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元・奴隷の聖女様 ~奴隷に堕ちて3年後… 聖女の力に目覚めましたが、染み付いた奴隷根性が抜けません!~  作者: タイガー大賀


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19/92

第18話 一途な護衛、オリビア

 セルゲイ・フォン・マクレール公爵の3女、オリビア・フォン・マクレール──通称:オーリャ──がソフィアの護衛になって共に大聖堂へと戻る事になった。

 馬車に乗ってから2時間近くが経過したが、当のソフィアは(いま)だに困惑していた。


「私の… 私の護衛が公爵令嬢様… なんで…? どうして…?」


「あの~… そろそろ落ち着いて下さいませんか? それと、私の事はオーリャとお呼び下さいと申し上げた(はず)です。公爵令嬢の肩書きは、ソフィア様の護衛になった時点で()てたつもりですので」


 オリビアの言葉で、更に困惑(こんわく)するソフィア。


「すすすすす、()てたぁあああああっ!? どどどどど、どうしてですか!?」


 あまりにもソフィアには考えの(およ)ばないオリビアの言葉に驚き、彼女の腕が変な動きをしていた。


(タコみたい… かな…?)


 オリビアは基本的に無表情であった。

 幼少期から聖女の話を聞くのが好きで、読み書きを覚えてからは自宅の書斎に()(びた)り、図書館に通いつめ、聖女についての(ぶん)(けん)を読み(あさ)っていた。

 そうしている内に、聖女の護衛──剣士──になるのが夢になった。

 そして剣士としての修行を積む内に、彼女から表情が消えていったのだった。

 なのにソフィアを見ていると、不思議と笑みが浮かぶ事に気付いた。

 もっとも、オリビアは無表情なので、その笑みも(かす)かではあるが…


(もしかしたら、これも聖女の(ちから)… 私もソフィア様に(いや)されているのか…?)


 オリビアが自身の表情の変化に少なからず(おどろ)いている(あいだ)も、ソフィアの腕は変な動きを続けていた。


面白(おもしろ)いから、もう少し見てようかな…? いや、それでは話が進まないか…)


 初めて見るタコみたいなソフィアの動き。

 思わず(こぼ)れそうになる笑みを押し殺し、オリビアはソフィアの肩を優しく(おさ)える。


「落ち着いて話を聞いて下さい。剣士となって聖女様の護衛を(つと)める事は、私の幼少期からの夢だったんです。公爵令嬢の地位など、聖女様の護衛になる夢が(かな)うなら()しくも何ともありません」


「ででででで、でもオリビア様… んむぅっ…」


 ソフィアの(くち)を指で押さえるオリビア。


「オーリャ、です。様()けも()りません。オーリャと呼び捨てて下さいませんか?」


「わわわわわ、私なんかが人様を呼び捨てなんて! そんな失礼な事は出来ませんっ!」


 首をブンブン振って断るソフィア。


(この反応… やっぱり見てて面白(おもしろ)い…)


 その後、ソフィアとオリビアは聖女邸に着くまで話し合いを続け、馬車を降りる寸前に『オーリャさん』と呼ぶ事で落ち着いたのだった。





 ─────────────────





「オーリャさんって、何歳(いくつ)なんですか? シンディさんよりは上って感じなのは(わか)るんですけど…」


「シンディ? 誰の事ですか?」


 聖女邸のリビングでお茶を飲みながらソフィアが質問すると、誰の事を言ってるのか(わか)らないオリビアが逆に聞いてきた。

 なにしろ総勢50名を超えるメイド達がリビングに集合しているのだから、無理もなかった。


「私にお茶を()れてくれた、こちらの女性です。ちなみにオーリャさんにお茶を()れてくれたのが、メイド長のアンナさんです」


 言われてオリビアは2人をまじまじと見つめる。

 ソフィア(ほど)ではないが、公爵令嬢()()()オリビアに対して全員が緊張していた。


「私は少し前に15歳になりました。ですので、シンディよりは上でしょうね。彼女が何歳なのか知りませんが… そして、アンナよりは間違いなく下でしょう。やはり彼女が何歳なのか知りませんが…」


