第64話 脱力する質問
王宮の聖女邸へ戻ったセリナは、部屋に引き籠もってしまう。
そして…
「…と言うワケで、もう3日も部屋に閉じ籠っておられるんです。さすがに私達も心配になりまして…」
と、セリナのメイド長を務めるジルが、ソフィア達の所へ相談に訪れていた。
「それほどソフィア様との実力差にショックを受けたって事か? まぁ、自分が歴代最高の聖女だと思い込んでたんだから、無理もないけどな…」
頭の後ろで手を組み、ドサッとソファーに凭れながら言うオリビア。
そんなオリビアの後ろに腕を組んで立ち、何故かドヤり顔でナンシーが言う。
「そりゃ~そうでしょう♪ 大岩を小岩程度に砕くのも凄いですけど、ソフィアは小石の大きさまで粉砕。その小石が司祭様達や司教様達が張った防御魔法を突き抜けたんですからねぇ♪ その上、他の魔法なら負けないと勝負を継続したのに、どの魔法でも全く歯が立たなかったんですから♪ 私からすれば、ざまぁって感じですね♪」
ずびしっ!
「ぶべっ!」
そんなナンシーの脳天に、アンナの手刀が落とされる。
「言い方に気を付けなさい。気持ちは解らなくもないけど、相手は聖女様なんだからね。本人が居なくとも、よ?」
アンナは頭を押えて蹲るナンシーに説教する。
「あ痛たたた… でも、アンナさんも思ったでしょ? ソフィアに対して、あんな横柄な態度を取ったんだから… それに、シンディも聖女セリナの態度に眉をしかめてましたよ?」
ナンシーはアンナに抗議(?)しつつ、さりげなくシンディに話を振る。
アンナに視線を向けられたシンディはコクリと頷く。
「私も正直言って、ざまぁって思いました。自身の力量を過信してるだけならまだしも、ソフィア様を見下した態度は赦せませんからね」
アンナは額に手をやり、大きな溜め息を吐く。
「はぁ~… 貴女達の気持ちは理解するけど、それでも相手は聖女様なのよ? 身分的には国王より上なんだから、言葉には気を付けなさい。聖女様を侮辱してると捉えられたら、それだけで処罰の対象になるんだからね?」
「「ごめんなさい…」」
アンナに諭され、素直に謝罪するナンシーとシンディだった。
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「ふぁあああああ~… おふぁようごじゃいまふぅ~… って、皆しゃん集まって何をしてるんでふかぁ…?」
寝惚け眼のソフィアがリビングに現れると、オリビアとアンナはジルと顔を突き合わせて話を続けていた。
シンディが事の次第を説明すると、ソフィアは顎に手をやり考える。
「う~ん… セリナさんが悩んでるんですか…? でも、そんなに悩まなくても良いと思うんですけどねぇ…」
「ソフィア… そうは言うけど、聖女セリナは絶対的な自信を打ち砕かれたワケだから… ちょっとやそっとの慰めじゃ、自信を取り戻すとは思えないわよ…?」
ナンシーの意見に、ソフィアはキョトンとした表情を浮かべる。
「私、慰めるなんて一言も言ってませんよ? それに、慰めたりなんかしたら、反ってかたくなになってしまうんじゃないでしょうか?」
「それは… 確かにそうかも知れない… 私にも身に覚えがあるからな… 剣技の修練で、当時の聖クレア王国で一番の剣士に負けた時に落ち込んで… 家族に慰められたんだけど、逆にブチ切れて大暴れしたっけ… 7~8歳ぐらいの時だったかな…?」
オリビアの思い出話に、その場に居た全員がドン引きしたのだった。
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その頃、セリナは悩みに悩んでいた。
絶対的な自信を打ち砕かれた事に悩み、悩み過ぎて腹を下し、無様にも部屋のトイレに籠り続けていた。
「はぁああああ…… 人間、悩むと体調にまで影響が出るんですのね… って、そんな事はどうでも良いですわ! それよりソフィア… でしたっけ…? 私より明らかに歳下なのに、あの魔力… 侮っていたとは言え、この私が何一つとして敵わないなんて… 悔しいっ! 悔し過ぎますわっ!」
セリナは拳を握り締め、ブルブルと全身を震わせ…
「んぐぐぐぐ… お腹の具合が悪い時に力むモンではありませんわね… こんな調子だと、いつまで経ってもトイレから出られませんわ…」
ジルが心配していた様に、セリナがソフィアとの実力差にショックを受けて悩んでいるのは事実だったが…
部屋に閉じ籠っている理由…
それが〝悩み過ぎた結果の下痢〟である事は、誰も知らないのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食を食べながら、誰も予想しなかった事をソフィアが言い出す。
「私、セリナさんと話がしたいです」
突然のソフィアの言葉に、食堂に居た全員が目を丸くする。
「ちょっ… ソフィア、本気? あの高飛… 高圧て… 傲ま… 高ま…」
ナンシーが思い止まらせようとするが、アンナの言葉──聖女を侮辱すれば処罰──が思い浮かんで良い言葉を思い付かずに言い淀んでしまう。
「はぁ~… 言いたい事があるなら言いなさい? この場限り、聞かなかった事にしてあげるから…」
チラチラと自分を見るナンシーに、アンナは溜め息を吐きながら続きを促す。
「あの高飛車で高圧的で傲慢で高慢で傲岸不遜な女と何の話をしようっての!? 慰めるワケじゃないって言ってたけど、だったらどうしようっての? まさかと思うけど、励まそうっての? そんなの上手くいくワケないし、上手くいったって増長させるだけじゃないの?」
アンナの許可(?)を得たナンシーは、一気に捲し立てる。
しかし、ソフィアはポカンとしているだけである。
「…なにをポカーンとしてんのよ…?」
訝しげな表情でソフィアを見るナンシー。
そんな彼女にソフィアは真剣な表情で聞く。
「たかびしゃ… こうあつてき… ごうまん… こうまん… ごうがんふそん… ぞうちょう… って、どういう意味なんですか…?」
あまりの質問にナンシーは勿論、食堂に居た全員が脱力したのだった。




