第31話 オリビアを嫉妬させるナンシー
ようやく失神から目覚めたソフィアにオリビアが歩み寄る。
「ソフィア様、報告したい事が… 例の魔王崇拝者ですが、思い出しました」
「ふぇっ…? 何をですか…?」
寝ぼけ眼でオリビアを見るソフィア。
彼女はキョロキョロと辺りを見渡し、ある一点で動きを止める。
「彼の者の名はゴードン・ニコルス。私がマークしていた魔王崇拝者の1人で…」
「ナンシーさん!? どうして聖女邸に!? それに、そのメイド服は!? どういう事ですか!?」
話し始めたオリビアに構わず、ナンシーに詰め寄るソフィア。
「あ… あの後マッカーシー大司教様にお願いして… その… ソフィア… 様のメイドにして貰って… で、アンナさんに話したら、これからソフィア… 様の側近として仕えなさいって…」
「嬉しいです♪ それじゃ、これからは一緒に居られるって事なんですね♪」
言いつつナンシーをギュッと抱き締めるソフィア。
ソフィアに悪気は無かったが、完全にオリビアは無視された形になっていた。
─────────────────
「それでは、話させて頂きます」
改めてオリビアは魔王崇拝者についての話を始める。
「もう一度言いますが、例の魔王崇拝者の名はゴードン・ニコルス。私がマークしていた魔王崇拝者の1人です。闘技場で見た時、何処かで見た顔だと思ったんですが… つい先程まで失念していました」
「しつねんって… ど~ゆ~意味ですか?」
キョトンとして聞くソフィアに、思わず崩れ落ちるオリビア。
「失念とは〝度忘れ〟の事です。オリビア様… マークしていたと仰いましたが、先程まで忘れてらっしゃったのですか?」
ソフィアの傍らに立ったアンナが説明し、冷めた目でオリビアを見ながら質問する。
「アンナ殿… そう言わないでくれよ… 私がマークしてた魔王崇拝者は10人を超えてるんだ… 忘れる事だってあるさ…」
指で頬をポリポリ掻き、無表情ながらもばつが悪そうにするオリビア。
「まぁ、魔王崇拝者の人相書きが出回ってるワケでもありませんし、仕方無いですね」
アンナは嘆息し、軽く宙を仰ぐ。
その時、部屋のドアがノックされて軽く開き、1人のメイドが顔を覗かせる。
「皆様、夕食の準備が調いましたが… ソフィア様はお目覚めになられたでしょうか?」
「先程お目覚めになられたところだ。じゃあソフィア様、食堂へ行きましょうか。きっと驚かれますよ?」
オリビアが答え、ソフィアを促す。
「分かりました。ナンシーさん、一緒に食べましょう♪ 私、あまりナンシーさんと一緒に食事した事がないから楽しみです♪」
言ってソフィアはナンシーの手を取り歩き出す。
「ちょっ…! 待ってよソフィア! ちょっとぉおおおおおっ!」
予期しないソフィアの行動に、思わず〝様付け〟を忘れるナンシー。
「あの新入りメイド… ソフィア様を呼び捨てにするとは…!」
「オリビア様…? あの者… ナンシーを斬るのはダメですよ?」
ソフィアを呼び捨てにしたナンシーに対し、思わず剣に手を掛けるオリビアを制止するアンナだった。
─────────────────
「久し振りですね、ソフィア様。少し見ない間に随分と成長なされた様で驚きました」
胸に手を当て、恭しく言うバドルス侯爵。
「だ… 旦那様! …じゃなくて、バドルス侯爵様! どうして聖女邸に!?」
「ははは♪ 武闘大会を観戦しに来ていたのですよ♪ 勿論、最終日の出来事も見ておりました。まさか、臆病で気の弱いソフィア様が魔王崇拝者を捕えるとは思いも寄りませんでしたがね♪」
驚くソフィアに対し、爽やかに話すフランク。
そして、ソフィアの後ろに立つ見覚えのある少女に気付く。
「んっ? ソフィア様、後ろに居る少女は確か… 私が奴隷商に行った時、ソフィア様を平手打ちした…?」
フランクに言われて思わず畏縮するナンシー。