 無表情で淡々(たんたん)と語るオリビア。

 12歳のシンディは何も思わなかったが、28歳(アラサー)のアンナは少しばかり落ち込んでいた。


「そう言えば、私もアンナさんの(とし)は知らないんですよねぇ…」


 ソフィアの一言(ひとこと)に、アンナの(とし)を知っているシンディは思わず吹き出しそうになる。


「シンディ… 貴女(あなた)、もしかして今…?」


 (にら)み付けるアンナに思わず(あと)退(ずさ)るシンディ。

 だが…


「パッと見た感じ、30歳に届くか届かないかってトコでしょうか? ソフィア様から見れば、親と同世代ではないかと…」


 更にオリビアが追い討ちを掛けた。

 この世界では15歳で成人と見做(みな)される為、20歳前後で結婚・出産する女性は珍しくない。

 オリビアの目には、アンナとソフィアの年齢差が(おや)()と言っても良いぐらいに離れて見えていた。

 元・公爵令嬢のオリビアに文句を言える(はず)もなく、アンナは()(いき)()きつつ(うなず)くしかなかった。


「私は28歳です… オリビア様の(おっしゃ)る通り、私とソフィア様とは(おや)()と言っても()い年齢差ですね… (とし)()でスイマセン…」


 もっとも、アンナ以外の全員が10歳前後なので、1人だけ大人のアンナは目立つ存在である。

 落ち込みながら言うアンナに、オリビアは無表情で言う。


「自分を卑下(ひげ)しないでくれ。アンナ殿だからこそ、バドルス侯爵はメイド達の(まと)め役に(ばっ)(てき)されたのではないか?」


 言われてハッとするアンナ。


「そ… そうでした。しっかりしないといけませんね!」


 両手で(ほお)(たた)き、気合いを入れる彼女を見てオリビアは思った。


(こっちは生真面目(きまじめ)()ぎて面白くないかな…?)


 (ほとん)ど表情が変わらないオリビアだったが、ソフィアだけが(わず)かな変化に気付いたのかジッと見詰(みつ)めていた。





 ─────────────────





 夕食と入浴を済ませたソフィアが部屋へ戻ろうとすると、少し後ろからオリビアが付いてくる。


「あの~…?」


 おずおずとソフィアが質問しようとすると、それよりも早くオリビアが答える。


「私の部屋はソフィア様の隣にして頂きました。護衛の私がソフィア様の(そば)を離れるワケには(まい)りません。それと… その…」


「それと…?」


 なにやら言い(よど)むオリビアに首を(かし)げるソフィア。


「す… 少し、お(うかが)いしたい事が… お時間、(よろ)しいでしょうか?」


 ()(さい)な変化ではあるが、困惑した表情を読み取ったソフィアはコクリと(うなず)く。

 部屋へと入った2人は、テーブルを(はさ)んで向かい合う。

 が、当のオリビアはモジモジして話を切り出さない。


「え~っと… 私に聞きたい事があるんですよね…?」


 ソフィアの方から話し掛けると、オリビアは恥ずかしそうに話し始める。


「さ… 先程ソフィア様は、私をジッと見詰(みつ)めていましたよね…? 何を思って見詰(みつ)められたのかは(わか)りません… いえ、何となくですが(わか)る様な… 私の思い過ごしかも知れませんが…」


 言われてソフィアは(ちゅう)(あお)ぎ、少し考えて思い出す。


「あぁ、アンナさんが(ほお)を叩いた時ですね? アンナさん、真面目(まじめ)ですもんねぇ♪」


 言いつつ苦笑するソフィア。

 ()()()とソフィアが(くち)にした事で、自身の(わず)かな表情の変化を彼女が読み取った事を理解するオリビア。


何故(なぜ)、私の表情を読み取れたのですか? 自分で言うのも何ですが、私は()()()()()()(ほう)です。家族でさえも、私の表情を読み取れないのに…」


「国王陛下とバドルス侯爵様からは、誰にも言わない(ほう)()いって言われてたんですけど… 護衛のオーリャさんには教えておいた(ほう)()いでしょうね…」


 苦笑したままポリポリと(ほお)()き、ソフィアは自身の()()ちを話して聞かせた。

 勿論、奴隷商での生活や、バドルス侯爵に買われてから(こん)(にち)(いた)るまで全てである。


「…ですので、奴隷だった頃のクセで、人の表情の変化に敏感(びんかん)になっちゃったんでしょうね… ちょっとした(まゆ)の動きとか、(くち)(はし)の動きとか、目の動きとか… つい、気になっちゃうんですよねぇ…」


 話を聞き終えたオリビアはワナワナと(ふる)えていた。


「あ… あの~… オーリャさん…?」


 オリビアから()(のぼ)(すさ)まじい(さっ)()を感じ、ソフィアは冷や汗をダラダラ流しながら話し掛ける。

 オリビアはユラリと立ち上り、(さや)から剣を抜き放つ。


「おのれ、ハルバート──バドルス侯爵の領地──の奴隷商人! ソフィア(聖女)様を(ぎゃく)(たい)するなど、(ばん)()(あたい)する! ()(くび)(たた)き落としてくれるわ!」


 部屋を飛び出そうとするオリビアを、ソフィアは必死で(おさ)える。


「ダメです、ダメです、ダメです! 奴隷商には()()()()()()()ってのがあるんです! 奴隷商の中での事は、誰も文句を言えないんです!」


「奴隷商の中が()(がい)(ほう)(けん)で守られてるんだったら、奴隷商の中で奴隷商人を()っても文句を言われる(すじ)()いは無いでしょう! ソフィア様を虐待した奴隷商人をブツ切りにしてやります!」


「そんなワケありませんよ! 誰か~っ! 誰か来て下さ~い! オーリャさんを()めて下さ~いっ!」


 ソフィアの必死の呼び掛けに全てのメイド達が駆け付け、全員がオリビアに(おお)(かぶ)さる事で、ようやく騒ぎは(おさ)まったのだった。



【結果報告】

・軽傷─23名(り傷・打ち身(など)

・重傷─10名(腕・(ろっ)(こつ)等の骨折)

・重体─1名(大勢の体重で(あっ)()寸前)

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