第63話 打ちのめされるセリナ
「さて、まずはセリナ様から実力を見せて貰えますかな?」
「はぁっ!? 何故、私からなんですの?」
国王が言うと、不満そうにセリナが返す。
だが、国王は気にする素振りも無く、言葉を続ける。
「実を言うと、ここに居る貴族達や大臣達は、私も含めてソフィア様の魔法の実力を見ておりますのでな。なので、まずはセリナ様の実力を見せて頂きたいと思っておるのですよ」
国王の話を聞き、貴族達や大臣達はウンウンと頷く。
その一方で、オリビアとソフィア──のフリをしたナンシー──はニヤニヤ笑いながらセリナを見ていた。
その様子にカチンと来るセリナ。
「分かりましたわ! ならば私の実力、篤と御覧あそばせ!」
言って大岩に向き直り…
「火球!」
無詠唱で魔法を放つ。
バゴォオオオオオオオンッ!
火球が直撃した大岩は砕け、ガラガラと音を立てて崩れる。
セリナはソフィアの方を振り向き、ドヤり顔で言う。
「さぁ、次は貴女の番ですわよ? 私みたいに、大岩を砕けますかしら?」
すると、ソフィアは少し俯き…
「ふ… ふふっ… あははははははっ♪」
含み笑いから、やがて大きく笑い出した。
「な… 何が可笑しいんですのっ!?」
セリナが怒りの表情を浮かべ、顔を真っ赤にしてソフィアに詰め寄る。
「あはは… そりゃ可笑しいわよ… 私にそんな事が出来るワケないんだから♪」
「は…っ?」
怒りの表情から一転、ポカンとした表情に変わるセリナ。
いや、セリナだけではなく、国王や貴族達や大臣達もが彼女と同じ様な表情になっていた。
「だって私、ソフィア… 様じゃないんだから当然でしょ?」
いつもの調子でソフィアを呼び捨てようとして、慌てて──平然を装ってはいるが──『様』を付けるナンシー。
「「「「「えぇええええええっ!?」」」」」
貴族達や大臣達だけでなく、セリナまでもが驚きの声を上げる。
「そ… それでは其方は誰なんじゃ!? それに、ソフィア様は何処に…? オ… オリビア、説明せいっ!」
国王は慌てつつも、何とか気持ちを落ち着かせてオリビアに問い掛ける。
オリビアは平然と自らの後方を指差し…
「ソフィア様なら、私の後ろにアンナ殿と… って、あれっ?」
そこにソフィアが居ない事に初めて気付き、周囲をキョロキョロと見回す。
だが、ソフィアは勿論、アンナの姿も見えない。
「お… おい、シンディ! ソフィア様は何処に!? それに、アンナ殿の姿も見えないが!? さっきあっちに連れて行ったまでは覚えてるが、あれからまた何処かに移動したのか!?」
オリビアは、アンナが〝セリナの怒りの理由〟を説明する為、ソフィアと共に向かった修練場の片隅を指差しながら問う。
「ソフィア様なら… 先程アンナさんが、食堂へ連れて行かれました…」
シンディは修練場の一方を指差し、説明を続ける。
「ソフィア様、アンナさんの説明の途中で空腹を訴えられまして… 実はソフィア様、昼食を半分ぐらいしか食べられなかったんですよね… セリナ様に会えるのを楽しみにしていた反面、多少の緊張もされていた様で…」
「なるほど… なら、戻って来られるまで待つとしよう。しかしだ… ナンシーが正体を明かすまで、誰もソフィア様じゃないと気付かないとはな… 特に国王陛下は何度もソフィア様と会っているでしょうに…」
オリビアに言われてザワつく貴族達や大臣達。
「そ… そうは言うがオリビア嬢、我々がソフィア様と対面したのは歓迎の宴と先日の〝魔法訓練見学ツアー〟ぐらいですぞ…?」
「ストレイフ伯爵の仰る通り、まだ我々は2回しかソフィア様と対面しておりませんので… それに、その人物は本当にソフィア様ではないのですか? どう見てもソフィア様にしか見えないのですが…」
