第38話 王宮では緊急会議、聖女邸では…?
トロールの群れに因る襲撃を近衛兵や義勇兵の活躍で未然に防げた事で、王都の住民達は安堵していた。
だが、いつまた同様の事が起きるか分からず、国王や大臣達はピリピリしていた。
魔王が現れる前には魔物が活性化する
その前兆ではないかとの噂が、王宮のあちこちで囁かれていたのである。
その為、王宮の会議室には大臣達が集まり、緊急の会議が開かれていた。
「トロールの襲撃が、魔王が現れる前の魔物の活性化の前兆だとしたら… まだソフィア様が聖女の能力に目覚めて間もないと言うのに…」
「その可能性は高い… とまでは言えないが、貴族の各々が持つ領地の兵… いつでも動かせる様にしておいた方が良いのではないか?」
「それでも、魔王相手にどれだけ役に立つかは判らんがな… いや、まだ魔王が現れると決まったワケではないが…」
「魔導師を抱える貴族はどれぐらい居る? 物理攻撃の効かない下位悪魔や上位悪魔は近衛兵や義勇兵には脅威でも、魔導師なら対処可能だろう?」
等々…
そんな中、国王であるエドワードが口を開く。
「皆の者、少しは落ち着こうぞ。現状では何も判っていないのだ。トロールの襲撃も、偶然なのかも知れないし、そうではないのかも知れない。それに、魔王が現れるとしても、何処に現れるのかも判らんではないか…」
エドワードの指摘に、誰もが黙り込む。
現状では何の対処もできないので、仕方の無い事であった。
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その頃、大聖堂の聖女邸では…
「ソフィア様! その様な事は私達が…!」
「お止め下さい! ドレスが! ドレスが汚れてしまいます!」
「大丈夫ですよ♪ これぐらい、慣れてますから♪」
ソフィアが厨房の拭き掃除をし、メイド達が慌てて制止すると言う、見慣れた光景が繰り広げられていた。
「貴女達、何を騒いで… って、またですか、ソフィア様…?」
アンナの呆れた声に、ソフィアはピシィッと固まる。
「ア… アンナさん…?」
ギギィ~っと引き攣った表情で振り返るソフィア。
声と同様に表情も呆れていたアンナだが、その隣に居るナンシーも呆れていた。
「まだ奴隷だった頃のクセが抜けないの? ラナさんから聞いた事があるんだけど、あんたの担当って掃除とか雑用全般だったそうね? そのクセで、つい掃除しちゃうとか?」
掃除と雑用全般が担当だったと聞き、近くに居たオリビアの顔色が変わる。
「どういう事だ? 普通、掃除や雑用は持ち回りでするモンじゃないのか? まさか、ソフィア様が幼くて小さいからと、お前や他の連中が押し付けていたのではないだろうな!?」
オリビアは猛スピードでナンシーに歩み寄り、胸倉を掴んで壁に押し付け問い質す。
「ちちちちち、違います! 私が奴隷商に入った時には、もうソフィアが担当してたんです!」
首をブンブン振り、自らの関与を否定するナンシー。
「…で、ソフィア様? 掃除と雑用全般を担当していたとは、どういう事ですか?」
オリビアとナンシーのやり取りを無視し、アンナがソフィアに聞く。
「えぇとですね… 前にも言ったと思いますが、私は物覚えが悪くて要領も悪かったですから、掃除や雑用しか出来なかったんですよね… お陰で、そっちは一人前になりました♪ 2年ぐらい掛かりましたけど…」
言って、照れ臭そうにペロッと舌を出すソフィア。
「2年も掛かったの…? 掃除や雑用が一人前になるのに…?」
「いや… 確か奴隷になった当時、ソフィア様は5歳だろ? なら、それぐらいは掛かるんじゃないか…?」
「そうかも知れませんけど… オリビア様とナンシーは、いつまでそうしてるんですか?」
オリビアはナンシーの胸倉を掴み、壁に押し付けた状態で普通に会話し、その様子にアンナが半眼で呆れた様に突っ込む。
「あ… 悪い、ナンシー。ソフィア様の事になると、つい…」
言ってオリビアはナンシーを掴んでいた手を離す。
「いえ… ちょっとビックリしましたけど、気にしてませんから… それにしても、オリビア様はソフィアの事になると… やっぱりレズ…」
「それは絶対に違うっ!!!!」
全力で否定するオリビアだったが、アンナを初めとするメイド達は、全員がナンシーと同じ考え──オリビアはソフィアを愛するレズビアン──を持っていたのだった。
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「…では、各地に領地を持つ貴族は兵や魔導師を纏め、いざというときに備えて訓練等を行って貰う。ソフィア様には魔法の練習に励んで頂き、オリビアにはソフィア様の指導を行う様に伝えよ。これにて会議を終了とする。何か問題があれば、随時報告する様に」
言ってエドワードは席を立ち、会議室を出る。
大臣達は会議で決まった事を手紙で貴族達に伝えるべく、各々執務室に向かうのだった。
エドワードが一息つこうと自室に入ると、お茶の用意をしてタチアナが侍女を伴って待っていた。
「お疲れ様でした、陛下。それで、今後の方針は決まりまして?」
エドワードは黙ってソファーに座り、侍女の淹れたお茶を一口飲む。
カップを置いたエドワードは小さく溜め息を吐き、ソファーに凭れて話し始める。
「…具体的な事は何も決まらなかったと言える。現状、何も判ってないのと同じじゃからな… かと言って、手を拱いているワケにもいかん。各地の貴族達には兵や魔導師の訓練を、ソフィア様にはオリビアの指導で魔法の練習をして頂く事にした。それが、今できる精一杯の事じゃな…」
タチアナはコクリと頷く。
「仕方ありませんわね… いつ、何処に魔王が現れるかも判りませんし、その兆候だとハッキリ言える事も起きてませんものね…」
今度はエドワードがコクリと頷く。
「まぁ、魔王を迎え撃つ為の準備期間を長く取れれば重畳なんじゃがな… トロールの襲撃が、魔物の活性化の前兆でない事を祈るばかりじゃよ…」
「魔物の活性化ですか… 魔物が活性化すると、すぐに魔王が現れますの?」
タチアナが聞くと、エドワードは静かに首を振る。
「過去の文献では、魔王が現れる際には何かしらの天変地異が起きるとある。火山の大噴火であったり、大雪崩であったり、地面が大きく割れたりじゃな… そして、その中から魔王が現れるのじゃと…」
話を聞くタチアナは青褪め、その頬を一筋の汗が流れるのだった。
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聖女邸の食堂では、オリビアが魔王の現れ方をソフィアに説明していた。
また、メイド達も興味があるのか聞きに来ていた。
「過去の文献では、魔王が現れる際には何かしらの天変地異が起きるとあります。火山の噴火だったり、雪崩だったり、地面が割れたりですね。そして、その中から魔王が現れるんだそうです」
「かざん… ふんか… なだれ…」
説明を聞いたソフィアは首を傾げる。
同じくナンシーも首を傾げ、オリビアに質問する。
「火山の噴火の中から現れるって、メチャクチャ熱そうですよね? 焼け死んだりしないんでしょうか? 雪崩の中からってのも、雪崩に巻き込まれたら死んじゃうんじゃ…? それに、割れた地面からどうやって…? よじ登って現れる魔王って、なんかマヌケですよね?」
「ナンシー、お前なぁ…」
思わず脱力してしまうオリビアだったが…
「かざんとかふんかとかなだれって何ですか?」
ナンシーのボケ(?)を超えるソフィアの質問に、全員が椅子からずり落ちたのだった。




