立っていた。
「んにょわおぉうっ!」
驚き、素っ頓狂な声を挙げるシンディ。
「あら、驚かせちゃったかしら? まぁ、私もソフィアの状態には驚いているけど…」
「アンナさんと私では、驚いてる意味が違うと思いますけど…?」
「あ、そうよね… 私も動揺してるのかしら…? それにしても、気弱なソフィアが聖女様だったなんて… 性格的に大丈夫かしらねぇ…?」
アンナの感想に、然もありなんと思うシンディだった。




