第56話 もう1人の聖女様
話は少し遡り、ソフィア達が王都を散策してた頃…
聖クレア王国の南に位置する小国、グレッディ王国で騒ぎが起きていた。
海に面したこの国は、海運業で大陸の国々や周辺の島国との交易で富を成し、小国でありながら大国並の発展を遂げてる国である。
そんな王国の伯爵家の一つ、ランドール伯爵家の長女が突然震え出したと思いきや、身体が光を放ち始めたのだった。
聖女の事を知っていた当主のガディッツが慌てて大司教──グレッディ王国の──を呼び、確認する。
「間違いありませんな… ご息女セリナ殿は、聖女様にあらせられます」
「おぉ… 我が娘が聖女とは…! 震え、光り始めた時はまさかと思ったが…」
その後セリナは7日間光り続け、その事も周囲を驚愕させた。
「過去の文献では、聖女として目覚めるまでに光り輝いていた期間は、最長で3日だった筈です。つまり、セリナ殿は歴代の聖女を上回る能力を有しているのではないかと…」
大司教の言葉に喜色満面のランドール伯爵。
「そ… それは素晴らしい…♪ 早速、国王陛下に知らせねば!」
ランドール伯爵は急いで馬車を用意し、王宮へと走らせた。
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「なんと! それは真実か、ガディッツ!?」
「はっ! シュナイダー大司教様がご確認下さいました! 我が娘が聖女として目覚めたばかりか、歴代の聖女を上回る能力を有しているかも知れないと!」
グレッディ国王、カール・グレッディが聞くと、ランドール伯爵は興奮を隠そうともせず話す。
「で? 今、セリナ嬢はどうしておるのだ? 問題が無ければ、すぐにでも聖クレア王国へ送り出さねば!」
カールの言葉に目を丸くするガディッツ。
「はっ!? 何故、娘を聖クレア王国へ!? グレッディ王国に居てはいけないのですか!?」
ガディッツが身を乗り出して聞くと、今度はカールが目を丸くして話し始める。
「なんだ、其方は知らぬのか…? 聖女と成った者は、聖クレア王国で暮らすのだ。理由は幾つかあるのだが…」
「その理由を教えて下され! 納得できる理由が無ければ、愛娘を他国に送り出す事は出来ませぬ!」
愛娘と聞き、カールは眉を顰める。
(愛娘か… 親の欲目と言うが、ガディッツの娘は誰もが我が儘だと聞く。ガディッツの奥方も選民意識が強く、その意識を娘達も色濃く継いでいるのだとか… そんな娘が聖女の能力に目覚めて、大丈夫だろうか…?)
気にはなったが、とりあえず説明を始めるカール。
「まずは歴史的な理由だな… 記録に残る最古の聖女が顕現したのが聖クレア王国である事は其方も知っておるな?」
コクリと頷くガディッツ。
国王は話を続ける。
「今から五千年ぐらい昔の話だがな。以来、聖女が最初に顕現した国として国名に〝聖〟を付け、〝聖女の住まう国〟としておる。そして、重要なのが地理的な理由だ」
「地理的な理由… ですか…」
ガディッツの呟きに、今度は国王が頷く。
「まず、我々の住んでいる大地。大陸と呼べるのは、ここ、世界大陸しかない。過去に多くの冒険家達が他の大陸を探しに航海の旅に出たが、ついぞ見付ける事は出来ず、世界で唯一の大陸として〝世界大陸〟と名付けられた」
「はい… 見付かるのは、大きくてもグレッディ王国程度の小さな島国ばかりだと…」
再度頷く国王。
「そう。つまり、この世界大陸の中心に位置する大国、聖クレア王国。その中央に在る王都クラニール。そこに聖女が住まえば、何処に魔王が現れようとも同程度の時間で駆け付ける事が可能。これが最も重要な理由だな」
「なるほど… 確かにグレッディ王国に留まっていては、大陸の反対側… 北の国々の危機に駆け付けるには時を要しますな…」
ガディッツは納得し、娘を聖クレア王国に送り出す事を了承したのだった。
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時は戻り、現在…
数日後に新たな聖女が聖クレア王国に来る事を知らされたソフィア達は、様々な反応をしていた。
「新たな聖女様… ソフィア様みたいに優しい方なら良いんだけど…」
「キツい性格の聖女様って、多かったみたいよ? そんな聖女様だったら嫌だなぁ…」
「拒否権って無いのかな? 傲慢な聖女様の執事なんて、最悪だろ…」
等々…
不安に思う者が多い中、オリビア、シンディ、ナンシーはあっけらかんとしていた。
