第62話 茶番劇?
修練場に着くと、既に大勢の貴族達や大臣達が集まっていた。
ナンシーは表情を強張らせて後退る。
(ほぅ… ソフィア様っぽい動きじゃないか。アンナ殿とシンディから施された特訓の成果かな?)
ナンシーの動きを見て、表情を変えず感心するオリビア。
もっとも、ナンシーは素で驚いていたのだが…
その様子を見たセリナは、フフンっと鼻を鳴らす。
「この程度の数の貴族達や大臣達に臆してるなんて… 貴女、それでも聖女なんですの? 聖女の方が身分は高いんだから、もっと堂々と出来ませんの?」
カチンと来るナンシー。
「放っといて… (じゃなくて…)ちょ… ちょっと人が多くて驚いただけよ… です! それより、あん… セリナ様には護衛は付いてない… いないのですか? 私には、このオリビア様… じゃなくて、オーリャさんが護衛として付いているんだけ… ですけど? 聖女なのに護衛の1人も付いていないって、放ったらかしなんじゃな… ありませんか?」
(おいおいナンシー… アンナ殿とシンディからソフィア様の言葉遣い、特訓されたんじゃなかったのか? 一夜漬けとは言え、たどたどし過ぎるぞ?)
何度も言い直すナンシーに、思わず耳打ちするオリビアだったが…
(何て言うか… セリナって聖女の年齢が私と変わらない様に思えたんで、つい…)
(まぁ、確かにな… 神託では10歳前後の少女が聖女としての能力に目覚めるって事だったから、セリナって聖女も10歳前後… ナンシーと同じぐらいでも不思議はないか…)
ナンシーの意見に納得するオリビア。
その一方で…
「護衛…? そ… そうですわ! 私を守る護衛は居ないんですの!? 聖女である私に護衛を付けないなんて、この国の貴族達や大臣達は何を考えていますの!?」
ナンシーのたどたどしい敬語より、自身に護衛が付けられていない事に憤慨するセリナ。
そんなセリナに貴族達や大臣達は冷めた目を向ける。
「セリナ様は史上最高の聖女様なんですよね? ならば、護衛など必要ないのでは?」
「…ですな。しかし、中には聖女様を害しようと企む不埒者も居る様ですぞ?」
「あぁ、魔王崇拝者共ですな? もっとも、ソフィア様は軽くいなして捕らえてしまいましたが…」
貴族達や大臣達はセリナの反応を見ると、クスクス笑いながら小声で話していた。
小声とは言え、すぐ側に居るセリナには丸聞こえであった。
と言うのも、貴族達や大臣達は先日の国王に対するセリナの態度に気分を害していたのである。
更に言えば、聖女であるにも拘わらず、とにかく腰の低い──低過ぎる──ソフィアを見ていた為、傲慢で高慢な態度のセリナに対して不信感を抱いていた。
その為、ソフィア──のフリをしたナンシー──の言葉に便乗し、数名の貴族と大臣が揶揄ったのだった。
(なんか、思った以上に効果覿面って感じじゃないですか? セリナって聖女、かなり激昂してるみたいですよ…?)
(だな… あの眼、見てみろよ… 貴族達や大臣達を射殺す様な眼をしてるぞ?)
ニヤニヤ嗤いながら小声で話すナンシーとオリビア。
そんな2人にソフィアが話し掛ける。
(あの~… なんだかセリナさん、怒ってませんか…? 何を怒ってるんでしょう…?)
何も理解していないソフィアに2人は勿論、アンナやシンディを含め、同行してきた聖女邸のメイド達も脱力したのだった。
(ソフィア様… 説明しますので、ちょっと此方へ…)
なんとか立ち直ったアンナが、修練場の片隅にソフィアを連れて行く。
「か… 可愛い…♡」
メイド姿のソフィアが手を引かれてチョコチョコ歩く後ろ姿を見て、思わずオリビアが感想を漏らす。
そんなオリビアにナンシーは勿論、メイド達の間に広まっていた『オリビアはソフィアを愛するレズビアン疑惑』に拍車を掛けたのだった。
アンナがソフィアに説明している間、激昂したセリナは国王に詰め寄っていた。
「あのソフィアと言う聖女に護衛が付いているのですから、私にも護衛を付けるべきではありません事!? 今すぐに… とは言いませんが、少なくとも聖クレア王国で最高の剣士を護衛に付けて下さいませ! 私は歴代で最高… の聖女なんですのよ!?」
自身を歴代最高の聖女と言い掛けて、一瞬言い淀むセリナ。
その脳裏に、マッカーシー大司教の言葉が甦った為である。
しかし、同時に疑問にも思っていた。
本当にソフィアは15日間も光り輝き眠っていたのか?
セリナはソフィアに向かって問い掛ける。
「貴女、ソフィアでしたっけ…? 15日間も〝聖女への目覚めの輝き〟で眠っていたって、本当なのかしら? 私より能力が高いと思わせる為のブラフなのではなくて?」
言われてソフィアは少し考え…
「えぇと… 寝てたんで分かりません…」
「私だって寝てたから分かりませんわよっ!」
ソフィアのボケ(?)に、思わず本気の突っ込みを入れてしまうセリナ。
が、すぐに気を取り直し、改めて問い掛ける。
「誰がそれを確認したのかって事ですわ! マッカーシーとか言う大司教だけだとしたら、私を謀る為のブラフなのではと聞いてますの!」
「ブラフではありませんよ? ソフィア様が〝聖女への目覚めの輝き〟で眠っていた事は、私と私の家族、使用人達も確認しておりますから」
バドルス侯爵が歩み出て、胸に手を当てながらながら恭しく言う。
「ほ… 本当に…?」
自身を歴代最高の聖女だと思い込んでいたセリナは、新たな証人が現れた事に困惑する。
「本当ですよ? 元は私が聖女様の世話係として雇ったメイドだったのですが、雇った2日後に突然光り輝き始めましてね。その後、15日間も光り輝き続けたので驚きましたよ」
「世話係として雇ったメイドだった…? と言う事は、聖女ソフィアは平民!? その様な者に護衛が付いているのに、この私に護衛を付けないなんて…! 何故ですの、国王殿っ!?」
怒りの表情で国王に詰め寄るセリナだったが、国王は冷めた表情で言い返す。
「元が平民であろうが、聖女と成られれば身分は国王より上になります。元の身分は関係ありませんな。それと護衛の件ですが、私が付けたワケではありません。オリビアが自ら申し出たのです。ちなみにですが、オリビアは性格に少しばかり難はありますが、聖クレア王国でトップの実力を誇る剣士でして─」
「へ… 陛下っ! 何ですか、その私の性格に難があると言うのはっ!?」
国王の説明に、思わず割り込むオリビア。
だが、国王は彼女を冷たい眼で見ながら言い放つ。
「オリビア、聞いておるじゃろう…? お主には、ソフィア様に対する態度でレズビアン疑惑が─」
「だから、それは誤解だと言ってるじゃないですかっ! そんな事より、今日は聖女同士の魔法対決とやらではなかったのですか!?」
オリビアに言われ、ハッとする国王。
「おぉ、そうじゃったな! 貴族達や大臣達も楽しみにしておるからのぅ♪ 早速、始めるとするかの♪」
国王が魔法対決の開始を宣言し、ソフィアには最高に緊張する時間が始まるのだった。




