表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・奴隷の聖女様 ~奴隷に堕ちて3年後… 聖女の力に目覚めましたが、染み付いた奴隷根性が抜けません!~  作者: タイガー大賀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/92

第4話 無知無学

「そうか… 報告、ご苦労だった。明日からは教育の方を(よろ)しく頼む。お前も早く休みなさい」


「はい。では、失礼します」


 フランクに(うなが)され、シンディはフランクの部屋から退室する。


「風呂も知らなかったとはな… それに、液体石鹸に感動して失神… 新しいワンピースをパジャマに渡されて(うれ)し泣き… メイド達の部屋に案内され、寝る様に言われたら床で寝ようとする… ベッドを使う様に言われたら、マットに感動して失神… いったい、どんな()(さん)な生活を送ってきたんだ…?」


 フランクには全く想像できない、これまでのソフィアの生活。

 平民の生活水準すら(はる)かに下回る生活を送ってきたであろうソフィアを思うと、フランクの気分は重く(しず)むのだった。


「とにかく、聖女に(つか)えるまでに、()()()()()に慣れさせなくてはいけないな… 性格は素直で(じゅう)(じゅん)だから問題は無いだろうが… 気が小さいと言うか、(よわ)()ぎるのは問題かな…?」


 (みずから)らの考えを(まと)めるかの様に、フランクは(ひと)(ごと)(つぶや)く。

 実際、ソフィアの気の小ささ、気の弱さは問題だった。


 聖女に(つか)える以上、時には間違いを(ただ)さなければならない。

 聖女とて人間である以上、時に間違いを(おか)すかも知れないからだ。

 その間違いを(ただ)すのも世話役、雑用係の仕事である。

 だが、気の弱いソフィアに聖女の間違いを(ただ)せるとは思えなかった。


「まぁ、それはシンディにでも(まか)せれば()いか… 世話役や雑用の教育もシンディで大丈夫そうだが… 勉強の方は… メイド長のアンナに(まか)せた方が()いかも知れないな…」


 ()(いき)()き、自身も妙に疲れている事に気付くフランク。


(私も寝るか… 風呂上がりの清潔になったソフィアを見てみたかったが… それは明日の楽しみとするか…)


 自身が思っている以上に疲れていたのか、ベッドに入って目を閉じると同時に眠ってしまうフランクだった。





 ─────────────────





 朝になり、メイド達は主人であるフランクと家族が起きる前に全ての準備を調(ととの)える。

 急いで朝食を()り、それぞれの役割に沿()って役目をこなす。

 主人の朝食の準備をする者。

 担当する部屋、廊下等の掃除をする者。

 この日の朝、それら全ての者が驚いていた。

 掃除は全て終わっており、(あと)は朝食の準備をするだけだった。

 ()(ぜん)とする一同の前に、(せわ)しなく動き回るソフィアの姿があった。


「ソ… ソフィア…? 何やってんの…?」


なに()って… あさ()そーじ(掃除)ですけど…?」


 シンディの質問に、ソフィアは当然の様に答える。


「いや… それは分かるんだけど… 何で貴女(あなた)1人で…?」


「え… っと… どれー(奴隷)しょー()()とき()、これがわたし()やくめ(役目)でしたから… 3ねんちか(年近)くも()()()かなくて、ごくつぶ(穀潰)しだったわたし()には、そーじ(掃除)をするぐらいしかやく()()てませんでしたので… さすがにわたし()つく()しょくじ(食事)は、ひとさま(人様)()べていただ()けるよう()なモノでは()いのでつく()りませんでしたけど…」


 侯爵であるフランクの屋敷は広い。

 その広い屋敷を1人で掃除するのに、1時間や2時間では不可能だった。

 ちなみに現在は6時である。


「いったい… 何時から…?」


「1()お起()はじ()めました。わたし()、3じかん(時間)ねむ()ればじゅーぶん(充分)ですから…」


 昨夜、ソフィアが夕食を取ったのは8時。

 風呂に入り、寝たのが10時だった。

 (わず)か3時間の睡眠しか()らず、5時間掛けて掃除をしたと理解したシンディは、ソフィアの(けん)(しん)()りに感心すると共に、(あき)れ返った。


「あのねぇ、ソフィア…」


「シンディ… その先は私が言うから、貴女(あなた)(みんな)と朝食を作って済ませなさい」


 シンディの言葉を(さえぎ)り、メイド長のアンナがソフィアの前に立つ。

 メイド長と言っても若く、28歳である。

 だが、8歳のソフィアにとっては母と言っても良い(とし)の差だった。

 ちなみにシンディは12歳である。


「ソフィア… 貴女(あなた)献身的(けんしんてき)な行動は評価します。ですが、その行動が(ほか)の者の仕事を(うば)っていると思いなさい。(みな)、それぞれに与えられた仕事があるんですよ? それを貴女(あなた)が全部やってしまっては…」


