第44話 聖女としての自覚?
「聖女としての自覚が無いわね…」
「聖女としての自覚がありませんね…」
「聖女としての自覚を持って貰わなければ…」
「聖女としての自覚… どうすれば持って貰えるのかしら…」
ナンシー、シンディ、オリビア、アンナの4人は、聖女としての自覚が全く無いソフィアに頭を悩ませていた。
と言うのも仕方無い。
先日の民達からの願い…
と言って良いのか分からないが、怪我や病気を治して欲しいと言う願いを聞くのは構わない。
だが、壊れたペンダントを直すのはともかくとして、草むしりして欲しいと言う聖女に関係無いとしか思えない願い(?)に対してまで積極的に向き合うのは如何なモノかと、彼女達は愚痴をこぼしていた。
なにしろ王宮の聖女邸から大聖堂の聖女邸へと移るやいなや、ソフィアは庭の草むしりを始めたのだから。
メイド達が慌てる中、4人は庭の片隅で立ったまま会議を始める。
「ナンシー。お前、ソフィア様の同僚だったんだろ? 何かソフィア様に〝聖女としての自覚〟を芽生えさせられる方法、思い付かないか?」
オリビアに聞かれたナンシーは、腕を組んで考え込む。
「そう言われましても… 一緒に居たのは1ヶ月ぐらいだったし、話した事も無かったから…」
答えが出そうにないと思ったオリビアは、アンナとシンディにも質問をする。
「アンナ殿とシンディはどうだ? 2人はバドルス侯爵がソフィア様を連れ帰った時から見てきたんだろう? 特にアンナ殿はメイド長として、多くのメイド達に心構えを教育してきた筈だ。その経験から、何か良い方法を思い付かないか?」
言われて考える2人だったが、やはり何も思い付かなかった。
そもそもソフィアの出自が問題を複雑にしていた。
メイド達の中にはソフィアと同じく奴隷商から買われた者も居たが、ソフィアの様に3年も奴隷商に居た者は皆無。
その為、ほんの少し教育するだけで普通に雇われたメイドと変わらない状態になったのだが…
幼少期の多感な3年を奴隷として過ごしたソフィアには、全くと言っても過言ではない程に普通から掛け離れた事が普通となっており、少しばかり教育した程度では聖女としての自覚を芽生えさせるのは不可能と思えた。
「私には何も思い付きませんね… アンナさんはどうですか?」
「私は何度も何度も何度も、聖女としての自覚を促しましたが… ソフィア様は、その時だけは反省したり考えや行動を改める様な事を仰るんですよ… ですが、私の目が届かない所で… と言うか、私の目を盗んでは食堂のテーブルを拭いたり、食事の後に食器を片付けたり、朝早く起きて掃除をしたりと、かつて奴隷だった頃の習慣… と言って良いのか分かりませんが…」
「ストップ! もう良い、解った! ソフィア様に対し、普通に『聖女としての自覚を持って下さい』と言っても通じないのがな!」
半ばヤケクソになったかの様にオリビアが叫ぶ。
そんなオリビアを見て、アンナが聞く。
「…では、オリビア様はソフィア様に聖女としての自覚を持って貰うのは諦めると…?」
その言葉に対し、オリビアはキッとアンナを睨む。
「諦めるとは言ってない。だが、ソフィア様に無理強いしても、聖女としての自覚を持って貰うのは無理だってのも理解した。ならば私達に出来る事はただ1つ! それは…」
「「それは…?」」
アンナとシンディが、次の言葉を促す。
「ソフィア様が聖女としての自覚を持ってくれるまで、ただひたすらに待つのみだ!」
アンナとシンディは半眼になり…
「「それ、教育を放棄してるだけですよ…」」
と、揃って大きな溜め息を吐いたのだった。
そして、庭の草むしりを終えたソフィアは、満足気に額の汗を拭う。
そんな彼女とは対照的に、メイド達は…
「あぁ~… ドレスが… ドレスがぁ~…」