「フォリーニ財務相の仰る通り、どう見てもソフィア様にしか… 本当に別人なのですか?」
「うむ、皆の言う通りじゃ。まぁ、先日会った時より少し背が伸びておる様じゃが… どうなんじゃ、オリビア?」
化粧に自信のあるメイド達が総出で施したメイクは、確かにナンシーをソフィアそっくりに仕上げていた。
しかし…
「はぁ… 貴族達や大臣達はともかく、陛下は頻繁にソフィア様と会っているでしょうに… 前回お会いしたのは5日前ですぞ? たった5日で、気付く程に背が伸びる筈もないでしょう…?」
国王の言葉に呆れるオリビア。
そこへ、ようやく食事を終えたソフィアがアンナと共にやって来る。
シンディが駆け寄り、事のあらましを伝える。
「あら、もうバレた… と言うより、バラしちゃったのね…?」
「じゃあ、私はどうすれば…? あの大岩を魔法で壊せば良いんでしょうか…?」
平然とするアンナの隣でオロオロするソフィア。
そこへオリビアがナンシーと共に歩み寄る。
「ソフィア様… とりあえず火球で大岩をブッ壊して下さい! ソフィア様の火球の威力、聖女セリナに見せ付けてやりましょう!」
「ソフィア… 詳しい説明は後で(オリビア様が)するから… 今は何も考えずに、あの大岩を破壊しちゃってくれる?」
オリビアはセリナの態度に対して半ば激昂し、ナンシーは冷静に…
と言うより、ソフィアの魔法を見れる事に期待しながら言う。
「??? いまいち状況が分かりませんが… あの大岩を壊せば良いんですね? 火球っ!」
ソフィアが無詠唱で放った火球は、セリナが破壊した大岩の隣の大岩に向かっていき…
バゴォオオオオオオオンッ!!!!
文字通り大岩を粉砕…
その破片は、慌てて司祭達や司教達が展開した防御魔法を突き抜け、数人の怪我人を出したのだった。
「あぁっ! だ… 大丈夫ですか!? 今、治癒魔法を掛けますから! しっかりして下さいっ!」
慌てて怪我人の治療に向かうソフィア。
「な… なんですの… この威力は…?」
セリナはソフィアの火球で粉々になった大岩と、自身の火球で小岩程度の大きさに砕けた大岩を交互に見比べて呆然とする。
「これがソフィア様の実力ですよ♪ 私が初めてお会いした時に申し上げた事、ご理解頂けましたかな?」
マッカーシー大司教がセリナに歩み寄りながら言うと、彼女はその場にガックリと膝を突いて項垂れる。
「そ… そんな… 私は史上… 最高の聖女の筈… なのに…」
「私は申し上げましたな? 〝聖女への目覚めの輝き〟の期間… 貴女様はソフィア様の半分にも満たないと… その差は、今ご覧になられた通りです。上には上が居る、と言う事ですな」
落ち込むセリナを見下ろしながら言うマッカーシー大司教。
その眼が自身を蔑んでいる様に思ったセリナは、キッと彼を睨み付け…
「ほ… 他の魔法なら負けませんわっ! 新たな大岩を用意なさいっ!」
魔法対決の継続を要求したのだった。
しかし…
雷撃、風刃、凍結弾、火炎放射等々…
ソフィアが放った魔法は、あらゆる魔法でセリナの魔法を遥かに上回る威力を披露。
完全にセリナのプライドを打ち砕いたのだった。
「そんな… そんな…! 何一つ敵わないなんて… ウソよ… ウソよぉおおおおおっ!」
蹲り、頭を抱えるセリナに、マッカーシー大司教が話し掛ける。
「ウソなんかではありません、これが現実です… そろそろ現実を受け入れられた方が宜しいのではありませんかな? では、私達はこれにて失礼させて頂きます」
言ってマッカーシー大司教は大聖堂へ、ソフィア達は大聖堂の聖女邸へと帰っていった。
国王は王宮へ、貴族達や大臣達は各々の王都邸へと帰り…
セリナは1人、馬車で王宮の聖女邸へと帰ったのだった。




