第67話 つい、うっかり… → 間一髪
話に花が咲き、朝食を終えた後も食堂での歓談は続いていた。
すっかりソフィアと打ち解けたセリナは次々と質問する。
こちらはソフィアと違って聖女としての自覚を持っている様である。
「今まで、どんな魔物を退治しましたの? 私、まだ魔物を見た事がないので、教えて頂けるかしら?」
ソフィアは思い出しながら答える。
「確か… 最初はとろーるの群れでしたね。と言っても、私が倒したのはきんぐとろーるって呼ばれてた大きなとろーるだけでしたけど…」
「キ… キング・トロール…!?」
思わぬ言葉に戦慄するセリナ。
そこへオリビアが追い討ちを掛ける。
「風刃一発で屠られましたけどね… そのお陰でトロール達の統率が乱れ、後始末は楽になりましたけど…」
事も無げに言う2人に冷や汗を流しつつ、セリナは質問を続ける。
「ほ… 他には…?」
質問と言って良いのかは微妙ではあったが…
「えぇと… グレイヤールの時は、おーが、はいおーく、ほぶごぶりんでしたっけ? 数は覚えてませんけど…」
「オーガが3体、ハイ・オークが5体、ホブゴブリンが6体ですね。他にはオーク、リザードマン、ゴブリン、コボルトが、それぞれ数十頭前後だった筈です。それらは全く敵ではありませんでしたが…」
「オーガが3体… ハイ・オークが5体… ホブゴブリンが6体… それ、大丈夫でしたの…?」
真っ青になって聞くセリナに、オリビアは呆れた様に言う。
「大丈夫も何も… ソフィア様の炎網一発で、半数のオーガ、ハイ・オーク、ホブゴブリンが消し炭になりましたよ…」
「残りの半分は、オーリャさんがなますにしてましたね… お陰様で、げちょぐろの死体を見るのも慣れた気がしますよ…」
苦笑しながら言う2人を見て次元が違うと思ったセリナだった。
が、ソフィアが更に続け、オリビアもそれに続く。
「あ、西の森の時には、がーごいるも居ましたね。他の魔物も、グレイヤールの時より多かったですよねぇ」
「そうでしたね。オーク34体、ゴブリン56体、コボルト85体、オーガ8体、ハイオーク13体、ホブゴブリンが28体、ガーゴイルが7体でしたか… この時は数が多い上に森の中って事もあって、難しい戦いでしたから… 近衛兵や義勇兵に空から指示を出しましたっけ」
「空からって… いったい、どうやって…?」
2人の会話に疑問を挟むセリナ。
「ワイバーンとグリフォンが居たんですよ。最初は森に現れた魔物の仲間だと思ったんですけどね。現場に居た奴に聞いたら、グリフォンとワイバーンを飼育している奴が協力を名乗り出て、魔物達を森から出さない様に協力してくれたんだとか… そのグリフォンやワイバーンに乗って、上空から近衛兵や義勇兵に指示を出したんですよ」
セリナの疑問にスラスラ答えるオリビア。
グリフォン、ワイバーンと聞き、セリナは別の疑問を口にする。
「グリフォン… ワイバーン… それに乗ったんですの? 怖くなかったんですの…?」
「私は平気でしたが…」
オリビアはセリナの問いに答えつつ、チラリのソフィアを見る。
オリビアの視線に気付いたソフィアは頬を掻きながら苦笑して答える。
「私も別のぐりふぉんに乗せて貰ったんですけど、浮かび上がると凄く怖くて… なので、空中浮遊で飛んで指示を出しました。自分で飛ぶと、意外と怖くないんですよねぇ♪」
事も無げに言うソフィアに、オリビアが呆れた様に聞く。
「グリフォンに乗って、ちょっと飛んだら怖がって泣き叫んでおられましたのに… 自分で飛んだら、あっという間に慣れてしまわれましたね… そんなに違うのですか?」