「ソフィア様が… あんなに泥だらけになって…」
遮光器土偶の様な眼になって涙を流していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃、1人の男が騎馬で王宮の門に迫っていた。
「止まれ! 何者だ!」
数名の門番が騎馬の男の前に立ちはだかると、騎馬の男は手綱を引いて馬を止める。
「緊急の事にて馬上より失礼いたす! グレイヤールからの救援要請の使者にございます!」
「救援要請だと!? グレイヤールで何かあったのか!?」
騎馬の男が馬を降りながら説明すると、門番の1人が慌てて走り出す。
王宮の入り口で警備の兵士に取り次ぐと、兵士は顔色を変えてダッシュする。
そして…
「大変です! 王都から西へ20㎞の距離に在る街、グレイヤールが魔物の集団に襲われているとの事です!」
警備の兵士は防衛大臣の部屋に入るやいなや、大声で伝える。
「何だと!? 魔物の種類や数は判っているのか!?」
「はっ! オーガ、ハイ・オーク、ホブゴブリンが数頭。それらに率いられる形でオーク、リザードマン、ゴブリン、コボルトが、それぞれ数十頭前後だそうで、細かくは不明との事です! 現在、グレイヤールのハンターや自警団が応戦しているとの事ですが、長くは持ちそうにないそうです!」
防衛大臣は報告を聞くと、兵士に近衛兵の詰所へ知らせる様に指示し、自らは国王に知らせるべく駆け出した。
(まさか、今度こそ魔王が現れる前兆なのではないだろうな…? いや、そんな事を考えるのは後だ! とにかく今はグレイヤールを救わなくては!)
頭を振り、防衛大臣は国王の元へと急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ソフィアは泥だらけになったドレスを脱ぎ、身体を洗うとノンビリ湯船に浸かっていた。
「ふぁあ~… 労働の後のお風呂は気持ち良いですねぇ♡」
そんなソフィアと共に湯船に浸かりながら、オリビア、アンナ、シンディは、互いに顔を見合せて溜め息を吐いていた。
「聖女としての自覚は無いけど、人の役には立ってるんだよなぁ…」
「確かに… 怪我や病気の治療は完璧にこなしてますからね…」
「でも、聖女としての自覚が無いままってのは…」
そんな3人の会話を聞きつつ、ナンシーがソフィアに話し掛ける。
「…だ、そうだけど…? ソフィア自身は自分が聖女って自覚は… その様子じゃ無さそうね…?」
言われたソフィアは目を閉じ、首を傾げて考え込む。
「う~ん… 聖女としての自覚って言われても、何かピンと来ないんですよねぇ… そもそも私って、奴隷だった期間が長かったですしねぇ… 何か言われて、それに対して言われた通りの事をする。それしかやって来なかったですからねぇ…」
ソフィアが言うと、ナンシーは納得したかの様に頷く。
「まぁ、ソフィアの言う事も正論っちゃ~正論だけどね… けどさ、それって命令されたら命令された通りにするって事よね? それなら『聖女として振る舞え』って命令されたら〝聖女として振る舞う〟って事なの?」
ナンシーに言われ、ソフィアは考える。
そして…
「それは… なんだか違う気がしますね… 誰かに言われたから聖女として振る舞うって、なんだか変じゃありませんか?」
ナンシーは軽く溜め息を吐き、ソフィアの肩に手を置く。
「そうよね… そりゃまぁ、ソフィアの性格で聖女として振る舞うのは難しいかも知れないけど、難しく考える事はないんじゃない? 確かにソフィアは聖女なんだけどさ、もっと気楽に構えても良いと思うわよ? 飽くまでも、私の考えだけどね?」
ナンシーの考えを聞き、ソフィアは自らの考えを改めた方が良いのではと思い始めていた。
そんな時、王宮からグレイヤールの危機が知らされたのだった。




