第48話 暴れるオリビア、勉強中のソフィア
「陛下ぁあああああっ!」
オリビアは王宮に入るなり、叫びながら国王を探して走り回る。
エドワードは自室でも謁見の間でもなく、まずオリビアが来ないであろう食堂の地下倉庫に逃げ込み震えていた。
「何なんじゃ、オリビアのヤツめ… ソフィア様への過度な接触を禁じただけじゃろうが… 護衛剣士を辞めさせるとは言っておらんのに…」
「陛下… 今からでも倉庫を出て、説明されては如何ですか? しっかり説明すれば、いくらオリビア様でも暴れないと思いますが…?」
怯えるエドワードに、侍従長が提案する。
が、エドワードは首をブンブン振り…
「ダメじゃ、ダメじゃ! セルゲイ──オリビアの父──が言っとった! あやつは一度頭に血が上ったら、簡単には治まらんと!」
エドワードが言うと、成る程とばかりに侍従長は頷く。
「確かに… このオリビア様の声と破壊音を聞くと、今は隠れているのが正解ですな…」
微かに聞こえるオリビアの声と、何かが壊れる音…
侍従長も思わず身震いするのだった。
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「…今日は何だか静かですね? と言うか、オーリャさんの姿が見えないんですけど…?」
「昨日、王宮に出掛けてから帰ってないのよね… 話が長引いてるのかな…?」
ソフィアの疑問にナンシーが答える。
「昨日から王宮に? そんなに長引くって、何の話なんでしょう?」
「ソフィアが気にする程の話じゃないと思うわよ? それより勉強でしょ? 今日は13ページの問1から問5だって、アンナさんが言ってたわ」
「は~い♪」
ソフィアは楽しそうに問題集と向き合うのだった。
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「そう言う意味でしたか… てっきりソフィア様の護衛剣士を辞めさせられるのだとばかり…」
「そんなワケは無かろう… お主の剣士としての実力は評価しておる。ただ、最近のお主はソフィア様に対してベタベタし過ぎじゃ。ソフィア様を敬愛しとるのは理解するが、少し度が過ぎとる… お主自身、そうは思わんか?」
エドワードに直接言われ、周りからレズ疑惑を持たれている事に(ある意味で)納得するオリビアだった。
が…
「ところで… いつまで私はこの状態なんでしょうか?」
オリビアは一晩中エドワードを探し回り暴れ回り、疲れと空腹で脱力していたところを取り押さえられて椅子に座らされ、ロープで縛り付けられていた。
聞かれたエドワードは半眼でオリビアを見て聞く。
「もう暴れんか…?」
オリビアは黙って頷く。
「本当に… ですか…?」
今度は侍従長が恐る恐る聞く。
オリビアは再び黙って頷く。
「本当の本当に暴れないんですね、オリビア様…?」
オリビアを取り押さえたアンナがジト目で彼女を見ながら言うと…
「腹が減って、暴れる気力なんか無いよ… 頼むから何か食わせてくれ…」
憔悴し切ったオリビアを見て、アンナはエドワードと侍従長に言う。
「確かにこの状態なら、オリビア様も暴れる事はないでしょう。陛下の意図も理解して下さってる様ですし…」
「そうそう… 理解したからさ… メシ食わせてくれよぉ… 腹減ったよぉ…」
力無く懇願するオリビア。
アンナは軽く溜め息を吐き…
「とりあえず腕の拘束だけ解きましょう。エサを与えて様子を見て、問題が無ければ…」
「エサって言うなぁっ! 私は犬か猫かぁっ!」
オリビアは激昂するが、アンナは冷静に返す。
「オリビア様はソフィア様の番犬では? 私はそう思ってましたけど…?」
腕を縛るロープを解きながらアンナが言う。
「そ… それを言われると、全く否定は出来ないけど… だからってエサは無いだろう!? 本当に犬猫みたいじゃんか!」
「似た様なモノではありませんか? 飼い主様に極めて従順、飼い主様を害する者… まぁ、今の時点では居ませんが、居れば間違いなく殺す… とまでは言いませんが、殴り倒すぐらいはするのでは?」
「それはまぁ… しないと言う自信は無いけどさ… それより、ロープを解くのは腕だけなのか? 全部解いてくれたら自分で歩くんだけど…」
「申し訳ありませんが、まだ陛下と侍従長様が怯えていらっしゃいますし… なにより、この王宮内の惨状を見れば、オリビア様を自由にさせる事は憚られると思いましたので…」
アンナの言う通り、王宮内は散々な様相を呈していた。
フルアーマープレートを着込んでいたにも拘わらず、オリビアに殴り倒されて唸っている兵士達がゴロゴロ居るのである。
また、その余波で破壊されたドアや壁、窓や廊下に置かれていた装飾品の数々は、王宮の使用人達が総出で片付けている最中である。
信用しろと言う方が無理であった。
アンナ(だけでは無いが)に信用されていないオリビア自身は椅子にロープで固定されたまま、アンナに椅子ごと引き摺られて食堂に向かうのだった。
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「終わりました♪ ナンシーさん、答え合わせをお願いします♪」
問題を解き終えたソフィアが、満面の笑みで問題集をナンシーに渡す。
ソフィアの回答を見たナンシーは、思わず脱力してしまう。
「あのさぁ、ソフィア… 私、あんたの書いた文字が読めないんだけど…? ちなみにこれ… 何て書いてあるの…?」
「これですか? これはですね……………… えぇとぉ………………」
「自分の書いた文字が読めんのかぁあああああいっ!」
「まぁまぁまぁまぁ… ソフィア様は文字の書き方も勉強中だから仕方無いのよ。それより、そろそろ貴女は休憩の時間でしょ? 後は私に任せて、お茶でも飲んだら?」
ぶちキレるナンシーをシンディが宥めて抑え、ソフィアから引き離す。
ナンシーは溜め息を吐きつつ…
「あんなの文字じゃないわよ… ミミズがのたくった痕にしか見えないじゃない…」
と、ブツブツ言いながらその場を後にするのだった。
【追記】
オリビアが暴れた事に因る王宮の被害は甚大で、修理には1年以上掛かる事になった。
オリビアの父、セルゲイが責任を取って弁償。
金貨3千枚を超えていた。
ちなみに金貨1枚は、日本円にして約10万円である。




