第22話 王都散策 ~中編~
「ここが王都の繁華街ですか… やっぱりハルバートより賑やかですねぇ…」
繁華街を歩きながら、キョロキョロと辺りを見回すソフィア。
ここ聖クレア王国の王都『クラニール』の繁華街は、王都であるだけに国内で最大の繁華街である。
聖クレア王国中の街に本店を構える服飾店や雑貨店等は、こぞって支店を出している。
逆に、王都に本店を構える服飾店や雑貨店等は、地方の街を選んで支店を出していた。
ただ1つだけ他の街と違うのは、出店している奴隷商が抽選に依って選ばれている事だった。
他の街と違って王都に奴隷商を出すのは許可が必要であり、その許可も1ヶ月間のみの許可である。
多くの奴隷商は、人口が多くて奴隷の需要が高い王都への出店を望み、競う様にして抽選に参加していた。
「奴隷商も在るんですねぇ… なんだか懐かしいです」
「懐かしがらないで下さい…」
「アンナさん… そこはソフィア様ですから…」
奴隷商を懐かしがるソフィアを窘めるアンナ。
そして、そのアンナを窘めるシンディ。
「まだ奴隷だった頃のクセ… と言って良いのかは判りませんが、ソフィア様には染み付いてしまってる様ですねぇ…」
「それはそれで問題なんじゃ…?」
遮光器土偶の様な表情で語るマッカーシー大司教。
そんな大司教をジト目で見つめるオリビアだった。
すると…
「ホラッ! さっさと掃除せんか! グズグズするんじゃない!」
ソフィアにとって、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「この声は…?」
ソフィアが奴隷商の入り口を見ると、中から1人の男が姿を現した。
「まったく… 久し振りに王都で出店できるってのに… って、なんだ? あんた達、客か? だったら開店は夕方からだ。出直してくれるかな?」
「て… 店主様!? お… お久し振りです!」
言って平身低頭するソフィア。
そんなソフィアをみ見て、男は訝しげな顔をする。
だが…
「んん~? 誰だ、お前…? って、もしかしてソフィアか!?」
「あれ… もしかしてソフィア…?」
「ボサボサだった髪がサラサラになって… 凄く綺麗…」
「それに、あのドレス… 似合ってるし、可愛いじゃない…」
驚く奴隷商人。
それと同時に、彼に怒鳴られていた数人の少女達も驚いていた。
ハルバートの奴隷商に居た頃と比べて、パッと見ではソフィアと認識できなかった程に変わっていたからである。
「随分と変わったじゃねぇか! バドルス侯爵様に可愛がられてんのか? まぁ、お前みたいなグズで穀潰しでも、そっちでは役に立つかも知れねぇからなぁ! ガハハハハッ!」
下品な事を言い、下品に笑う奴隷商人に、オリビアが怒りの目を向ける。
「貴様… ソフィア様に向かって何だ、その物言いは…? 無礼にも程があるぞ…?」
腰の剣に手を掛け、今にも抜こうとするオリビア。
そんなオリビアをニヤニヤして見つめるアンナ。
マッカーシー大司教はソフィアの側に移動し、奴隷商人を睨み付ける。
「な… 何なんだ、あんた…? それに、ソフィア様だと? あんなグズで穀潰しに、なんで様付けを…?」
奴隷商人の言葉に、オリビアは眉を吊り上げる。
「グズ? 穀潰し? 貴様、まだソフィア様を… 聖女様を愚弄するのも大概にしろっ! このオリビア・フォン・マクレール、ソフィア様の護衛剣士として聞き捨てならぬぞっ!」
聖女様を愚弄の一言に、道行く人々が一斉に振り返る。
「せ… 聖女様だと? ソフィアがか? 何の冗談だ!?」
「冗談ではありません! ソフィア様はバドルス侯爵邸に居られる時、聖女の能力に目覚められたのですぞ! この私、アラン・マッカーシーが立ち会って確認したのです!」
成り行きを見ていた周囲の人々がザワつき始める。
マッカーシー大司教の名を知らない者は、王都には居ないと言っても過言ではなかった。
そのマッカーシー大司教が、ソフィアが聖女である事を確認したと言う。
更に先程のオリビアの言葉である。
この場に居る人々は、完全に奴隷商人が聖女を愚弄したと認識していた。
(さすがは大司教様… 計画通りに事が進んでますね…♪)
1人ほくそ笑むアンナ。
マッカーシー大司教、アンナ、オリビアの3人は、1ヶ月近くを掛けてハルバートの奴隷商人を嵌める計画を立てていた。
それが、この王都散策であった。
