第21話 王都散策 ~前編~
ソフィアが王都に来てから早くも1ヶ月が経ち、翌日から王宮で生活する事になっていた。
「ソフィア様、今日は王都を散策してみませんか?」
朝食の前にマッカーシー大司教がソフィアを訪ね、食堂に居た彼女に話し掛ける。
「ふぇっ? 王都を散策… ですか…?」
マッカーシーの提案に、ソフィアが首を傾げる。
だが、マッカーシー大司教も同様に首を傾げていた。
「えぇ、散策です。王都に来て1ヶ月が経ちますが、まだ聖女邸と王宮ぐらいしか御覧になってないでしょう?」
「そう… ですね… ここに来る時に馬車の中からチラチラとは見てましたけど…」
マッカーシーは首を傾げたまま微笑み、気になっていた事をソフィアに尋ねる。
「ところでソフィア様、先程から何をなさっているのですかな?」
聞かれてソフィアは手を止め…
「何って… テーブルを拭いているだけですけど…」
平然と答えるのだった。
マッカーシーが何かを言おうとした時、奥からアンナがバタバタと駆け寄ってくる。
「ソフィア様! その様な事はメイドに任せて下さいと何度も申し上げた筈です!」
ソフィアから布巾を取り上げ、近くに居たメイドに手渡す。
「貴女も貴女です! 何故ソフィア様にテーブルを拭かせてるんですか!?」
呆然とするソフィアを尻目に、メイドを怒鳴るアンナ。
「いえ… あの… 私が来た時にはソフィア様が既に…」
「はぁっ…?」
アンナが食堂を見回すと、ソフィアが拭いていたテーブル以外は既に拭き終わっていてピカピカの状態だった。
「ソフィア様…」
アンナがソフィアに何かを言おうと振り返ると…
「何をなさってるんですか…?」
そこにはアンナに向かって土下座するソフィアの姿があった。
オロオロするメイドの少女と、呆れた表情を浮かべるアンナ。
(まだ奴隷だった頃の癖が抜けないのかしら…? いえ、もしかしたら永遠に抜けないのかも知れないわね…)
そんなやり取りを黙って見つめるマッカーシーは、完全に置いてきぼりを食らった感じだった。
─────────────────
朝食の後、ソフィアはマッカーシー大司教にアンナとシンディ、護衛のオリビアと共に王都の散策に出掛けた。
大聖堂と聖女邸は王都の街外れに位置しているが、ゆっくり歩いて30分も掛からない程度の距離だった。
「気持ち良い街道ですねぇ♪ 王都が見渡せる小高い丘に大聖堂が在るの、知りませんでした♪」
「「「「えっ?」」」」
ソフィアの感想に、4人が同時に驚く。
それも当然で、ハルバートから大聖堂に来る時も王宮への往復も、この街道を馬車で通っていたからである。
なのに、何故ソフィアが知らないのか。
マッカーシーが聞くと、ソフィアは思い出しながら答える。
「えぇと… ハルバートから来た時は、疲れてボ~ッとしてましたから… 王宮に行く時は、メアリー様達から頂いた魔導書を読んでましたし… 帰りはオーリャさんと話していて、気が付いたら到着してましたので…」
「なるほど… それでは景色を見る余裕は無かったでしょう…」
「くっ… 私とした事が! ソフィア様との話に夢中になるあまり、ソフィア様に景色を堪能して貰う事を失念するとは不覚!」
拳を握り締めて歯噛みするオリビア。
「でも、オーリャさんとの会話は楽しかったですよ? だから景色を見るのを忘れてたんじゃないですかねぇ?」
「ソフィア様ぁああああ…!」
ソフィアの言葉に号泣するオリビア。
嬉し泣きするオリビアを落ち着かせる為に、一行は王都の食堂街へと向かったのだった。
─────────────────
「あの~… 皆さん、まだ食べれるんですか? 私、まだお腹空いてないんですけど…」
席に着いたソフィアが尋ねる。
ソフィア達が朝食を終えたのは、ほんの1時間程前の事だった。
それから王都散策の準備をし、街に入ってすぐに食堂に入ったのだから空腹のワケがなかった。
