第28話 ソフィアの成長は想定を超えているのか?
ソフィア達一行が闘技場に着く頃、魔物や魔獣についての説明をしていたオリビアは疲労困憊だった。
対するソフィアは魔物や魔獣の話を初めて聞き、喜色満面である。
「オーリャさんのお陰で予習はバッチリですね♪ 魔導師さん達には頑張って欲しいです♪」
貴賓席に座りながら、ホクホク笑顔で話すソフィア。
彼女とは対照的に、説明で疲れ果てたオリビアはグッタリと椅子に凭れ掛かる。
「オリビア様、大丈夫ですか? そろそろエキシビションが始まりますが…」
「精神的に疲れただけだから大丈夫だよ… 身体は何ともないからね…」
シンディの質問に答えるオリビアを見て、アンナは首を傾げる。
(身体は大丈夫でも、精神が疲れていたら判断が鈍るんじゃないかしら…?)
アンナの懸念は後に的中する事になる。
が、それは意外な形で終息するのだった。
観客の入場も終わり、進行役が開会を宣言する。
魔導師と召還士が円形台座に上がり、ソフィアに向かって一礼する。
それに応え、ソフィアも一礼する。
「ソフィア様… 聖女様ともあろう方が、軽々しく頭を下げないで下さい… 手を振る程度で構いませんので…」
言うだけ無駄だと思いつつも、ソフィアを窘めるアンナ。
「えっ? でも、それでは頭を下げて下さった方に失礼では? ホラ、礼には礼をって言うじゃありませんか♪」
(やっぱり、こういう反応よね…)
半眼の無表情になり、彼女はそれ以上何も言わなかった。
そして円形台座の周りに居る魔導師が防御魔法を展開すると、召還士は円形台座の端に移動して魔物や魔獣を召還する。
飽くまでもエキシビションなので、召還する魔物や魔獣もそこそこの強さである。
なので数匹毎に交代する魔導師や剣士も、各々が得意とする魔法や武器で難なく倒していった。
「凄いですねぇ~♪ 皆さん素晴らしいです♪」
魔導師や剣士が魔物や魔獣を倒す度に、ソフィアは拍手を贈って称える。
そしてエキシビションは滞りなく進み、昼食を兼ねた休憩に入る。
闘技場内に在るレストランでも、ソフィアは終始ご機嫌だった。
「休憩の後は、れっさあでえもんをしょーかんするんですよね? 前にも言いましたけど、れっさあでえもんを見るのは初めてなんで楽しみです♪」
そんなソフィアを見ながら、アンナは感慨深げに頷く。
「ソフィア様、ご立派になられて… ちょっとした事で失神していたのが懐かしいわねぇ…」
「メイド長、懐かしいって…? ソフィア様が最後に失神してから、まだ10日も経ってませんけど…?」
シンディが突っ込むと、アンナはキョドりながら…
「あ… あらっ? そうだったかしら? でも、なんだか懐かしいとは思わない? 今のソフィア様を見ていたら、遠い昔の様な気がするんだけど…?」
「ま… まぁ、そう言われてみれば…」
10日も経っていないとは言え、こんなにも長くソフィアが失神しなかったのは初めてであった。
なので、確かに懐かしいと言えば懐かしい感じもした。
その当人であるソフィアは、休憩後に召還される下位悪魔についてオリビアを質問責めにしていた。
昼休憩が終わり、全ての観客が席に着く。
ソフィア達が貴賓席に座ると、闘技場に魔導師と召還士が入ってくる。
円形台座に上がると、ソフィアに向かって恭しく一礼する。
それに応じ、ソフィアも一礼。
「オーリャさん… 魔導師さんですが、さっきまでの魔導師さんと雰囲気が違う様に思うんですけど…?」
「えぇ、下位悪魔が相手ですからね。魔導師もそれなりのランクの者になります。魔物や魔獣とは勝手が違いますから」
「それは… 楽しみですねぇ~♪」
(本当に変わられましたね… まぁ、喜ばしい事ではありますけど… 今のソフィア様を見たら、旦那様… バドルス侯爵様も、さぞかし驚かれるでしょうね…)
ソフィアとオリビアの会話を聞き、思わずニヤけるアンナだった。
円形台座上では召還士が下位悪魔を呼び出し、同時に周囲の魔導師達が防御魔法を展開する。
