第15話 思っていたのと違いました
ソフィアと王侯貴族達との歓談は楽し気に進み、そのまま会食へと進んだ。
出された食事はバドルス侯爵邸や大聖堂で出された物と似た感じだったので、ソフィアは迷う事もなく食べながら会話を楽しむ事ができている。
…と、フランクやマッカーシー大司教は思っていた。
時折ソフィアの方を見ていたルイーズが、ある事に気付く。
ソフィアの料理が減っていないのだ。
気になったルイーズが注意して見ていると、ソフィアの持つナイフやフォーク、スプーンは、何も無い空間をウロウロし、時々ソフィアの口に入っていた。
当然、スプーンは何も掬っておらず、フォークは何も刺していないまま…
貴族達の、自分の子供達に接する様な話し方に打ち解けていたソフィアだったが、会食になると緊張がぶり返したのだった。
貴族の食事はマナーに煩い。
バドルス侯爵夫妻の様に、ソフィアの出自を詳しく知っている者の前ならともかく、初めて会った貴族達の前では萎縮してしまうのだった。
自身の食事マナーが気になって仕方無いソフィアは、料理に全く手を付けられないでいた。
(料理長に言って、ソフィア様の部屋に食事を運ばせた方が良さそうですわね…)
ルイーズは近くに居た給仕に目配せし、自身の元に来させるとソッと耳打ちする。
(会食が終わって場が解散したら、ソフィア様の部屋に食事を運ばせて下さいな。緊張なさって、全く食べていらっしゃらない様なので…)
言われて給仕の女性はソフィアの方を見て頷く。
(承知致しました。間も無く会食は終了となります。他の人に見られない様、先に運んでおきましょう)
給仕の女性は自然な動きで姿を消し、料理長に伝えてソフィアの為に温かい食事を部屋に運ばせた。
程無くして会食は終了し、貴族達は各々の王都邸へと帰っていった。
国王はソフィアに労いの言葉を掛けて自室へと向かい、ソフィアはバドルス侯爵夫妻と共に王宮内に用意された部屋へと向かった。
「お疲れ様でした、ソフィア様。ルイーズから聞きましたが、何も食べられなかったそうですね?」
「はい… 緊張と、私のまなーが大丈夫なのか気になって…」
ガックリと肩を落とし、足を引き摺る様に歩くソフィアは、誰が見ても疲労困憊といった様子だった。
「まぁ、周りが知らない人ばかりだと疲れますわよねぇ… 給仕に言って食事を用意させてますから、部屋で気兼ねなく食べて下さいな♪」
ルイーズの言葉に、パァッと表情が明るくなるソフィアであった。
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部屋で食事を済ませて風呂に入ると、すっかり疲れたソフィアは早々とベッドに潜り込んで寝てしまった。
「随分とお疲れの様子で、ベッドに入った途端に寝てしまわれましたわ」
「ソフィア様と話したかったんだけどなぁ…」
「一緒に寝たら… 怒られるわね…」
「明日の朝食まで我慢かぁ…」
ルイーズの報告に、子供達がブー垂れる。
やれやれといった表情でフランクが話し掛ける。
「これでソフィア様に会えなくなるワケじゃないんだから、今は我慢しなさい。王都に居る間に限定されるが、私達は他の貴族に比べて会う機会も多い。何故なら、ソフィア様を引き取った時点で私が彼女の後見人だからだ。だからと言って、いつでも自由に会えるワケでもないがな」
フランクの話に、子供達は一顰一笑する。
コロコロ変わる表情を見て、吹き出しそうになるのをフランクは堪えていた。
「眉をしかめたり微笑んだり… 貴方達、ソフィア様と出会ってから表情が豊かになったわね♪」
ルイーズの言葉に思う処があったのか、思わずフランクも頷いた。
貴族の子供は得てして子供らしさが少ない傾向にある。
幼い頃から礼儀作法を教え込まれ、大人達に混じって社交を学ぶ。
男の子は家督を継いだり、家督を継いだ者を補佐、あるいは新たに家を興す為に様々な事を学ぶ。
女の子は他家に嫁ぐ為、礼儀作法の他に資金繰りも学ぶ。
その様に勉強漬け、社交漬けの毎日を送る貴族の子女は、誰もが何処か大人びていた。
だが、ソフィアと出会ってからのエリック、メアリー、フィリップの3人は、子供らしい表情を見せる事が多くなっていた。
(これも聖女の能力の一端なんだろうか…? ソフィア様と出会う前と今とでは、子供達は別人の様に表情が豊かになったからな… いや、出会ったのは能力に目覚める前だったし、その時点で3人は自分の専属メイドにと希望していたな… もしかしたら聖女云々は関係無く、ソフィア様には人を惹き付ける何かがあるのかも知れないな…)
ソフィアと出会う前の3人は、日々の勉強に疲れていたのか仏頂面の時が多かった。
そんな3人がソフィアを一目見た時から彼女を専属メイドにと望み、仏頂面をする事が無くなっていった。
ただ身綺麗になったソフィアを見ただけで、普段から清潔な貴族の子女を見慣れている子供達の興味を引くとは思えない。
(私自身、初めてソフィア様を見た時に不思議な感じがすると思ったからな… 子供達も、何かを感じたのかな?)