「ソフィア様とは別の聖女様か… まぁ、私はソフィア様以外の護衛剣士を務めるつもりは無いからな… どんな性格の聖女様でも関係無いさ」
「私はソフィア様の側近ですからね。どんな性格の聖女様でも、ソフィア様の側から離れなくて済むから安心です♪」
「私もね… アンナさんからソフィアの側近として仕えなさいって言われてるし… そもそもソフィア以上に凄い聖女って、居ないんじゃないの?」
そんな中、ソフィアは更にあっけらかんとしていた。
「わぁ~♪ 私以外にも聖女って居たんですね♪ どんな人なんでしょう? 凄く楽しみです♡」
そして更に十数日後、件の聖女が到着した。
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「ここが聖クレア王国の王宮… そして、その隣が聖女邸… お父様、私が住むには少しばかり手狭ではありませんこと?」
「そ… そうか…? 我が家と比べても倍ぐらいの大きさだし、王宮の大きさと比べれば充分過ぎると思うが…?」
不満気なセリナの言葉に、ガディッツは自身の邸を思い浮かべ、更に王宮と聖女邸を交互に見ながら言う。
「お父様…? 私は歴代の聖女を上回る能力を有しているのかも知れないんですのよね? ならば、もっと豪華な… それこそ王宮など霞んで見えるぐらいの邸に住むのが当然ではありませんか? 聖クレア国王を呼んで下さいませ! 私が直訴して、この貧相な邸を私が住むに相応しい邸に建て替えさせてあげますわ!」
その後、出迎えに出てきた貴族や大臣達に、聖女邸の建て替えを提案したセリナだったが…
当然、その提案は却下された。
と言うのも、歴代の聖女──傲慢な聖女も含め──は何の文句も言わずに滞在していた為でもあるし、何よりも歴代の聖女が住んだ歴史在る聖女邸を壊すのが憚られたのだった。
しかし、それで引き下がるセリナではなかった。
「何を言ってますの!? 私は7日間も光り輝いていたんですのよ!? 私こそ歴代の聖女を上回る、史上最高の聖女ですのよ!? その私の言う事が聞けないと言うんですの!?」
セリナの言葉に唖然とする、貴族や大臣達。
いや、呆れていると言うべきか…
そこへ、マッカーシー大司教が進み出る。
「貴女様が新たに聖女と成られたセリナ様でございますかな? 私は聖クレア王国で大司教を務めております、アラン・マッカーシーと申します。以後、お見知りおきを」
言って胸に手を当て、恭しく片膝を突くマッカーシー大司教。
「さて、史上最高の聖女と聞こえましたが… 誰の事を仰っておられるのですかな?」
「はぁっ!? 何を言ってますの!? 貴方も大司教なら存じておりますでしょ!? 聖女への目覚め… 光り輝き眠ってる日数が長い程、高い能力の聖女として─」
「勿論、存じております。そして、記録に残る最長日数が3日であった事もです」
途中で話を遮られた事にムッとするセリナ。
(な… 何よ、この男…! 私の話を遮るなんて…! 私が7日間も光り輝いていたって言ったの、聞こえてなかったの?)
セリナは怒鳴りたい気持ちを抑え、冷静を装ってマッカーシー大司教に向かってドヤる。
「先程の私の話、聞こえていなかったみたいですわね。ならば、もう一度言って差し上げますわ。私は7日も光り輝いていたんですの。記録に残る最長日数を4日も更新したんですの。なので、私が史上最高の─」
「ならば、ソフィア様の半分にも満たない日数ですな。そのソフィア様は、この聖女邸を豪華過ぎると仰っておりました。ソフィア様ですら建て替えを希望されなかった聖女邸を、貴女様の一存で建て替えるワケにはまいりません。ちなみにですが、ソフィア様は15日間も光り輝いていたのです。半分以下の貴女様は聖女ではあっても、実力はソフィア様とは比べるまでも無いでしょう。畏れながら申し上げておきますが、くれぐれも自重なさって下さいますように…」
マッカーシー大司教は、言うだけ言うと用意していた馬車に乗り込み、大聖堂方面へと去っていった。
その場に居た貴族や大臣達は、去り行く大司教の馬車に一礼すると、話は終わったとばかりに王宮へと戻っていった。
「な… 何なんですの、今のはっ! お父様! 聖クレア国王に抗議を… って、あの大司教… 何て言いました…? 私の光り輝いていた日数が、半分にも満たないって…?」
「私にも、そう聞こえたが… ソフィア様とか言ったか…? その者は15日間も光り輝いていたとか…?」
その後、聖女邸のメイド達から夕食の支度が出来たと呼ばれるまで、呆然と立ち尽くしていたセリナとガディッツだった。




