第39話 ソフィアの強力な魔法とメイド達の悲痛な叫び
オリビアが火山と噴火と雪崩を説明し、ようやくソフィアは納得する。
「魔王って、そんな現れ方するんですね…? 初めて知りました」
「そうです… 理解して頂けた様ですね…」
一般常識を知らないソフィアへの説明は難しく、オリビアは疲れ果てて机に突っ伏していた。
「何も知らないとは聞いてたけど、火山も噴火も雪崩も知らないとは思わなかったわ…」
ナンシーが呆れた様に言う。
「仕方無いですよ。何も知らないまま奴隷になりましたから。奴隷商では、誰も何も教えてくれませんでしたしねぇ…」
ソフィアは照れ笑いを浮かべ、指先で頬を掻きつつ答える。
ナンシーは思う。
(ソフィアらしいと言えば、ソフィアらしいわね… あの後ラナさんから聞いたけど、ソフィアはありのままを受け入れる性格だって… 自分の境遇も、周りからの扱いも… ただ、自分が誰かの上として扱われるのには馴染めないみたいだけど…)
聖女の能力に目覚め、大きな力を手に入れた筈のソフィア。
そんな彼女が率先して庭の草むしりをしたり、テーブルを拭いたり食器を片付けてるのを見ていると、ナンシーには本当に彼女が聖女なのか分からなくなる事があった。
それはナンシーに限った事ではなく、アンナやシンディを含めたメイド達も同様の感想を抱いていた。
しかし、魔法の訓練でソフィアの強力過ぎるパワーを見た事のある者達は、彼女が聖女である事を疑ってはいなかった。
そんな中、1人の男が食堂に入ってくる。
「失礼いたします。王宮からの伝令にございます」
王宮からの伝令と聞き、一同に緊張が走る。
「王宮からだと? 王宮ではトロールの群れに関しての会議をしていた筈だ… もしや、あの一件は魔物の活性化の前兆だったのが確認されたとでも言うのか!?」
「はっ?」
伝令の男はオリビアが何を言ってるのか解らなかった様で、目を点にして首を傾げていた。
「…その様子だと違うみたいですね。では、王宮からは何と?」
1人だけ冷静なアンナが男に聞く。
冷静と言うのが正しいとは言えないが、ソフィアも動揺してはいなかった。
「でんれいって何ですか?」
ただ、何も知らないだけだった…
────────────────
伝令が帰った後、ソフィア達は修練場へと馬車を走らせる。
──オリビア指導の下、ソフィア様に魔法の訓練を行え──
これが王宮からの指示であった。
訓練後の夕食を準備する者を残し、多くのメイド達も修練場へと向かう。
「ソフィア様の魔法って、どんなのかしら?」
「聞いた話だと、凄い威力らしいわよ?」
「私達、危なくないかしら…?」
「大丈夫じゃない? オリビア様や司祭様、司教様達が防御魔法を展開するって聞いたわよ?」
5台の馬車に分乗したメイド達は、それぞれの馬車の中で期待と不安を口にしていた。
そんな中、ソフィアの馬車に同乗するオリビアは、ソフィアの魔法を間近で見られる事に無表情で喜んでいた。
が…
「オーリャさん、そんなに期待しないで下さい。私、まだまだ魔法を扱い慣れてないんですから…」
「えっ…? でも、この間の風刃は…?」
ソフィアがキング・トロールを一撃の風刃で屠ったのをオリビアが見たのは、つい先日の事である。
そんなソフィアがまだまだと言っても、俄には信じられないオリビアだった。
「首を斬り落とせば良いと思ったんで、咄嗟に思い付きで使ったんですよ」
「は…? はぁ…」
オリビアはどう反応すれば良いのか判らなかった。
(思い付きで使ってあの威力とは… なら、他の魔法は…? 修練場に着いたら、ソフィア様の魔法を見た事のある司祭や司教に聞いてみるか…)
やがて馬車が修練場に着くと、オリビアは近くに居た司祭を呼び止める。
「ソフィア様の魔法ですか? それはもう、凄まじいの一言に尽きますよ。火球も雷撃も、一撃で大岩を粉砕しましたからねぇ♪」
オリビアからソフィアの魔法について聞かれた司祭は、恍惚としながらも興奮気味に話す。
「そんなに凄いのか…?」
「それはもう! あんなに威力の高い火球や雷撃は見た事がありません! 火球で大岩を粉砕した記録は無く、雷撃でも同様です」
話を聞いたオリビアは、ソフィアが魔法を放つ際、司祭や司教達に全力で防御魔法を展開させようと心に誓ったのだった。
修練場に入り、周囲を見渡しながらオリビアが呟く。
「ここで… 歴代の聖女達が魔法を練習していたのか…」
メイド達は、修練場の広さと壁の高さに驚いていた。
「広~い♪」
「壁、高か…」
そして、中央に在る岩の大きさにも驚いていた。
「あの大きな岩で練習するのかな…?」
「大きい… 10mぐらい在るんじゃない…?」
そしてソフィアが岩の方へ進むと、司祭や司教達が防御魔法を展開する。
「全員、防御魔法を全力で維持しろ! 岩の破片が突き抜けてくるぞ!」
オリビアが叫ぶ。
そして…
「凍結弾!」
ソフィアの前に氷のつぶてが無数に現れ、大岩に向かって飛んでいく。
氷のつぶてが大岩に当たると、一瞬にして大岩は氷漬けになる。
多くのメイド達が居る為、ソフィアは大岩を破壊する魔法を避ける事にしたのだった。
しかし、大岩を包み込んだ氷が冷気を放ち、急速に広がって修練場の気温を急激に下げてしまう。
「「「「「さ… 寒いっ!」」」」」
メイド達はあまりの寒さにガタガタと震え出す。
「ソ… ソフィア様…! 氷を… 氷を溶かして下さい…!」
寒さに耐えてオリビアが言うと、ソフィアは掌を氷漬けの大岩に向ける。
「火炎放射!」
ソフィアの掌から炎が伸び、あっという間に大岩を包み込んだ氷が溶けていく。
同時に気温も上昇し、氷が完全に溶ける頃には元の気温に戻っていた。
もっとも、修練場の地面は水浸しになってしまっていたが…
「ソフィア様、次からは使う魔法を予め伝えておいて下さいますか? 司祭様や司教様が防御に使う魔法を判断出来ませんので…」
「ご… ごめんなさいっ!」
ジト目のアンナに言われ、思わず土下座するソフィアだったが…
「あぁ~っ! ドレスが! ドレスがぁあああああっ!!!!」
「ソフィア様! そんな所で土下座しないで下さいませ!」
水浸しの地面に土下座したソフィアのドレスは泥だらけになってしまい、修練場にはメイド達の悲痛な叫び声が響いたのだった。




