第47話 オリビアのレズ疑惑、再び
グレイヤールの街を出たソフィアとオリビアは、救助された人々が集められている場所へと急いだ。
避難場所は街から1時間程歩いた場所に在ったが、2人が到着する頃にはテントで仮宿所が作られていた。
「やはり怪我人が多いですね。治療所は何処でしょう?」
キョロキョロと辺りを見渡すオリビア。
そんな彼女の手を掴み、ソフィアが引っ張る。
「こっちですね。魔力を感じます」
着いた先には、テントの中で一心不乱に怪我人を治療する司祭や司教の姿があった。
「大変そうですね。私も手伝います!」
言うが早いか、ソフィアは司祭や司教に混じって怪我人の治療を始める。
そんなソフィアを見て、オロオロするオリビア。
「え… っと… 私は何をすれば…?」
「オーリャさんは炊き出しのお手伝いをお願いします! 中央付近に大勢の人が集まってる気配がしますから、食事の準備をしてると思います!」
ソフィアに言われ、オリビアは食料を運ぶ荷馬車を手配していた事を思い出した。
「分かりました! こちらは任せます!」
言って走り出すオリビア。
その後ろ姿を見送りながら、ソフィアは考える。
(オーリャさんって、調理した事ありましたっけ…? まぁ、私も人の事は言えませんが…)
何とかなるだろうと思い、怪我人の治療に集中するソフィアだった。
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「は~い、並んで並んで~! 充分に量はあるから、慌てなくても食べられるからな~!」
大鍋をかき回しながら声を張り上げるオリビア。
案外、こんな仕事も向いているのではないかと思っていた。
…のかは定かではない。
だが、オリビアが楽しんでいたのは間違いない事実だった。
もっとも、被災者達はオリビアが楽しんでるのとは真逆で、貰った食事を胃に詰め込むのに必死だった。
ソフィアは司祭や司教達と共に必死で怪我人の治療を行い、気が付けば朝日が昇る時間になっていた。
「ふわぁあああ~… もう朝なんですね…? 怪我人の治療もいちだんらくしましたし、そろそろ王都に戻りましょうか…?」
ソフィアの提案にオリビアは頷き、共に聖女邸へと馬車で向かったのだった。
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「んふっ… うふふっ… ぐふふふふふっ♪」
聖女邸に戻ったオリビアは鞘から抜いた剣を眺め、周りの誰もがドン引きする不審な笑みを浮かべていた。
「オリビア様… こう言っては何ですが、凄く不気味ですよ…?」
アンナが眉をしかめて注意するが…
「えっ? そ… そうかなぁ…?」
と、ニヤけた表情のままのオリビア。
「そうですよ… ソフィア様は何も言わなかったんですか? 聖女邸に到着した時には寝てらっしゃいましたけど…」
若干引きながらシンディが聞くと、オリビアはニヤけた表情のまま振り返って答える。
「あぁ、ソフィア様は馬車に乗るなり寝ちゃったからな。さすがに8歳で徹夜は堪えたんだろう…」
アンナとシンディは、然もありなんと頷く。
そして互いに顔を見合せ、違う意味で頷き…
「…で? その不気味なニヤけた表情は何なんですか? 問題が無ければ教えて頂きたいんですが…」
「アンナさんの言う通りですよ… なんだか凄く怖いんですけど…」
シンディがアンナに続いて言うと、さすがのオリビアも真剣な表情に戻す。
が、すぐにニヤけた表情になり…
「いやぁ~♪ 帰ってる途中でさ、オーガの群れに遭遇したんだよ♪ 割と近くに居たからさ、襲って来やがったらアレだろ? 気持ち良く寝てるソフィア様を起こすのは忍びないんで、ソッと馬車を降りて大暴れしてやったんだよ♪ グレイヤールに残ってたリーダー格の魔物を切り刻んだ時も楽しかったけど、その時よりも数が多かったからね~。3倍は居たのかな? 興奮冷め遣らぬってヤツ? その上でソフィア様をお姫様抱っこで寝室まで運べたんだよ? そりゃ~ニヤけても当然じゃんか♡」
安定の狂乱振り(?)とソフィアへの愛情(?)を披露するオリビアを、アンナとシンディは冷め切った眼で見詰めていた。
「さ~て、私も少し寝るとするかな? 何だかんだで徹夜だったからね♪」
周囲の視線に気付いてるのか気付いてないのか、オリビアは伸びをしながら寝室へと向かうのだった。
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「ふあぁあああああ~… おふぁようごじゃいまふ~… って、もう昼過ぎなんですね?」
午後も2時を過ぎた頃、ようやくソフィアが起きてきた。
「おはようございます、ソフィア様。よく眠れましたか?」
「はい♪ 馬車に乗った直後から記憶がありませんけど… きっと、乗ってすぐに寝ちゃったんでしょうね。なので、今はすっかり元気です♡」
アンナの質問に、ガッツポーズで応えるソフィア。
その隣では、ナンシーが辺りを見渡し…
「ところでオリビア様は? いつもソフィアの側に居る筈だけど、見当たらないわね…?」
と、オリビアの姿が見えない事に不審がっていた。
ソフィアは苦笑を浮かべ、自分の部屋の方向を指差す。
「まだ寝てますよ。私が起きたら隣で寝てたんでビックリしましたけど… まぁ、幸せそうな顔で寝てましたんで、起こさずに来たんですけどね」
「「「…………………」」」
アンナ、シンディ、ナンシーは一気に力が抜けたのか、床にへたり込んでしまった。
いや、近くで話を聞いていたメイド達も、全員がへたり込みはしなかったものの、『何をしてるんだ、あの公爵令嬢は…』と、言わんばかりに遮光器土偶みたいな表情になっていた。
何人かは埴輪みたいな表情になっていたが…
とにかくソフィアに添い寝した──幸せそうな顔をしていた事も含め──事で、やはりオリビアはソフィアを愛するレズなのでは?
との噂が更に広まったのだった。
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「仕方無いだろぉおおおおおっ!!!! ソフィア様の可愛らしい寝顔を見て、添い寝したいと思うのは自然だろっ!? 放っておけないだろっ!? 一緒に寝たいと思うだろっ!?」
力説するオリビアを、アンナとナンシーはジト目で見詰めるが…
シンディや他のメイド達は、なるほどとばかりに頷いていた。
「えっ…? 私に同意してるのって、アンナさんだけ? 皆、オリビア様みたいにソフィアと一緒に寝たいの?」
ナンシーは、信じられないとばかりに周囲を見渡す。
「いやまぁ… オリビア様の言う事も、少しは理解できますわね…」
アンナが言うと、ナンシーは『えっ?』と彼女を振り向く。
「確かに放ってはおけないのよ… ソフィア様、ベッドで寝るのに慣れてないのか、時々だけど床で寝てるの。時々ね… しばしばだったかも… いや、しょっちゅうね…」
「ソフィア、まだ奴隷だった頃のクセが抜けないんですね…?」
ナンシーが呆れた様に言うと、黙って頷くアンナとシンディ。
「まぁ、ソフィア様のクセも問題だけど… オリビア様にも釘を刺しておかないと、越えてはいけない一線を越えそうよね…?」
ボソッと言うアンナ。
何となく意味を察したシンディとナンシーは、目を丸くして真っ赤になるのだった。
いや、アンナの一言が聞こえたメイド達は、全員が同じ様に真っ赤になっていた。
そして、オリビアがソフィアを愛するレズかも知れないと言う噂は国王の耳にも入り…
オリビアにはソフィアへの“過度の接触”が、王命に依り禁止されたのだった。