「まぁ、オリビア殿を落ち着かせる為ですので、無理に食べる必要はありませんよ? 何かを飲むだけでも宜しいでしょう♪」
マッカーシーの言葉に、シンディはソフィアの事を思い出す。
「ソフィア様の場合ですけど… 落ち着いたと言うより、お茶を飲まされ過ぎてただけですよねぇ…?」
「ソフィア様の場合はね… けど、オリビア様は違うみたいよ…?」
アンナの言葉にシンディがオリビアを見ると、そこにはウェイトレスに食事を注文しまくる彼女の姿があった。
「オリビア様、まだ食べれるんですね… でも、オリビア様って朝食を私達の倍は食べてたと思うんですけど…」
「剣士で護衛だからかしらね…?」
「それだけ大変な職業って事なんですか?」
シンディが疑問を口にすると…
「何もなければ一緒に行動するだけだからね。普段はそんなに大変じゃないよ。ただ、いざと言う時に備えて力を蓄えるのも、護衛の努めだからね♪」
料理を注文し終えたオリビアが元気良く会話に入ってきた。
「それは大切な事でしょうけど… どれだけ注文なさったんですか?」
聞かれてオリビアは宙を仰ぎながら答える。
「えぇと… ベーコンエッグとピザ、ミートソース・パスタにチキン・ナゲットとフライドポテトの盛り合わせ、デザートにパフェだね♪」
聞いているだけで胸灼けがしてくるアンナとシンディ、マッカーシー大司教の3人だったが…
「ぴざ…? みいとそおす・ぱすた…? ふらいどぽてと…? でざあと…? ぱふぇ…?」
ただ1人、ソフィアだけは意味の解らない物が多く、目を点にしてオリビアの言葉を繰り返していた。
─────────────────
運ばれてきた料理がオリビアの前に並ぶ。
他の4人はジュースだけである。
全員が1時間程前に朝食を終えたばかりなので、オリビア以外は飲み物だけで充分だった。
オリビアが旨そうに料理を食べる様子にげんなりする一同だったが、ソフィアだけは興味津々で眺めていた。
「それが『みいとそおす・ぱすた』ですか…? 私、初めて見ました… それと、その『ぴざ』でしたか? そのトロッとしたモノは、もしかして『ちいず』と言うモノなのでしょうか!?」
あまりにも物を知らないソフィアにキョトンとするオリビア。
「ソフィア様は、これらの料理を食された事が無いのですか? 5歳からアレだった事は伺いましたが、それ以前は平民だったんでしょう? なら、何処かの食堂でも入れば食す機会もあったのでは?」
アレとは奴隷の事である。
オリビアは周囲を気にして言葉を濁していた。
ソフィアはフルフルと首を振る。
「確かに5歳までは平民でしたけど、3歳の頃に戦争が始まりまして… 私が住んでたリネルって村は国境が近かったんで、ず~っとバタバタしてたみたいなんですよね… 小さな村だったみたいですし、家族向けの食堂なんて無かったんじゃないですかねぇ? あっ、でもべえこんえっぐは知ってますよ? 週に1度、お母さんが作ってくれてたのを覚えてます♪」
「週に…?」
「たった1度…?」
怪訝な表情になる一同。
「戦争が始まって少ししたら、お父さんが兵隊さんになりまして… お父さんが居た頃は毎朝作っていたのかも知れませんけど、その頃の事ってあんまり覚えてないんですよね」
ソフィアの話を聞き、マッカーシー大司教が頷く。
「なるほど… お父様が戦争に行き、収入が激減… 朝食の定番とも言えるベーコンエッグすら、週に1度しか作れなくなっていたのでしょう…」
しんみりとする一同。
そんな中でも、オリビアだけは暗い顔をしながらも食べる手を休める事はなかった。
ソフィア以外の3人は、そんなオリビアを見て思う。
(もう、本能で食べてるんだろうなぁ…)
1時間程が経ち、ようやく一行は王都散策を再開したのだった。
最初に向かったのは繁華街。
マッカーシー、オリビア、アンナが相談して決めた場所だった。
そこでソフィアは、思いがけない人物と再会する事になる。