そして魔方陣から下位悪魔が姿を現す。
それは山羊の頭部と下半身を持った人型の悪魔で、禍々しい妖気を放っていた。
『グガァアアアアアアアッ!!!!』
下位悪魔は耳障りな咆哮を上げると、魔力を感じたのか魔導師に向かって火球を放つ。
魔導師は難なく避けると、魔導刃で下位悪魔を真っ二つに斬り裂いた。
音も無く倒れる下位悪魔。
そして、闘技場は満場の拍手に湧いた。
ソフィアも思わず立ち上がって魔導師に拍手を贈っていた。
「あの魔導師さん、凄いですねぇ~♪ 私、感動しました♪」
「まぁ、あの程度の下位悪魔なら、私でも剣に魔力を纏わせれば一撃で屠れますけどね…」
自分を差し置いて魔導師が褒められたのが気に入らなかったのか、ムスッとして言い放つオリビアだった。
魔導師と召還士はソフィアに向かって一礼し、円形台座を降りる。
続いて別の魔導師と召還士が円形台座に上がり、ソフィアに向かって一礼。
ソフィアもまた、彼等に向かって一礼する。
そうやって3組の魔導師と召還士が下位悪魔との闘いを披露し、最後の1組が円形台座に上がった。
円形台座に上がった召還士を見て、オリビアの表情が僅かに変わる。
「オーリャさん、どうかしましたか?」
「いえ… ただ、あの召還士ですが、何処かで見た様な…?」
オリビアが考えている間に、召還士が下位悪魔を召還し始める。
「あの魔方陣は…?」
召還士が魔力で床に描いた魔方陣は、先程までの下位悪魔を呼び出す魔方陣とは明らかに違っていた。
そして、魔方陣から出てきたのは…
「あ… あれは… 上位悪魔!?」
その姿は先程までの下位悪魔とは明らかに異なり、半獣半人では無く完全な人型だった。
勿論、その姿は人間とは全く異なっている。
「何をしている! エキシビションで上位悪魔を呼び出すなんて聞いてないぞ!」
叫ぶオリビアに、召還士は…
「フハハハハハッ! 話は聞いているぞ! 聖女の能力に目覚めた小娘は気弱で臆病だとな! そんな聖女なら、上位悪魔をけしかければ一溜まりもないだろう! 魔王様に安心して世界を滅ぼして頂く為に、聖女にはこの場で死んで貰うのよ! 我ら魔王崇拝者が望む、魔王様が支配する世界を創造する為に!」
「なっ…!?」
オリビアは驚愕し、一瞬の隙が生まれる。
「今だ! 上位悪魔よ、そこの女剣士を殺せ! そいつさえ殺せば、聖女の守りは無いも同然!」
「なんだとっ!?」
オリビアは剣に魔力を纏わせ、迎撃体制に入ろうとする。
だが、自分が攻撃されるとは思っていなかったのと、精神的に疲れていた事が災いし、一瞬だが反応が遅れた。
(ヤバいか!?)
オリビアが思った瞬間…
「そんな事はさせませんっ!」
言うが早いかソフィアが防御魔法を展開し、上位悪魔の攻撃からオリビアを守っていた。
ソフィアにはアンナが守りの体制に入ろうとするが、それより早くソフィアが動いた為に空振っていた。
そして…
「貴方の事は見過ごせません! が、殺してしまっては何も情報が聞き出せませんからね。一旦、拘束させて頂きます!」
召還士を拘束魔法で縛り上げ、舌を噛めない様に魔法で猿轡を咬ませるソフィア。
更に上位悪魔に対しては、精霊魔法で浄化までしてみせた。
「ふぅっ… これで一安心ですね。私はこの人を警備兵に引き渡して尋問して貰います。オーリャさんとアンナさんは、武闘大会を閉会させておいて下さい」
「「は… はい…」」
テキパキとしたソフィアの指示に、従うしかないオリビアとアンナ。
勿論、その事に対しての思いは互いに言い合った。
「ソフィア様、変わり過ぎじゃないか? いや、良い意味でだけどさ…」
「喜ばしい事ではありますが… あまりにも変わり過ぎていて、私としても対処の仕方が…」
「それは解る気がする… バドルス侯爵に引き取られた頃は知らないけど、周りの反応から何となくは…」
2人は顔を見合せ…
「成り行きに任せようか…?」
「それしかありませんわね…」
盛大に大きな溜め息を吐いたのだった。