「わ… 私… あの時は… その…」
言い淀むナンシーを振り返り、ソフィアは優しく微笑みながら話し始める。
「ナンシーさん、バドルス侯爵様はナンシーさんを責めてるんじゃありませんよ? ただ、あの時の事を話してるだけです。それに、私はナンシーさんに叩かれた事を何とも思ってませんから安心して下さい♪」
「ソフィア… そう言えば、ラナさんもあんたは怒ってなかったって言ってたわね… その時はあんたが侯爵様に気に入られようと嘘を吐いてると思ったんだけど…」
ナンシーの話を聞き、苦笑するソフィア。
そして、少し自嘲気味に話し始める。
「あはは… そんな事、考える余裕なんて無かったですよ… それに、ナンシーさんも知ってるでしょ? 私は要領が悪くて物覚えも悪い… どんなに自分をアピールしても買って貰えるとは思ってませんでした… だから、聞かれた事に素直に答えただけなんです」
「そっか… その素直さを侯爵様が気に入ったって事かしらね…?」
フランクはナンシーの肩に手を置き、ニッコリ笑って話し掛ける。
「勿論、それもある。が、私はソフィア様に何か不思議な雰囲気を感じたんだ。だから買ったんだよ。まぁ、まさか聖女の能力に目覚めるとは思いもしなかったがね」
フランクの話を聞いたナンシーは、ソフィアの顔をジッと見る。
「な… なんですか、ナンシーさん?」
後退るソフィアを見続けるナンシー。
「確かに… 見た事も無い紫の瞳… 奴隷商に居た時はボサボサだったけど、今はサラサラしてて凄く綺麗なプラチナ・ブロンドの髪… 暗い店内では気付かなかったけど、透き通る様な白い肌… 羨まし過ぎるわね…」
「ほぅ…? お前もソフィア様の美しい容姿に気付いたか…?」
いつの間にかナンシーの後ろに立っていたオリビアが、彼女の言葉に頷きながら同意する。
「…だが、ソフィア様を呼び捨てにしたのは見逃せんな… 本来なら素っ首叩っ─」
「…斬らないで下さい。ナンシーさんは私の大切な友人です」
剣の柄を握り、物騒な事を言い掛けたオリビアを制するソフィア。
そんなソフィアにナンシーは苦笑しながら言う。
「友人って… あんたがバドルス侯爵様に買われたのって、私が奴隷商に入ってから1ヶ月経つか経たないかぐらいの頃じゃなかったっけ? 友人って言って貰える程の付き合いじゃないと思うけど? 話をした事もなかったし…」
ナンシーの言葉に、ソフィアは静かに首を振る。
「同じ奴隷商で同じ境遇だった人は、私にとって友人だと思ってます♪ 最年少の私から友人と言われても、迷惑かも知れませんけど…」
「そんな事… 無いわよ… てか、ソフィアって最年少だったのね…?」
奴隷商の中で買われるのを待っている奴隷に、他人の事を気にしている余裕は無い。
なので、ナンシーがソフィアの年齢を知らないのも当然だった。
「まぁ、ソフィア様は8歳だからな… ナンシーと言ったか? なら、お前は何歳なんだ? ソフィア様より上なのは分かるんだが…」
「は… はい、私は12歳です… 7歳の時に戦争が始まって、それから碌な食事が摂れなかったので、同年代の人より身体が小さいんですけど…」
話を聞いたオリビアは、ソフィアとナンシーを交互に見る。
「ソフィア様と同じか…」
また、アンナとシンディも2人を交互に見ながら話し込む。
「12歳か… シンディと一緒ね」
「私、ナンシーは10歳ぐらいだと思ってました…」
そしてアンナとシンディは互いにウンウンと頷き合った。
「なんだか私達、置いてきぼりね…?」
「あはは… それより食事しながら話しませんか? 私、ナンシーさんの話を聞きたいです♪」
「ソフィアってホント、マイペースね…」
呆れながらもナンシーはソフィアの隣で食事をし、反対側に座って食事するオリビアが嫉妬する程に楽しそうに話を弾ませたのだった。




