第46話 グレイヤールを救え! ~後編~
「オーガが3体… ハイ・オークが5体… ホブゴブリンが6体か… さすがに手に余るな…」
オリビアは剣を中段に構え、体重を両脚に対して均等に掛ける。
『グガゥッ!』
オーガの1体が吠えると、魔物達はソフィアとオリビアの周囲を取り囲む。
「ヤツがリーダーか…? いや、そう決め付けるのは早計か…」
油断無く魔物達を見渡すオリビア。
その背後に背中合わせでソフィアが立つ。
「オーリャさんの背中は私が守ります。後ろは気にしないで、好きに戦って下さい」
「ソフィア様…♡」
ソフィアの言葉に感動(?)するオリビアだったが…
「じゃ、行きますよ! 炎網!」
瞬間、ソフィアの前にメラメラと燃え盛る網が現れ、オーガ2体、ハイ・オーク3体、ホブゴブリン2体が捕えられる。
『グギャァアアアアッ!』
『ガォオオオオッ!』
捕えられた魔物達は身動き出来ず、生きたまま焼かれていく。
オリビアと対峙していた魔物達は、その様子を見て我先にと踵を返して逃げ出した。
オリビアはソフィアに向き直ると…
「ソフィア様… 私の出番、無くなったみたいなんですけど…?」
と、愚痴を溢す。
「う~ん… 炎網じゃなくて、拘束網にした方が良かったかも知れませんねぇ…」
オリビアは大きく溜め息を吐き、剣を鞘に納める。
「まぁ、やってしまった事は仕方無いです。今は逃げた魔物を追うより、生存者の保護を優先させましょう。この様子だと、状況は芳しくありませんが…」
オリビアが周囲を見渡しながら言うと、ソフィアも表情を曇らせて頷く。
2人の目に入る範囲だけでも、魔物に引き裂かれたであろう死体が何体も転がっていた。
思わずソフィアは目を背け、胃の中の物を吐き出す。
「うげっ… げぇっ…」
「ソフィア様、大丈夫ですか…?」
オリビアがソフィアの背中を擦りながら聞くと、ソフィアは涙目になりながら答える。
「さ… さすがに平気ですとは言えませんが、ジッとしているワケにもいきません。せーぞんしゃを探しましょう」
オリビアはコクリと頷くとソフィアの脇に手を掛け、抱える様にして立ち上がる。
「オ… オーリャさん…?」
「無理しないで下さい。生存者の捜索なら、このままでも行えます。それと、言い難い事ですが…」
「???」
首を傾げるソフィアに、オリビアは眉根を寄せて言う。
「今後… この様な光景を目にする機会は、きっと多くなります。今すぐにとは言いません。厳しいでしょうが、慣れて下さい」
ソフィアは少し考え、やがて大きく頷く。
魔王が現れる前には魔物が活性化する
今回の一件がそうだとは限らないが、やがて起きる事には変わりない。
そうなれば、同じ様な光景…
いや、もっと酷い光景を目にする事もあるだろう。
そんな中で魔物と対峙した時、目を背けて吐いている場合ではない事を理解した。
「でも… さすがに慣れるのは苦労しそうですね…」
苦笑するソフィアに、オリビアも苦笑で返すのだった。
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「くそっ! こいつら何体居やがるんだよっ!?」
「うぉおおおっ! こんな事して、ただで済むと思ってんのかぁああああっ!」
「そっちにもオークが居るぞ! 回り込め!」
「生存者は居るか!? 居たら返事しろ!」
「我々は王都から救援に来た近衛兵と義勇兵だ! 馬車で安全な場所まで行くぞ!」
近衛兵や義勇兵が魔物と戦う声や、生存者に呼び掛ける声が飛び交う。
また、あちこちでグレイヤール住民の悲鳴や叫び声、逃げ惑う声が響き渡る。
そんな中を、ソフィアとオリビアは魔物を倒しつつ生存者を捜索しながら歩く。
「この辺りに生存者は居ない様ですね…?」
周囲を見渡しながらオリビアが言う。
「そうですね… いや、ちょっと待って下さい…」
ソフィアは眼を閉じて、周囲の音を聞く事に集中する。
しばらくすると、何か聞こえたのか走り出す。
「ソフィア様!?」
後に続いてオリビアも走る。
(私には何も聞こえなかったが… ソフィア様には何か聞こえたのか? いや、そんな事はどうでも良い! 生存者が居るのなら、それを救う方が先決だ!)
走った先に崩れた家屋が在り、ソフィアは中を覗き込む。
「オーリャさん! 中に人が!」
「分かりました、離れていて下さい」
言ってオリビアが瓦礫を退かせると、1人の女性が姿を現す。
「しっかりしろ! 助けに来たぞ! もう大丈夫だ!」」
オリビアが女性を助け起こすと、その下に幼女が横たわっていた。
その幼女をソフィアが抱き上げる。
「この女性の子供さんでしょうか? きっと、家が崩れてきたんで咄嗟に庇ったんでしょう。擦り傷は負ってますが、問題はありませんね」
「こちらは何ヶ所か骨折している様ですが、命に別状はありません。急いで馬車まで運びましょう」
ソフィアとオリビアは互いに頷き合い、馬車の待機場所まで走る。
途中でゴブリンやオーク、リザードマンが立ち塞がるが、オリビアは剣で、ソフィアは魔法で軽く蹴散らしていく。
「ちっ! もう少し街中に入った場所で待機させるべきだったか! グレイヤールは小さな街だが、混乱状態だと意外に広く感じるな!」
「そうですね… オーリャさん、馬車がたいきしている場所は、どの方向ですか?」
ソフィアの質問に、オリビアは剣で方向を指し示す。
「この方向ですが… ソフィア様、もしかして…?」
「ちょっと待って下さい… うん、大丈夫そうですね。魔物の気配は感じますが、人の気配は感じません」
言ってソフィアは手に魔力を込め…
「爆烈風!」
ソフィアの力ある言葉で散乱した瓦礫が吹き飛ぶ。
そして…
「氷洞穴!」
氷で作られた通路が馬車の待機場所まで伸びる。
分厚い氷の壁が魔物を阻み、ソフィアとオリビアは安全に馬車まで母娘を運ぶ。
勿論、道中で母親の骨折はソフィアが治療済みである。
馬車に乗せた母娘が街の外に出たのを見届けたソフィアは氷の壁を溶かし、生存者の捜索を再開しつつ魔物を倒していった。
そして、そろそろ日も落ちる頃…
「どうやら、せーぞんしゃは全て街の外へ運び出せた様ですね…?」
「えぇ… それと、魔物も退治し尽くしたみたいですね。リーダー格のオーガ、ハイ・オーク、ホブゴブリンは残ってる様ですが…」
言ってオリビアは剣を構える。
その前にオーガ1体、ハイ・オーク2体、ホブゴブリン4体が、殺意を漲らせて立っていた。
「全部生き残ってやがったか… まぁ、私としては暴れ足りなかったからな… その鬱憤を晴らさせて貰おうか。ソフィア様、手出し無用に願いますよ?」
ソフィアは苦笑しながら頷く。
その後のオリビアの戦いは凄まじく、残っていたリーダー格の魔物は無惨な姿を曝す事になった。
(オーリャさんの言っていた〝目を背ける様な光景への慣れ〟ですが… オーリャさんと一緒に戦ってたら、自然と慣れる気がしますね…)
オリビアの手に依ってなますにされた魔物達を見て、そう思うソフィアであった。