王都に出店する奴隷商の抽選を操作し、ハルバートの奴隷商を当選させる。
ソフィアを王都散策に託つけて奴隷商人と再会させ、ソフィアに対して無礼な態度を取る様に仕向ける。
奴隷商人が無礼な態度を取るかは判らなかったが、ソフィアから聞いた話を考察した限りでは、確実に無礼な態度を取ると思われた。
そして、その予想通りに奴隷商人は無礼な態度を取った。
勿論、それを想定してオリビアやマッカーシーの台詞も考えられていた。
仮に無礼な態度を取らなかった場合、ソフィアに当時の事を聞く事で、奴隷商人が聖女を虐待していた事を周囲にアピールする予定だった。
「マッカーシー大司教様が言ってるんだから…」
「あぁ、間違い無いだろ…」
「あの娘が聖女様って事か…」
「て~事は… あの奴隷商人、聖女様を愚弄したってのか!?」
事の成り行きを見守っていた人々の口から、奴隷商人に対する非難の言葉が出始める。
みるみる顔色が悪くなる奴隷商人。
「そ… そんなバカな… あのソフィアが聖女なワケが…」
後退る奴隷商人に、周囲の人々が詰め寄る。
「おい、おっさん! マッカーシー大司教様やオリビア様が言ってんだから、あの娘が聖女様ってのは間違い無いぞ!?」
「あぁ、オリビア様の夢が聖女様の護衛剣士になるってのは、王都じゃ有名な話だからな。そのオリビア様が護衛剣士を務めてるってんなら、あの娘が聖女様なのは間違い無えんだよ!」
大勢に取り囲まれ、腰を抜かす奴隷商人。
その後、奴隷商人は散々にボコられ、その様子をオリビアとアンナはクスクス笑いながら見ていたのだった。
その頃、ソフィアは…
「わぁ~♪ ミーナさん、ジルさん、タニアさん、お久し振りです♪」
「まさか、ソフィアが聖女様だったとはねぇ…」
「あはは… まだ自覚は無いんですけどね…」
「でしょうねぇ… ソフィアみたいな気の弱い娘が聖女様だなんて、反って心配しちゃうわよ…」
「頼りなくて申し訳ないです… ところで、ラナさんやナンシーさんは元気ですか?」
「ラナさんだったら、少し前に商店の店主に気に入られて買われてったわよ。王都にも支店を構える大店みたいでね。どんな扱いされてるかは知らないけど、良かったんじゃないかしら? ナンシーなら、奥で掃除してると思うけど… あんた、ナンシーに引っ叩かれてたけど、気にしてないみたいね…?」
「気にするなんて… ナンシーさんの気持ちも解りますし、叩かれるのは慣れてますから♪」
「慣れないでよ…」
…曾ての奴隷仲間との会話に花を咲かせていた。
ちなみに奴隷商人がボコられてる様子は、マッカーシー大司教が壁となってソフィアの目に入らない様にしていた。
すると、奥から1人の少女が姿を現す。
「あんた… もしかして、ソフィア…? ず… 随分と綺麗なドレスを着てるじゃない… 髪もサラサラだし… バドルス侯爵様に、良くして貰ってるみたいね…?」
「ナンシーさん♪ お久し振りです♪ 元気でしたか?」
言うが早いか、ナンシーに駆け寄り抱き締めるソフィア。
そんなソフィアに困惑するナンシー。
「ちょっ… なに抱き付いてんのよ! あんた、私にビンタ食らわされたの、忘れたの!?」
ビンタの一言に反応するオリビアとアンナ。
だが…
「私は気にしてませんから、ナンシーさんも気にしないで下さい♪ そんな事より、私は皆さんと会えた事が嬉しいんです♪」
ソフィアの言葉を聞き、ナンシーもソフィアを抱き締める。
「あの時は叩いてゴメンね… 後でラナさんから叱られたのよ… あんたが私の両親を殺したワケじゃないって… そりゃそうよね… それに、あんたの両親も殺されてるんだってね…? あんたの出身がヴァネル王国──ナンシーの国に攻め込んだソフィアの国──って聞いて、頭に血が上っちゃって…」
「はい… だから、気にしないで下さい… 全部、済んだ事ですから…」
互いに互いを抱き締めながら話すソフィアとナンシー。
「ふぅ… あの2人… ソフィア様がバドルス侯爵様に買われる前に何かあった様ですが、今は問題無さそうですね…?」
「みたいだな… 複雑な事情はありそうだが…」
アンナは苦笑しながら嘆息し、オリビアは抜き掛けた剣を鞘に収める。
「オリビア殿… まさかと思いますが、あの少女を斬るつもりだったのでは…?」
「ま… まさかぁ…」
マッカーシーの一言に、明らかに動揺している様子のオリビアだった。