「自分でこんとろーる出来るのが大きいんじゃないかと… ぐりふぉんに乗った時は、どう動くのか全く分からないから怖くて怖くて…」
黙って話を聞いていたセリナだったが、思い当たる節があったのか、自身の経験を話す。
「私、グリフォンに乗った事はありませんけど、馬で似た経験がありますわね… お父様が後ろに乗せてくれたんですけど、凄く怖かったんですの。ですけど自分1人で乗った時は、あんまり怖くありませんでしたわ。ソフィアさんが言う様に、他人任せなのか自身で操るかの気分的なモノなんでしょうね…?」
「それ、凄く解ります!」
セリナの話に対し、即座に反応したのはシンディだった。
「私、グレイヤールが魔物に襲われてる時、王都のハンターギルドと冒険者ギルドに応援を頼みに行ったんですけど… 馬に乗れないから、アンナさんの駆る馬に同乗したんですよね。そしたら振り落とされそうになって、メチャクチャ怖かったんです。それと言うのも、同乗者用の鐙が前に付いた鞍の後ろに乗せられヴェッ………」
話の途中でアンナがシンディを絞め落とし…
「セリナ様、今のシンディの話は忘れて下さい。さ、シンディ♪ お茶の用意をしますから、厨房へ行きましょうね♪」
意識を失ったシンディを軽々と担ぎ、食堂から去っていった。
空気が凍り付く中、ソフィアが口を開き…
「えぇと、セリナさん… ご趣味は…?」
「お見合いかっ!」
またもナンシーに突っ込まれるのだった。
しかし、そのナンシーの言動は、セリナから見ると不自然に映った。
前日にソフィアが最初の質問(?)をした時も、彼女は同じ突っ込みを入れていた。
が、それも含めて聖女に仕えるメイドにしては、言葉遣いが乱暴だった。
護衛剣士であるオリビアは勿論、ソフィアより遥かに歳上であるメイド長のアンナですらソフィアに対して丁寧な言葉遣いなのに、ナンシーだけはぶっきらぼうな言葉遣いで彼女に接している。
更に、それを誰も咎めないのが不自然に思えた。
「貴女、ナンシーでしたっけ…? 貴女のソフィアさんに対する言葉遣い、何とも思いませんの? 少なくとも、聖女に対する言葉遣いとしては厳罰を言い渡されても文句は言えませんわよ? もし、私に対して同様の言葉遣いをしたなら、最低でも鞭打ちは免れませんわよ?」
硬直するナンシー。
だが…
「ナンシーさんは良いんです♪ だって、私と同じ奴─」
「ナンシーはソフィア様の古くからの友人ですので、ソフィア様から敬語を使わなくても良いとの許可を得ています。以前、私はその事を知らず、彼女に剣を突き付けて咎めようとしたら… ソフィア様から電撃を食らわされてしまい、逆にソフィア様から咎められてしまいました…」
うっかり自身の元の身分を暴露しそうになるソフィア。
それを間一髪で誤魔化したオリビアは、そのまま捲し立てる。
「ナンシーだけではありません。他にもソフィア様から敬語を使わなくても良いとの許可を得た古くからの友人は多数居ります。セリナ様にも、貴女が聖女の能力に目覚めたからと言って、クソ丁寧な対応をして欲しくない親しい友人は居られるでしょう?」
言われてセリナは納得する。
確かに自身は聖女として目覚めた。
が、だからと言って家族や親しかった友人から丁寧な敬語で話し掛けられたいとは思わない。
普通に接して欲しい人物が居る事は確かだった。
納得したセリナは、オリビアに対して笑顔で答える。
「オリビアさんでしたわね? 確かに貴女の言う通りですわ。きっと、ナンシーはソフィアさんにとって、掛け替えの無い親友なんでしょうね」
そのオリビアの後ろでは、いつの間にか戻ってきたアンナに口──ついでに鼻──を押さえられ、呼吸が出来ずに悶絶しているソフィアが居たのだった。