翌日は国王の前でソフィアが魔法を披露する事になっている。
彼女の魔法には自分達も驚いたが、国王も同じ様に驚くだろうと思うと、今から楽しみで仕方無いフランクだった。
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朝になり、朝食の席でエリック、メアリー、フィリップの3人はご機嫌だった。
ソフィアも歳の近い3人が近くに居る事で緊張が解れ、夕食の時と違って普通に食べていた。
前日の歓談や会食と違い、国王とその家族、バドルス侯爵一家、マッカーシー大司教だけが同席しているのだから、ソフィアとしても気がラクだった。
朝食が終わると一同は馬車に分乗し、大聖堂近くの修練場へと移動した。
修練場に着くと、ソフィアが驚きの声をあげる。
「えっ? えっ!? 中央の岩… 私が壊しちゃったんじゃ…?」
そんなソフィアの肩をポンポンと叩き、マッカーシー大司教がにこやかに話し掛ける。
「気にする事はありません。岩の一つや二つ、いくらでも用意致しますぞ?」
ソフィアが岩を破壊した後、大聖堂に勤める司祭や司教が修練場の外にある岩から丁度良い物を選び、集団魔法で修練場内に運び込んだのだ。
先日のソフィアの魔法の威力を見ていた彼等は、彼女が破壊した岩より二回り大きく頑丈そうな岩を選んでいた。
その事を聞かされたソフィアは、遠巻きに様子を眺めている司祭や司教に平身低頭して謝った。
「ご… ごめんなさい! ごめんなさいっ! 私が岩を壊しちゃったから…」
「謝らなくて良いんですよ? むしろ彼等は喜んでいます。これ程の力を持った聖女様が現れたんですからね?」
「だ… 大司教様ぁ~…」
マッカーシー大司教に慰められ、涙をダバダバ流すソフィア。
「さぁ、それより皆さんが待ち兼ねられてます。岩の事など気にせず、魔法を放って下さい」
大司教に促され、ソフィアはコクリと頷く。
そして…
「雷撃!」
どんがらがっしゃぁあああああんっ!!!!
天から稲妻が落ち、岩を粉々に打ち砕く。
破片が飛び散ったが、幸いにも国王一家やバドルス侯爵一家に怪我人は居なかった。
フランクとマッカーシー大司教はソフィアの魔法の威力を知っていた為、予め国王一家の近くで防御魔法を展開し、修練場の隅に移動していたのだ。
ちなみに先日の火球では、比較的岩の近くに居た数人の司祭や司教が軽い火傷を負っていた。
と言っても、一番近くに居た者でさえ、20mは離れていたのだが…
その時の経験から、司祭や司教は目標である岩から最低でも50mは離れ、念の為に防御魔法を展開していたのだった。
だが、彼等が展開していたのは殆どが熱波を遮断する為の魔法であり、破壊された岩の破片を防御するには少しばかり弱かった。
その為、数人の司祭や司教が防御魔法を突き抜けた破片で怪我をし、ソフィアは彼等に土下座して謝ったのだった。




