第45話 グレイヤールを救え! ~前編~
王宮からグレイヤールの危機を知らされたソフィア達は、急いで迎撃準備に取り掛かる。
と言っても、ソフィア自身は動き易い服装に着替えるだけで、他にする事はなかった。
オリビアはライトアーマーを着込みながら、アンナにハンターギルドと冒険者ギルドへ知らせる事を要請。
先日のトロール退治の時と同様、義勇兵を集める為だが、事細かに指示を出す。
「アンナ殿、今回は前回より魔物の数と種類が多い。前回の様にBランク以上のハンターや冒険者に限定する必要は無い。出来るだけ多くを集める必要があるから、Cランク以上まで募集範囲を広げてくれ。Dランク以下でも戦闘経験が豊富なら、志願するヤツは討伐隊に加えて構わない。ただ、FランクとEランクに上がったばかりのヤツは、志願しても受け入れないでくれ。どちらも戦闘経験皆無か、あっても弱っちい魔物や魔獣しか相手にした事がない連中だ。足手纏いにしかならないし、下手すりゃ味方の足を引っ張る事になりかねないからな。それと、私とソフィア様も準備が調ったら街へ向かって馬車の手配をするから」
「了解しました。シンディ、今の話は聞いたわね? 私はハンターギルドに行くから、貴女は冒険者ギルドへ行って、今の話を伝えなさい!」
言って走り出すアンナ。
「は… はいっ! 分かりました!」
返事をしつつ、アンナに続いて走り出すシンディ。
だが…
そのアンナは外に出ず、メイド達の部屋へと駆け込む。
「へっ…? アンナさん、ギルドへ行くんじゃ…?」
疑問を口にするシンディに振り返り、アンナは当然の様に言う。
「シンディ… 貴女、何を言ってるの? 走ってギルドへ行くより、馬の方が早いでしょう? だから着替えるのよ。この格好──メイド服──で馬に乗れないでしょう? それとも、その格好で馬に乗るつもり? 下手したらスカートが捲れ上がって、下着が丸見えになるわよ?」
意味を理解したシンディはアンナに倣って着替え、馬小屋へと向かうが…
「あの~、アンナさん… 私、馬に乗った事ありませんけど…」
「でしょうね。だから私の後ろに乗りなさい。振り落とされない様、しっかり掴まってるのよ?」
アンナは馬に跨がると、ヒョイッとシンディを引き上げ後ろに乗せる。
そして…
「行くわよっ!」
言うが早いか、アンナは馬を駆け出させる。
「いやぁあああああっ! 落ちるっ! 落ちるぅうううううううっ!!!!」
馬はシンディの絶叫を残し、あっと言う間に見えなくなった。
その様子を窓から眺めていたソフィアはオリビアに言う。
「アンナさん、シンディさんを前に乗せた方が良かったんじゃ…?」
「ですね… シンディ、街に着くまでに振り落とされなければ良いのですが…」
オリビアは遮光器土偶の様な眼になり答える。
「シンディさんの冥福を祈りましょう」
「死んでませんけどね…」
胸の前で手を組み、眼を閉じるソフィアに突っ込むオリビアだった。
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「はぁっ、はぁっ、はぁああぁぁ~… し… 死ぬかと思いました…」
馬から降りたシンディは、真っ青になって汗をダラダラ流しながら言う。
「だから、しっかり掴まってなさいって言ったでしょう? 馬を駆けさせれば5分も掛からないんだから、それぐらいは耐えなきゃ」
「簡単に言わないで下さい… そもそもその鞍、ちょっと大きいけど1人用でしょ? だから同乗する為の鐙すら無いじゃないですか…」
しれっと言うアンナにシンディが鞍を指差して言うと…
「この鞍、ちょっと大きいから2人乗り用よ? だから同乗者用の鐙も付いてるわよ? ホラ…」
馬に乗ったままのアンナが指差す先には、確かに同乗者用の鐙が付いていた。
だが…
「それ… アンナさんが使ってる鐙の前に付いてますけど…? 私、後ろに乗せられましたよね…?」
シンディの抗議にアンナはシンディにニッコリ微笑むと…
「先に言った通り、私はハンターギルドに知らせるから。シンディは冒険者ギルドに知らせてちょうだいね?」
言って馬に乗ったままハンターギルドへと向かう。
が、その頬に一筋の汗が流れるのをシンディは見逃さなかった。
「アンナさん… 誤魔化したわね…?」
シンディは大きく溜め息を吐き、隣の冒険者ギルドへと向かった。
話を聞いた両ギルドのギルドマスターは、職員達に命じて王都内に居るCランク以上のハンターや冒険者をかき集める。
また、Dランク以下のハンターや冒険者も、戦闘経験が豊富であればギルド前の広場に集まる様に指示した。
程無くして両ギルド前の広場には多くのハンターや冒険者が集まり、ほぼ同時にソフィアとオリビアが十数台の幌馬車を率いてやって来た。
オリビアは聖女専用馬車から降りると、素早く幌馬車の上へと登る。
幌を支える骨組みの2本に足を乗せて立つと、周囲を見渡し咳払いを一つ。
グレイヤール救援の演説を始めようとした時…
「えいっ」
ソフィアがオリビアが足を乗せている骨組みの一つをドンッと叩く。
「おわっ! とっとっ… だぁあああああっ!!!!」
ぼふっ!
