第51話 西の森での魔物戦 ~プロローグ~
「急げ! 魔物達が移動を始める前に森まで行くぞ!」
オリビアの指示の元、近衛兵と義勇兵がてきぱきと準備を調える。
ソフィアは動き易い服に着替えるだけの予定だったが…
『聖女のソフィアが怪我でもしたら士気に関わるでしょ! せめて防具を着けなさいよ!』
…とのナンシーの言葉を聞いたアンナが、慣れた手付きでソフィアにライトアーマーを着せていた。
「結構、軽いんですね…? 私、あーまーって重い物だと思ってました…」
ソフィアへの着付けを終えたアンナは、何故かドヤ顔で説明を始める。
「このライトアーマーは、ドワーフが鍛えたミスリルを使った業物です。金貨で5千枚以上と高額ですが、聖女であるソフィア様には相応しい逸品かと…」
「ふぇっ!? き… 金貨… 5千… ま… い…!? はぅっ…」
あまりの高額に、本来気の小さいソフィアはあっさり失神したのだった。
ちなみに金貨1枚は日本円にして10万円相当であり、金貨5千枚は5億円に相当する。
気の小さいソフィアが失神するのも無理はなかった。
「アンナ殿… ライトアーマーの価値までソフィア様に言わなくても良かったのではないか? まぁ、状況が状況なだけに、ソフィア様が目覚めるまで待っている余裕は無いから連れて行くが…」
「す… すみません… このライトアーマーが良い品だと伝えたくて… なにしろ旦那様… バドルス侯爵様夫妻がソフィア様の為にと用意して下さった物でしたので、つい…」
その様子を見ていたシンディがボソッと言う。
「でも… ソフィア様に防具って必要なんでしょうか? 私の記憶では、聖女は無敵と言っても良い存在だったと思うんですけど…?」
その言葉を聞いたオリビアが、宙を仰ぎながら答える。
「そう言えば聞いた事があるな… 聖女とは、およそ人間では考えられない身体能力と魔力を有し、物理的な攻撃や魔法を使った攻撃を難なく跳ね返す。あらゆる魔法が使え、まさに全知全能で無敵の存在だって… それなのにバドルス侯爵夫妻がソフィア様にライトアーマーを? しかも、ドワーフが鍛えたミスリル製って…」
オリビアの疑問に、アンナは少し考えながら…
「う~ん… もしかしたらですが、親心ではないでしょうか? 実は、バドルス侯爵家の方々は、全員がソフィア様を気に入っておりまして… 特に奥方様は、ソフィア様が『お母さん』と言い掛けた際、ソフィア様を養女にしたいと仰った程でして… このライトアーマーを作ったのも、奥方様主導と聞いております…」
「バドルス侯爵は聖女の事を知っているだろうに… ソフィア様を心配する奥方に押し切られたってトコか… まぁ、その気持ちは解るから、形だけでも装着しておいて頂こう。じゃ、行ってくる」
そう言ってオリビアは馬車へと向かって行った。
しっかりソフィアをお姫様抱っこして…
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馬車が走り出してしばらくすると、揺れが刺激になったのか、ようやくソフィアが目を覚ました。
「んぁ… あれっ? ここは…?」
「お目覚めになりましたか? 今、馬車で魔物の群れが発見された森に向かっているトコですよ。あと1時間もすれば着くと思います」
ソフィアの質問に、彼女をお姫様抱っこしたまま答えるオリビア。
「あの~… それはともかく、私のこの状況は…?」
「んんっ… ご… 誤解しないで下さい! これは… その… 馬車の座席にソフィア様を寝かせたのでは、ズリ落ちて怪我をなさってはいけないと思ったからであり、けっして疚しい気持ちでは抱いているのではありませんので!」
咳払いし、慌てて状況を説明するオリビアに、ソフィアはキョトンとした表情を浮かべて聞く。
「やましい…? って、いやらしい気持ちって事ですか? でも、私もオーリャさんも女同士ですから、いやらしいも何も無いと思いますけど………… あっ、前に誰かが言ってたれずびあんってヤツですね?」
「違いますっ!!!!」
慌てて否定するオリビアだったが、その顔は真っ赤になっていた。
その後、目的地に着くまで一心不乱に剣の手入れをするオリビアだった。
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「そろそろ魔物の集団が確認された森が見える頃です。魔物が動いていれば斥候部隊から連絡が入る手筈になっていますが…」
「連絡は無い… つまり、魔物は森から動いていないって事ですか?」
オリビアは頷き、そして首を振る。
「…どっちなんですか…?」
どちらとも取れないオリビアの反応に、訝しげな表情で尋ねるソフィア。
「考えられる可能性は三つあります。まず一つは、魔物が動いていないから連絡に来ない。もう一つは、斥候部隊が魔物と交戦状態で連絡を出せない。最後の一つは、考えたくありませんが…」
「せっこうぶたいが魔物に全滅させられた… ですか? そんなに少ない人数だったんでしょうか…?」
「いえ… 10人ぐらいで偵察に当たっていたと聞いていますから、さすがに全滅は考え難いですね。となれば、やはり魔物が動いていないか交戦中で連絡を出せないと考えるのが妥当でしょう」
そんな会話を交わしていると、件の森が見えてきた。
馬車が近付くにつれ、森の手前に斥候部隊と思しき集団が手を振っているのが確認できた。
オリビアは御者を急かし、集団の近くに馬車を止めさせると…
「状況を確かめます。ソフィア様は馬車の中で待っていて下さい」
言うが早いか馬車を飛び降り、集団の元に走っていった。
「お前達、斥候部隊か? 私はオリビア・フォン・マクレール。セルゲイ・フォン・マクレール公爵の3女で、聖女ソフィア様の護衛剣士だ。状況の説明を頼む」
オリビアが名乗ると、部隊長と思しき壮年の男が敬礼しつつ説明を始める。
「はっ! 私は斥候部隊を指揮しておりますブルース・パーマー大尉であります! 現在、魔物の集団は森の中央付近で徘徊しているのみで、特に動く気配を見せておりません!」
ホッとしたオリビアは緊張を解き、馬車の方を振り返って大きく手を振る。
それを見たソフィアは馬車を降り、オリビアの元に小走りでやって来た。
「その様子だと、魔物の集団は動いてないんですね? 皆さんが無事で良かったです♪」
屈託の無い笑顔で語るソフィア。
その笑顔に斥候部隊の面々は絆され、骨抜きになった所をオリビアとブルースにドツき倒されたのだった。