「ご… ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ゆる()してくだ()さいっ! そんなつもりじゃ()かったんですっ! すこ()しでも… ほんのすこ()しでもやく()()てたらとおも()って! おねが()いですからなぐ()らないで下さいっ! いえ、なぐ()ってもかま()いません! それでゆる()してもら()えるなら、いくらでもなぐ()ってくだ()さいっ!」


 (まわ)りで見ている者がドン引きするぐらいに土下座して(あやま)りまくるソフィア。

 シンディがアンナに近付き、耳打ちする。


昨夜(ゆうべ)、言いましたよね…? ソフィアは気が小さい… 小さ過ぎる、(よわ)過ぎるって… 私達にはちょっとした注意のつもりでも、彼女にはキツく怒られてる様に感じるみたいなんですよ…」


「旦那様から少し聞いてたけど… ここまでとは思わなかったわ…」


 床にひれ伏し、プルプル震えながら許しを()うソフィアを見ながら、アンナは()(いき)()くのだった。





 ─────────────────





 朝食が終わると、ソフィアはアンナから文字の読み書きと簡単な計算を教わる。

 が、本を読んだ事もなかったのか、上下を逆さまに持ったり横向きに持ったり…

 更には文字を読む方向すらも知らなかった。

 また、ペンの持ち方も教えなくてはならず、アンナを困惑(こんわく)させた。


(本当に何も知らないのね… ここまで何も知らないとは思わなかったけど…)


 様子を見ていたシュルツが、フランクに報告する為に部屋を出ていく。

 すると、シュルツと入れ代わる様にシンディが部屋に入ってきた。


「アンナさん、お茶をお持ちしました。そろそろ休憩なさっては(いか)()ですか?」


「そうね… ソフィア、貴女(あなた)も休憩なさい。(あわ)てて覚えるより、適度に休憩しながらの方が効率は良くってよ?」


「は… はいっ!」


 本を閉じ、ペンを置くソフィアの前に、お茶の入ったカップを置くシンディ。

 シンディは本の横に置かれた紙に気付く。

 本を見ながら字の練習をしていたのだろうが、シンディには何を書いているのか全く読めなかった。

 彼女は思わずアンナの方を見る。


「ペンの持ち方も知らなかったのよ… だから、まだ(じょう)()に書けなくて…」


「ご… ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ゆる()して下さいっ!」


 アンナが言い始めた()(たん)に顔を(あお)()めさせ、言い終わるより早く土下座して謝りまくるソフィア。


「ソフィア… アンナさん、怒ってないわよ…?」


「そうよ? 貴女(あなた)の状況を説明しただけなんだけど…?」


「…ふぇっ?」


 キョトンとした表情で顔を上げるソフィア。

 その眼からは、大量の涙が流れていた。

 アンナとシンディは、共に困惑した表情を浮かべ…


「「泣かなくても…」」


 台詞(セリフ)(かぶ)り、思わず顔を見合せてクスッと笑う2人。

 ソフィアは何が可笑(おか)しいのか理解できず、2人の顔を交互に見ながら混乱していた。





 ─────────────────





「そうか… 本当に基本の基本から教えなくてはならないとはな… さすがに、そこまで無知無学だとは思わなかったな…」


「はい。そこまで基本的な事すら知らないとは驚きました… しかし、彼女の今までの経歴を考えると…」


「そうだな…」


 フランクは(あご)に手をやり、話し始める。


「ソフィアの祖国、ヴァネル王国が隣国のランドール王国と戦争を始めたのが5年前… 今、ソフィアは8歳だから、当時は3歳か… 出身のリネル村は国境に近いから、優勢な状況でも安心できる状況ではないな…」


「はい。それに、ヴァネル王国が優勢だったのは最初の2ヶ月程度だった(はず)です。(こう)(ちゃく)状態に(おちい)り、開戦から半年も()たずに防戦一方になったとか…」


 シュルツの言葉に、フランクは()(けん)(しわ)を寄せる。


「それでは文字の読み書きを教えていられる状況ではないな… 父親も防衛戦に()り出されて戦死したと聞いた。終戦後かどうかは(わか)らんが、母親は親戚を頼っての旅の途中で盗賊に殺され… 本人は、その際に奴隷商に売られた… 奴隷商には3年近く居たとの事だから、5歳の時になるか…」


「奴隷商には、奴隷に読み書きを教える義務はありませんからな… 買われた先で労働する為の教育はしますが…」


「殴り、蹴り、怒鳴り付けて教えるのか…? そんな事は、教育とは言わんだろう…」


 フランクは()め息を()き、天井を見上げて脱力した。


「だが、そんなソフィアを買ったのは正解だったかな…? あのまま奴隷商に居たら、数年もしない内に死んでいたかも知れないからな… あるいは絶望して自殺していたか…」


「1人の少女を救ったと思われては(いか)()でしょうか? 身分は奴隷のままですが、彼女は悲惨な生活から抜け出せたのです。(おく)(びょう)に過ぎるきらいはありますが、性格は良い様ですし…」


「そうだな… 今はソフィアと言う少女を救った… それで良しとしよう」


 シュルツの言葉に、フランクは苦笑しながら(うなず)いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