オリビアはバランスを崩し、幌に倒れ込む。
ソフィアは振り返り、ペコリとお辞儀すると話し出す。
「皆さん! グレイヤールが魔物の集団にしゅうげきされているそうです! 現在、グレイヤールの自警団やハンター達が戦っていますが、苦戦しているそうです! お願いします! 私と一緒にグレイヤールのきゅうえんに向かって下さい!」
ソフィアが言うと、集まったハンターや冒険者は我先にと幌馬車に乗り込む。
オリビアはなんとか身体を起こし、幌の上から顔を出すと…
「ソ… ソフィア様、なんで…?」
「すいません。オーリャさんの話が長くなりそうだったので… 少しでも早くグレイヤールに行かなくちゃいけませんからね。さぁ、オーリャさんも早く乗って下さい。出発しますよ」
言いつつ聖女専用馬車に乗り込むソフィア。
「ソフィア様ぁ…」
涙をダバダバ流しながらオリビアが乗り込むと、ソフィア達の馬車は集団の中程に位置する形で出発した。
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グレイヤールの街が視界に入ると、街のあちこちから煙や砂埃が立ち上っていた。
「私達より先に王宮から近衛兵が救援に駆け付けてる筈ですから、彼等が戦ってるのかも知れませんね…」
様子を見たオリビアがソフィアに伝えると、ソフィアは眉間に皺を寄せて表情を険しくする。
「あの様子だと、まだまだ魔物は残ってそうですね…」
「ですね… ここからでは戦局は判りませんが、少なくとも有利に戦っているとは思えません。まずは生存者を保護しなくてはいけませんね」
オリビアの言葉に頷くソフィア。
そしてグレイヤールの街へと馬車の集団は入っていく。
「よし! 魔物を一掃するぞ! ただし、生存者を見付けたら保護して馬車で街の外へ運べ! 安全な所へ運んだら引き返して魔物をブチ殺せ!」
オリビアが叫ぶとハンター達や冒険者達は馬車から降り、それぞれの判断で散らばっていく。
ソフィアとオリビアは、魔物の集団を統率しているであろうオーガ、ハイ・オーク、ホブゴブリンの探索を始める。
しばらくすると、何かを感じたのかソフィアが走り出す。
「オーリャさん、こっちです! こっちに大きな気配を感じます!」
慌ててソフィアの後を追うオリビア。
「ソフィア様、大きな気配とは!? もしや、魔物の集団を操るオーガ、ハイ・オーク、ホブゴブリンの気配ですか!?」
「そこまでは判りませんが、その可能性は考えられます!」
やがてソフィアとオリビアの前に、オーガ、ハイ・オーク、ホブゴブリンの集団が姿を現したのだった。
「こりゃあ… 一筋縄では行かないかも知れないな…」
オリビアは剣を抜き、十数頭のオーガ、ハイ・オーク、ホブゴブリンを睨み付けるのだった。




