第43話 聖女の仕事、護衛剣士の仕事とは…?
「それじゃあね、ソフィア。会えて嬉しかったわ♪ 聖女って事で大変な事もあると思うけど、頑張りなさいね? ナンシーはソフィアの側近だっけ? しっかり支えてあげなさいよ?」
ラナは2人に言い残し、商店の従業員達と共に荷馬車で去っていった。
ラナとの再会を終えたソフィアは気を取り直し、修練場に戻る。
貴族達の前に出ると深々と頭を下げ、行方を暗ませた事を詫びた。
ソフィアが本来気が弱く、臆病な性格である事を国王とフランク・フォン・バドルス侯爵から聞かされていた貴族達は、彼女の年齢からしても仕方のない事と笑顔で受け入れた。
安心したソフィアは、貴族達の前で魔法を披露する。
「では、まずは風刃から… 風刃!」
ソフィアが手刀を横薙ぎに払うと、不可視の刃が大岩を上下に斬り分ける。
だが…
「…何も起こらないが?」
「…どうなったんだ?」
貴族達の間で疑問の声が上がる。
オリビアはハッとしてソフィアに耳打ちする。
「ソフィア様、真横に斬ったのでは大岩に変化が無い様に見えます。中心より少し上の方を、斜めに斬って下さいますか?」
ソフィアはオリビアの言わんとする事を理解し、大岩に対して斜めに風刃を発動する。
すると、大岩の上部がズルリと滑り落ち、大きな音を立てて地面に落ちる。
「なんと! この距離で、あの大岩を!?」
誰かが驚愕の声を上げる。
その誰かの言う通り、ソフィアから大岩までは100m近くあった。
にも関わらず、硬い大岩を一撃で両断するのは容易に出来る事では無い。
何人かの貴族達は、大岩に駆け寄って切断面を確認。
更に驚いていた。
「なんなんだ、この切断面は…?」
「まるで鋭利な刃物で切られたかの様だ…」
そんな貴族達を見て、オリビアはニヤニヤと笑いながら大岩から離れる様に促す。
「次はソフィア様に大岩を破壊して貰う。司祭達、司教達が防御魔法を展開するから、外壁まで下がって集まっていてくれ」
貴族達が外壁まで下がって集まると、全ての司祭と司教が防御魔法を展開する。
「全員、全力で防御魔法を維持しろ! 1人でも手を抜いたら、破片が突き抜けて貴族様が怪我するかも知れないぞ!」
オリビアの脅し(?)に、全ての司祭と司教が顔を真っ赤にしながら全力を出す。
「ソフィア様、いつでもOKです!」
オリビア自身も防御魔法を全力で展開し、ソフィアに魔法の発動を促す。
「じゃあ、今回は硬物粉砕を使ってみます」
初めて聞く魔法に、オリビアは慌てる。
「な… なんですか、その魔法は!? 初めて聞く魔法なんですけど!?」
「硬い物を砕く魔法ですね。主に鉱山とか街道の開通工事とかで、邪魔な大岩を破壊する為の魔法ですけど… 普通は10人ぐらいの魔導師が連携して使うみたいですけどね」
ソフィアの説明を聞き、聖女としての知識に感心するオリビアだった。
だが…
「いやいやいやっ! そんな10人ぐらいで連携して使う魔法をソフィア様1人で!? いや、ソフィア様なら大丈夫でしょう! だけど我々は… って、言ってる場合じゃないっ! 全員、限界を超えろっ! メイド達も、防御魔法を使える者は展開しろ! 少しでも防御魔法の耐久力を上げるんだ!」
あまりのオリビアの慌て振りに、貴族達も防御魔法を展開する。
そして…
「硬物粉砕!」
ソフィアが魔法を発動すると、一瞬にして大岩が爆散する。
その破片は凄まじい勢いで防御魔法を突き破った。
貴族達は外壁の一部に沿って集まっていた事が幸いし、何重にも張られた防御魔法に守られて怪我人は居なかった。
オリビアも防御魔法を全力で展開していたが、貴族達から少し離れた位置に居た事が災いし、怪我こそ無かったものの防御魔法を突き抜けた破片のいくつかが身体に当たっていた。
「い… 痛てて… やっぱりソフィア様の魔法は強力に過ぎるな… まぁ、これで貴殿達もソフィア様の魔法の威力は理解しただろう? 司祭や司教達の魔法が力不足なんじゃなくて、ソフィア様の魔法の威力が凄過ぎるんだって事がな…」
