第60話 オリビア、バドルス侯爵、マッカーシー大司教の悪巧みと、ナンシーの悲痛な叫び
「ごめんねソフィア、面倒を掛けちゃって」
「良いんですよ、気にしないで下さい♪ それより、何があったんですか?」
ソフィアはラナに覚醒魔法を施して起こし、休憩がてら再会を楽しんでいた。
そこへ、ラナが失神した元凶であるオリビアが現れる。
「ソフィア様、そろそろ治療を再開… って、ラナだっけか? 修練場では悪かったな。あの後… と言うには少し間が空いてしまったが、無闇に剣を抜くのは控えてるから安心してくれ」
努めてにこやかに話し掛けるオリビアだったが、剣を抜いて迫り来るオリビアの姿が脳裏にこびりついているラナは、恐怖のあまり再度失神しそうになる。
「ソフィアよりラナさんの方が臆病なんじゃない? 私もオリビア様に剣を突き付けられた事があるけど、失神しなかったわよ?」
「う… 煩いわねっ! ただ単に剣を突き付けられただけなら、私だって失神なんかしないわよっ! オリビア様、私を完全に斬る気で向かってきたのよ!? ナンシーだって、殺されると思ったらトラウマになるでしょっ!?」
ラナの言葉を聞き、シンディは納得した様に頷く。
「ラナさんの言う事、私には解ります。私もオリビア様にナイフを首に─」
「突き付けられてましたねぇ… シンディさん、それで漏らしちゃって、私が替えのパンツを…」
「ソフィア様! それ以上は言わないで下さいっ!」
ソフィアが続きを話すと、シンディは大慌てで制する。
が…
「シ… シンディ… オリビア様にナイフを突き付けられて、失禁しちゃったの…?」
ナンシーには伝わっており、しばらく立ち直れなかったのだった。
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その頃王宮では、聖女セリナに大臣達や貴族達が歓談前の挨拶を行っていた。
勿論、最初に挨拶を行ったのはエドワードである。
が、その時のセリナは自らが聖女である事を鼻に掛け、明らかにエドワードを見下した対応をしていた。
その為、挨拶を終えた面々はセリナと歓談する事もなく、セリナが話し掛けた時だけ対応していた。
そんな中、フランクがマッカーシー大司教にソッと話し掛ける。
「大司教様が仰っていた通りですね… 確かに聖女セリナは良い人とは思えません。私以外の貴族達や大臣達も、そう感じているみたいですし…」
「皆様、先にソフィア様と会っておりますからな… ソフィア様の対応を経験した後で聖女セリナの対応を見れば、誰もが聖女セリナに対して距離を置きたくなるでしょうな」
「それは… 仕方ありますまい。ソフィア様は誰に対しても丁寧に接しますし、自らが聖女である事を鼻に掛ける事など全くないのですから… むしろ、自身が聖女である事に困惑しておられますからな…」
マッカーシー大司教は、フランクの意見に大きく頷く。
「まぁ… 現状では聖女セリナは、自分で自分の首を絞めている… と言った感じですかな? 本人は気付いていない様ですがね♪」
「そうですね。後は、如何にして聖女セリナの鼻っ柱をへし折ってやるかですが…」
「それが問題ですな… 先程も申しました様に、いきなり何の脈絡もなく魔法の実力を見たいと言うのは…」
「えぇ、聖女セリナに不審がられるだけでしょう。如何にして自然な流れで話を持っていくか…」
いくら考えても2人には良い案が浮かばず、途方に暮れる。
すると、エドワードがセリナに話し掛ける。
「ところで、セリナ様は史上最高の聖女だそうですな。宜しければ、その能力の一端を見せては頂けませんかな?」
「勿論、構いませんわよ? さすがに今日は会食も控えていますから無理ですけど… 明日の午後で如何かしら?」
思わぬエドワードの行動に、フランクもマッカーシー大司教も固まってしまった。
「これは… 私達は何を悩んでいたんでしょうか…?」
呆然とマッカーシー大司教に話し掛けるフランクだが、マッカーシー大司教は冷静に応える。
「いや、陛下は聖女セリナの自尊心を擽ったのではありませんかな…? 彼女の性格からすれば、史上最高の聖女と言われたら…」
「いずれにせよ、取り越し苦労だった様ですね… 後は、ソフィア様との魔法対決とやらですか? ソフィア様の魔法を見た聖女セリナの反応を楽しみにするとしましょう」
「…ですな♪」
2人は顔を見合せ、クスクスと笑い合ったのだった。
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「ふぇっ!? 魔法対決ですか!?」
フランクとマッカーシー大司教は、会食が終わると大聖堂の聖女邸を訪れ、エドワードと聖女セリナのやり取りをソフィアに話した。
困惑したソフィアは腕をタコの様にくねらせる。
(この動き… 初めてソフィア様と会った時を思い出すな…)
思わず表情が綻ぶオリビア。
だが、すぐに頭を切り替え、考えを巡らす。
(バドルス侯爵とマッカーシー大司教様は、聖女セリナの鼻っ柱をへし折る事を考えていたな… それなら…)
「バドルス侯爵殿、マッカーシー大司教様、私に考えがあるんだが、少し宜しいか?」
フランクとマッカーシー大司教は頷き、オリビアの話を聞く。
それに寄ると、ソフィアに護衛剣士が付いている事をセリナに伝え、その反応を見て欲しいと言う。
理由を尋ねるフランクに、オリビアは悪戯っぽく答える。
「セリナって聖女は、自分を史上最高の聖女だと思ってるんだろ? なら、ソフィア様に護衛が付いてるのに、史上最高の聖女である自分に護衛が付いていない事に対抗心を燃やすんじゃないかと思ってね。反応が面白そうじゃん♪」
「承知致しました。私はしばらく王都に留まりますので、機会を見て話してみましょう」
マッカーシー大司教はオリビアに触発されたのか、追加で提案する。
「いや、それだけでは面白くありませんな… ソフィア様にはメイド服を着て頂き、他の誰かにソフィア様のフリをさせてみるのは如何ですかな? ただのメイドだと思っていた人物が、実はソフィア様だと気付いた時の反応は面白いかも知れません。となると、聖女セリナの実力を見せて貰う時になるでしょうが…」
「それならソフィア様に成り代わるのは、ナンシーが良いんじゃないか? ナンシーなら気が強いから、聖女セリナに絡まれても平気で言い返しそうだしさ♪」
オリビアも悪乗りし、2人と顔を突き合わせて計画を練る。
その計画に名前を出されたナンシーは困惑し、思わず割り込む。
「ちょっちょっちょっ! ちょっと待って下さい! なんで私がソフィアの身代わりに!? てか、私がソフィアのフリ!? 無理ですよぉ!」
そんなナンシーを、左右からガシッと押さえるアンナとシンディ。
「私とシンディはソフィア様が旦那様… バドルス侯爵様の邸に来た時から知ってるの」
「奴隷商で会話もした事が無く、1ヶ月程度しかソフィア様を知らない貴女より、ソフィア様の事は知ってるの」
ガッシリと身体を押さえられ、身動き出来ないナンシーを2人はヒョイっと持ち上げると…
「「ソフィア様のフリが出来る様に、今から特訓です!」」
言いつつ、何処へともなく連行していったのだった。
「待って下さぁあああああい! 私は了承してませぇえええええんっ!」
ナンシーの叫びは、聖女邸に虚しく響くだけだった。




