第35話 トロール討伐慰労食事会
アンナは食堂にメイド達を集め、役割を割り振っていく。
食事会用の大量の料理を調理をする者。
食堂に立食用のテーブルを用意する者。
食堂の外、庭に立食用のテーブルを用意する者。
「討伐隊の皆様が来られるまでに準備を終えなくてはなりません! が、急ぎつつも丁寧な作業を心掛けましょう! では、作業開始!」
「「「「はいっ!!」」」」
アンナの号令に元気良く返事をし、作業に取り掛かるメイド達。
そのアンナは周囲をキョロキョロと見回し…
「シンディ… ソフィア様は何処に?」
言われて周囲を見渡すシンディ。
だが、ソフィアの姿は見当たらない。
「ナンシー。貴女、ソフィア様が何処に居るか知らない?」
言われてナンシーは人差し指でこめかみを押さえつつ首を傾げ、記憶を辿る。
「えぇと… 確か… 少し前に食堂から出ていった様な…」
「食堂から出ていった? 部屋で休むとは聞いてないけど…」
アンナが顎に手をやり考えていると、窓の外──庭──が騒がしいのに気付く。
「何を騒いで…?」
窓の方を向くと、庭で食事会の準備をしているメイド達が何やら慌てている姿が見えた。
「ソフィア様、お止め下さい!」
「そうです! その様な事は私達が!」
「あぁっ、ドレスが! ドレスが汚れてしまいます!」
耳を澄ませば、そんな声が聞こえてくる。
「メイド長… これって、もしかしなくても…」
「そうね… シンディの考えてる通りだと思うわ…」
「何をしてるか、大体は想像出来るわね…」
アンナ、シンディ、ナンシーの3人は、遮光器土偶の様な目で語り合った。
アンナ達が庭に出ると、そこにはオロオロするメイド達を余所に、一心不乱に草むしりをするソフィアの姿があった。
「こんな事だろうと思ったわよ…」
ジト目でソフィアを見つめ、独り言ちるナンシー。
「ソフィア様! ドレスが泥だらけではありませんか! シンディ、替えのドレスを持って浴室へ!」
「はいっ!」
返事と共にダッシュでソフィアの部屋へと向かうシンディ。
「ナンシーは私と一緒に来なさい! ソフィア様を洗って差し上げるわよ!」
「ひゃいっ!」
まさかの内容に声が裏返るナンシー。
アンナはソフィアを小脇にヒョイッと抱えると、小走りに浴室へと向かう。
「あの~…?」
アンナの小脇に抱えられて運ばれながら、ソフィアは話し掛ける。
「話し掛けても無駄よ? こうなったアンナさんを止められないのは、ソフィアなら分かるでしょ?」
アンナの隣を付いて走りながら言うナンシー。
「…て事は、ナンシーさんもアンナさんと一緒に私を洗うって事ですか?」
困った様な表情で問い掛けるソフィアにナンシーは少し考え…
「…そうなるかしらね? 他人の身体を洗うなんて初めてだけど、ちょっと楽しみかも♡」
言いつつニンマリと笑うナンシーに、ソフィアは冷や汗を流すのだった。
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「…ナンシーさん… 以前、聖女が他の人達と一緒にお風呂に入るのは変だって言ってませんでしたか?」
アンナとナンシーだけでなく、手の空いていたメイド達に身体を洗われながら聞くソフィア。
「言ってたけど… 皆が普通にソフィアと入ってるのを何度も見て、なんだかバカらしくなっちゃったわよ。それに、何だかんだ言っても、ソフィアと私は同じ身分だったしね…」
「そうでしたね♪ なんだか懐かしいです♪」
「楽しそうに言わないでよ…」
眉根を寄せ、半眼でソフィアを見るナンシー。
すると、脱衣所が騒がしくなり…
「ソフィア様と風呂に入るなら、私を置いてくなぁあああああっ!!」
「「「「きゃぁあああああっ!!!!」」」」
全身にトロールの返り血を浴びたまま浴室に飛び込んで──しかも全裸──きたオリビアに、メイドの少女達が悲鳴を上げる。
「えいっ」
すかさずアンナが手に持っていたタオルをオリビアの足下に投げる。
「うわわわわっ!?」
泡立ったタオルを踏んだオリビアは足を滑らせ…
ずでぇえええええんっ!!!!
見事にコケたのだった。
「あたたたた… アンナ殿、何を… ぅわっぷっ!?」
続けてアンナは何度も洗面器でお湯を浴びせ掛ける。
「もう少し静かに入ってきて下さい! それに、さっさと血を洗い流さないと、メイドの娘達が怖がってるじゃありませんか!」
言われてオリビアが上半身を起こすと、掛けられて流れる湯が赤く染まっているのに気付く。
「あ… す、すまない… ソフィア様がメイド達と風呂に入ってると聞いて、つい…」
オリビアの言葉を聞き、アンナは…
「やっぱりオリビア様ってレ─」
「違うっ!! 断じて違うからっ!!!!」
慌てて否定するオリビアを見て、メイドの少女達は肩を震わせて笑いを堪えていた。
「笑うなよぉおおおお…」
遮光器土偶みたいになった眼から涙をダバダバ流すオリビアだった。
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「それでは、このえへいの皆さん。ぎゆうへいの皆さん。とろーる退治、お疲れ様でした♪ 遠慮無く食べて飲んで、疲れを癒して下さいね♡」
「「「「おぉおおおおおっ!!!!」」」」
ソフィアが音頭を取り、近衛兵と義勇兵がそれに応える。
立食形式にしたからか、聖女邸の庭だけで全員が入れる事が判明。
大急ぎで食堂からテーブルや飲食物を運び出し、青空の下で慰労食事会が催された。
聖女と一緒に食事しながら過ごせるとあって、義勇兵だけでなく近衛兵までもがはしゃいでいた。
「いやぁ~、聖女様がこんなに可愛らしいとは思いませんでしたなぁ♪」
「俺、噂では聞いてたけど、本当に小さな子供だとは思ってなかったよ♪」
「まさか私の子供より若いとは… 聖女様は素晴らしい才能をお持ちなのですなぁ♪」
近衛兵や義勇兵が入れ替わり立ち替わり、ソフィアに話し掛ける。
それに対し、にこやかな笑顔で応えるソフィア。
そんなソフィアを見て、オリビアやアンナ達メイド一同は…
「やっぱり成長なさってる様ですね。以前なら、オロオロするばかりだったでしょうに…」
アンナの感想に、シンディも頷く。
「そうですね。ソフィア様、立派になられましたね」
2人の言葉に頷くメイドの少女達。
しかし、ナンシーだけは冷めた目でソフィアを見ていた。
「そんなワケ無いじゃない… ソフィアの手、少しだけど震えてるわよ? 皆が思ってるより無理してるんじゃない?」
ナンシーの言う通り、楽しそうに会話しているソフィアだったが、確かに手は微かに震えており、緊張しているのは明らかだった。
「これは気の毒だな… 私がソフィア様と一緒に連中の相手をしよう」
言ってソフィアの隣に立ち、近衛兵や義勇兵の相手をし始めるオリビア。
ソフィアはホッとした表情になり、慰労食事会は和やかに進んだのだった。