オリビアの言葉に、貴族達は黙って頷くしかなかった。
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毎日ソフィアは勉強と魔法の修練に励んでいる。
そして週に一度、民の怪我や病気を治したり、願いを叶える事に邁進していた。
「ソフィア様。ワシは畑仕事で腰を痛めましてのぅ… 治して下さらんか?」
「はい、私で良ければ喜んで♪」
「ソフィア様。俺は護衛の仕事で腕を折られちまいやして… 治して貰えやすか?」
「はい、私で良ければ喜んで♪」
「ソフィアお姉ちゃん… 私の大切なペンダント、壊れちゃったの… 直して貰える?」
「はい、私で良ければ喜んで♪」
「ソフィア様。最近、中央広場の雑草が酷い状態でしてな… 草むしりして下さらんか?」
「はい、私で良ければ…」
「ちょっと待ったぁあああああっ!」
何でもかんでも引き受けようとするソフィアに、オリビアが待ったを掛ける。
「ソフィア様! 草むしりなど、聖女の仕事ではありません! 貴様も貴様だ! ソフィア様の人の良さに付け込んで草むしりをさせようなどとは無礼千万! 素っ首叩っ斬って…」
「オリビア様、それはやり過ぎです」
オリビアが激昂して剣を抜こうとするが、アンナが透かさず柄を押さえて抜かせない。
「ソフィア様の事を思う気持ちは理解しますが、むやみに剣を抜こうとするのはお止め下さい」
「アンナ殿… しかしながら、此奴の…」
怒りを隠そうともしないオリビアに、アンナは静かに首を振る。
「気持ちは解ります。ですが、ここは穏便に…」
そしてアンナは草むしりを頼んだ者に向き直り…
「そこの方! オリビア様の仰る通り、草むしりは聖女様の仕事ではありません! ボランティアを募るか、中央広場を管轄している自治会に働き掛けなさい! ソフィア様に頼むのは筋違いです!」
と、オリビアすら引く程の剣幕で捲し立てた。
「す… すみませんでしたあああぁぁぁ…」
走り去る男を冷めた目で見るアンナは、次にオリビアを説教する。
「オリビア様… 先程も申しましたが、ソフィア様の事になると後先考えずに剣を抜くクセは治して下さい。ソフィア様が襲われ、守る為に… と言うならまだしも、そうでもないのに誰かを傷付けたりでもしたら… 少なくともオリビア様は幽閉の身となり、ソフィア様の護衛剣士としては認められなくなりますよ?」
アンナの言葉に、オリビアは青褪める。
「そ… それはマズいな… 私の夢はソフィア様の護衛剣士… それを全う出来なくなるのは…」
ブツブツ言うオリビアに、アンナはコクリと頷く。
「ならば、少しは自重して下さいませ。オリビア様が護衛剣士の任を解かれたら、誰がソフィア様の護衛剣士を務めるのですか? 私の知る限り、オリビア様以外で任に耐え得る人物は居ないのではないかと… ですので、くれぐれも軽はずみな行動はしないで下さいませ」
アンナから諭され、オリビアは…
「…了解した。今後はソフィア様の護衛剣士としての任を全う出来る様、軽はずみな行動はしないと誓おう」
と、決意を新たにした。
次にアンナは、何でもかんでも引き受けようとするソフィアに説教しようと振り返る。
「それからソフィア様… って、あらっ…?」
…が、ソフィアの姿が見当たらない。
オリビアも辺りを見回すが、やはりソフィアは見付からない。
「まさかと思うが… おい! 誰か、ソフィア様が何処に行ったか知らないか?」
すると、同行していたメイド達が一斉に中央広場の方を指差し…
「民達を治療した後、草むしりすると言って中央広場に向かわれました…」
「「やっぱり…」」
アンナとオリビアは揃って肩を落とし、大きな溜め息を吐いたのだった。
その頃、ソフィアは…
「草む~しり♪ 草む~しり♪ い~っぱい雑草をむしって、中央広場を綺麗にしましょ~♪」
と、1人で中央広場の草むしりを楽しみ、周囲の民達を唖然とさせていた。




