第27話 ソフィアの成長?
街での治療活動を行った翌日、朝食の席でソフィアがとんでもない事を言い出した。
「私、武闘大会を観てみたいです!」
気弱で臆病な彼女の思いも寄らない言葉に、食堂に居る全ての人が動きを止める。
「武闘大会をって… 大丈夫なんですか? 人と人が殴り合ったりするのを観るって事ですよ!?」
思わずシンディがソフィアに詰め寄る。
メイド達の中では一番長くソフィアと関わっているシンディだけに、如何に彼女が無茶を言っているかを理解していた。
勿論、僅かな差でソフィアに関わってきたアンナも同様に不安な表情である。
「大丈夫です! …って、胸を張って言えたら良いんですけど、やっぱりちょっと恐いですね… だけど、少しですけど楽しみでもあるんです。昨日の治療で血を見るのに慣れたからですかね? それに…」
「「「それに?」」」
シンディとアンナ、更にオリビアの声がハモる。
「いつになるかは判りませんけど、魔王が現れたら退治しないといけないんですよね? だから、少しでも戦いに慣れておかないとダメだって思ったんです。自分が戦うのは… 正直言って、まだ恐いです。でも、見るだけなら大丈夫かなって思ったんですよね…」
ソフィアの言葉を聞き、3人は腕を組んで考える。
「ソフィア様、随分と成長なさってるんじゃないか? ちょっと前までは〝魔王〟って聞くだけで失神してたのに…」
「やはり昨日の治療が良かったんでしょうか? たいした怪我人は居ませんでしたが、多少なりとも血を見るのに慣れたのかも知れませんね」
「殴り合いを見るのとは違うと思いますけど…」
オリビアとシンディの会話にアンナが軽く突っ込む。
「まぁ、ソフィア様が見たいと仰るんなら、私は護衛として付き添うのが使命だからな。もしショックで失神なさったら、すぐに医務室へお連れするさ」
「失神する前提で話さないで欲しいんですけど…」
ソフィアが苦笑しながら抗議すると、オリビアの頬に一筋の汗が流れる。
かくしてソフィアは武闘大会が開催されている闘技場へと向かい、オリビア達は不安を抱えて同行するのだった。
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意外にもソフィアは失神する事もなく、無事に武闘大会予選2日目を観戦し終えた。
「凄かったですね~♪ 私、感動しました♪ まさに技術と技術の闘いって感じでしたね♪」
(ソフィア様、本当に大丈夫なんだろうか? 朝食の時は、ちょっと恐いと仰ってたが…)
あまりにもソフィアが平気そうなので、むしろ心配になっているオリビア。
勿論、アンナも同じ事を考えていた。
(私達に心配させまいと無理してるって事はないかしら…? 昨日の治療行為で多少は血を見るのに慣れたかも知れないけど、殴り合いの流血とは意味が違うし…)
ちなみにシンディには刺激が強過ぎたらしく、帰りの馬車の中では失神したまま座席に横たわっていた。
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王宮の聖女邸に戻り、夕食を食べながら武闘大会を振り返るソフィア。
その瞳はキラキラ輝き、臆病で気弱なソフィアの姿を感じさせなかった。
「どうなってるんだ? さすがに変わり過ぎなんじゃないか? いや、悪い事じゃないんだけど…」
「聖女の能力に目覚めてから、環境の変化が激しかったですからね… 混乱している間も無く順応してしまった感じでしょうか…?」
「順応ですか…? あんまり考えてなかったんですが、良い事なんじゃありませんかね? ソフィア様、すぐに失神するから心配で仕方無かったんですよね…」
口々に感想を述べ合うオリビア、アンナ、シンディだった。
そして翌日から決勝戦までの数日、毎日ソフィアは観戦に赴き、時に歓声をあげながら熱狂していた。
更には嬉々として優勝者へ賞状や賞金を授与していた。
