第58話 新たな聖女、セリナに対する陰謀?
「お父様。王宮からは、まだ何の誘いも無いんですの?」
「誘い? 誘いとは何の事だ?」
日が替わり、朝食を摂りながら聞くセリナ。
その問いの意味が解らず、首を傾げるガディッツ。
「メイド達が話してたので、聞きましたの。ソフィアとか言う聖女が王都に来た時、歓迎の宴を催したそうですわよ? ですが、私が王都に来てやったのに、未だに歓迎の宴の誘いが無いのんですのよ? これって、私をソフィアとやらより下に見ているのではありませんか?」
相変わらずの我が儘振り…
と言うか、傲慢振りを発揮しているセリナ。
そんな彼女を見て、ガディッツは眉をしかめる。
(来てやったとは… いくら聖女の身分が王より高いとは言え、何の実績も無いと言うのに… 私も気になってソフィアとやらの事をメイド達に聞いてみたが… その人物は誰に対しても分け隔てなく接する上に腰が低く、聖女とは思えないぐらいに親しみ深い聖女の様だ。セリナとは真逆ではないか? どこで育て方を間違えたのやら…)
そんなガディッツの思いとは裏腹に、セリナは不満を捲し立てる。
「本来なら、私が王都に到着したと同時に歓迎の宴を催すべきですわ! 王宮の聖女邸だって、私が聖女の能力に目覚めたと先触れが届いた時点で、私に相応しい豪邸に建て替えるのが当然でしょう!? それを、やれ歴代の聖女が住んでいたとか、やれ誰も文句を言わなかったとか… 歴代の聖女を上回る私に対し、無礼とは思わないのかしら!?」
食事を口に運びながらも、怒りながら言いたい事を言うセリナ。
そんな彼女に、ガディッツは肩を落としながら言う。
「セリナ… すまんが、私は朝食を終えたらグレッディ王国に戻る。聖クレア王国に来るだけでも3ヶ月掛かっておるのだ。帰りにも3ヶ月掛かる事を考えれば、半年も領地から離れる事になる。さすがに、これ以上領地を放っておく事は出来ぬ。現状に不満があるなら、自分で訴えるなり─」
「お父様は私を放って帰ると仰るんですの!? せめて訴えるぐらいしてから帰って下さいまし!」
とにかく自分中心に考えるセリナに辟易するガディッツだったが、結果はともかく訴えるだけならと了承したのだった。
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「…と、まぁ、無理矢理と言って良いのかな? 明後日の夕刻、セリナって聖女の歓迎の宴を開催する事になったそうだ。ちなみにソフィア様の出席は任意だそうだ」
「にんいって、何ですか?」
相変わらず言葉の意味を知らないソフィアに苦笑するオリビア。
いや、オリビアだけでなく、アンナやシンディ、ナンシーや司教に司祭、多くのメイド達も苦笑していた。
「任意ってのは、簡単に言えば『その人の自由意志に任せる事』ですね。つまり、歓迎の宴に参加するもしないも、ソフィア様の気持ち次第って事ですよ。セリナって聖女の性格を考えると、私としては参加しない方が良いと思いますけどね」
オリビアが言うと、アンナ、シンディ、ナンシーは勿論、全てのメイド達がウンウンと頷くのだった。
しかし、当のソフィアは…
「私は会ってみたいですけどね~♪ 皆さんが何を気にしてるのか解りませんけど、セリナさんって人も聖女なんですから良い人なんじゃないでしょうか? 良い人だから、聖女に成れたんだと思います♡」
「いや、ソフィア様… 歴代の聖女には、傲慢な性格の者も多かったと文献には書かれております。聖女となる条件は判明しておりませんが、少なくとも性格は関係ないかと…」
「私も聖女に関する文献は読み漁りましたが、確かに性格に難のある聖女は多かった様です。それを踏まえると、どうやら性格は聖女と成る条件には含まれない様ですね…」
マッカーシー大司教の言葉をバドルス侯爵が捕捉する。
が、ソフィアはキョトンとしているだけである。
そこへオリビアが呆れた様に話し掛ける。
「えぇと… ソフィア様? 私、昨日言いましたよね? セリナって聖女は自らの能力に傲っている様で、ソフィア様とは真逆の聖女様って感じらしいって… 言うのは憚られますが、とても良い人とは思えませんよ…」
オリビアの意見にマッカーシー大司教が頷き、捕捉する。
「私も昨日、セリナ様の様子を見たのですが… 王宮の聖女邸を手狭だとか貧相だと扱き下ろしておられました。更に、王宮より豪勢な邸に建て替える事を要請されたとも… オリビア嬢の仰る通り、良い人とは思えませんでしたな」
唖然とする一同。
そんな中、アンナが溜め息を吐きながら首を傾げる。
「はぁ… そんな聖女の歓迎の宴にソフィア様が参加する必要はありませんね… それにしても、セリナって聖女は何故それほどまでに傲慢なんでしょう…?」
「あぁ、聖女としての目覚めの輝き… とでも言えば良いのかな? 情報に依ると、セリナって聖女は7日間光り輝いていたそうだ。歴代の聖女の目覚めの輝き… これの最長記録は3日だったっけ? それを倍以上… 4日も上回ったって事で、自身を史上最高の聖女だと思ってるかららしい」
一同がマッカーシー大司教に注目すると、彼は疲れた様に頷く。
「オリビア嬢の仰る通りです。私は目覚めの輝きの期間がソフィア様の半分にも満たない事、ソフィア様の目覚めの輝きが15日間であった事も伝えました。信じたかどうかは判然としませんが… 信じていないか、疑っているかのどちらかでしょうな」
マッカーシー大司教の推測を聞き、オリビア、アンナ、シンディ、ナンシーに加え、バドルス侯爵とマッカーシー大司教までもが顔を突き合わせる。
「とりあえず、明後日の歓迎の宴は適当な理由で不参加って事にしておくか。その理由として誰もが納得するのは…」
「それは民への施しと言うか、傷病人の治療行為とでも言えば良いでしょう。それより問題… と言う程ではないと思いますが、セリナと言う新参者に、何かしら思い知らせてやらねばと思うのですが…」
「それにはソフィア様との能力の差… 主に魔法の力量を見せ付けるのが良いと思います!」
「だったら修練場よね? ソフィアの火球とか雷撃で、歴代の聖女がヒビを入れるのが精々だった大岩を粉砕したって聞いたわよ? 2つ用意して、片方をソフィア、片方をセリナってのに魔法をぶつけさせたら解り易いと思うけど?」
「ならば、私が歓迎の宴に出席して提案してみよう。なぁに、新たな聖女の実力を見たいと思うのは不自然ではないし、自身の実力を過信している者ならドヤって披露するだろう。その上でソフィア様の実力を見せ付ければ、弥が上にもソフィア様の実力を認めざるを得ないだろうからな」
「ならば、私は修練場での準備を調えましょう。文句を言われても良い様に、大岩は多めに運び込んでおきましょう」
こうして、当事者である筈のソフィアを交えず、話は纏まったのだった。