「明日からは魔物や魔獣、れっさあでえもんが熟練剣士や魔導師と戦うんですよね? 私、魔物も魔獣もれっさあでえもんも見た事が無いから楽しみです♪」
思いも寄らないソフィアの言葉に、オリビア、アンナ、シンディの3人は目を点にした。
「マジか…? 陛下から武闘大会観戦予定の手紙を見て、私達があれこれ話してるだけで失神したのは数日前の事だぞ…?」
「一気に成長しましたね… これも聖女の能力なんでしょうか…?」
「確か、マッカーシー大司教様が仰ってましたね… ソフィア様は歴代の聖女を凌駕する大聖女かも知れないと… ならば、この程度の変化は当然の事なのかも知れませんね…」
アンナの言葉を聞き、オリビアはギギィ~っと彼女に顔を向ける。
「そ… そんな事を大司教様が仰っていたのか? 本当にソフィア様が大聖女で、臆病さや気弱さを克服なさったのなら、もはや魔王を倒すなんて赤子の手を捻る様なモンじゃないか!?」
その場面を想像し、興奮して打ち震えるオリビア。
だが、アンナは極めて冷静に考え、その興奮を打ち砕く。
「大聖女が現れると言う事は、大魔王が現れても不思議ではありませんよね…? それを考えれば、楽観してばかりも居られませんが…」
そんな2人のやり取りを他所に、何故かソフィアは夕食後の食器を嬉々として片付けていた。
「アンナさんから片付けは止められていたのでは…?」
シンディの指摘にキョトンとするソフィアだったが…
「もうクセになってますから仕方無いですね♪ むしろ、片付けしないと落ち着きません。食事前のテーブルだって、自分で拭かないと何だか落ち着かなくて…」
相変わらず奴隷時代のクセが抜けないソフィアの様子に、苦笑いするしかないシンディだった。
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翌朝、魔物や魔獣を見るのが楽しみなソフィアは、いつもより早く起き出してテーブルを拭いていた。
何かしていないと落ち着かず、アンナの目を盗んでコッソリと行っていた。
だが…
「ソフィア様… テーブルを拭くのはメイド達にお任せ下さいと何度も申し上げましたでしょう?」
例によって、いつの間にか現れたアンナに窘められていた。
しかし、一皮剥けたソフィアは逆に言い返す。
「でも、聖女である私の意志はそんちょーしなくてはいけないのではありませんか? そして、その私はテーブルを拭きたいんです。食後の食器を片付けたいんです。アンナさんはオーリャさんと同様、聖女のしもべなんですよね? なら、私がやりたい事を止めるのは、聖女… つまり私のしもべとして、やってはいけない事なのでは?」
ソフィアの言は正論であった。
が、日常の雑用にまで適用するのは変だと思いつつ、正論であるだけに反論できないアンナはソフィアがテーブルを拭くのを黙認するしかなかった。
朝食を終え、ソフィア達一行は闘技場へと向かう。
馬車の中でもソフィアは楽しそうに話し続け、さすがのオリビアも付き合うのに苦心していた。
「魔物や魔獣って、どんな大きさなんでしょうね♪ れっさあでえもんって、何か魔法を使うんでしょうか? 闘う魔導師って、強いんですか?」
「大きさは… 犬ぐらいの大きさから、熊より大きい物まで様々ですね… 下位悪魔は魔法を使うと言うより、魔法以外の攻撃が効きませんね… 勿論、剣に魔法の効果を付与して斬る事は可能ですが… そして、魔導師の強さは… それぞれですね。まぁ、飽くまでも余興の一環ですから、そこそこの強さの下位悪魔を召還する程度でしょうか…?」
説明しながらも汗が止まらないオリビア。
その説明を聞き、更に目を輝かせるソフィア。
(誰でも良い… ソフィア様への説明を代わってくれ!)
心の中で泣きながらも、ソフィアの質問に答え続ける健気なオリビアだった。
それと同時に…
(いくら何でも変わり過ぎだろ!)
と、心の中で叫んでいたのだった。




