第12話 王宮へ行きましょう
「おはようございます…」
眠そうに眼を擦りながら食堂に現れるソフィア。
「「「「!!!!!!」」」」
朝食の準備をしていたメイド達は、彼女の髪を見て絶句する。
ソフィアへのスキンシップという名目の髪撫で大会(?)が催された為か、ソフィアの髪は無惨にもボサボサになっていた。
湯船の中の土下座で窒息して気絶した為、充分に乾かせなかったのも原因ではあるが、60人近くが撫でまくったのが最大の要因であった。
「あれって… 私達が原因よね…?」
「ど… どうしよう… 大司教様や侯爵様に見られたら…」
「やっぱり、怒られるわよね…」
「でも、ルイーズ様も許可してくれたし…」
ヒソヒソ話すメイド達。
「貴女達、そんな所で何を… って、ソフィア様!? その髪は!?」
厨房から出てきたアンナが驚いてソフィアに駆け寄る。
「ふぇっ? 髪… ですか?」
ボサボサ髪に気付いていなかったソフィアが自身の髪を触る。
「わぁ~♪ つい最近までこんな髪だったから、なんだか懐かしいです♪」
ソフィアは喜んでいるが、アンナは大きな溜め息を吐く。
「喜ばないで下さい… そんな頭じゃ、王候貴族と会うのに相応しくありません… そもそも何故、そんな頭に…」
そこまで言って、昨夜の出来事を思い出すアンナ。
「…あれが原因よね… とにかく霧吹きとブラシを持ってきて! 朝食までに調えるわよ!」
アンナがメイド達に指示し、ソフィアのボサボサ髪を梳かしていく。
ようやく髪が調った頃、バドルス侯爵達とマッカーシー大司教が食堂に現れた。
ソフィアのボサボサ髪を見られずに済んだと、メイド達は胸を撫で下ろしたのだった。
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「ソフィア様… 本日は王宮にて、ソフィア様を歓迎する宴が催されます。夕刻から始まり、歓談の後に王侯貴族達との会食です。私やバドルス侯爵殿も同行しますので、お気を確かに保たれます様に…」
朝食を摂りながら、マッカーシー大司教が予定を話し始める。
できるだけソフィアを緊張させない様にした発言だったのだが…
「おーこーきぞく…? かんだん…? かいしょく…?」
それ以前に、ソフィアは大司教の言葉を理解していなかった。
「そこから説明しないとダメなんですのね…?」
思わず呟くルイーズに、思わずソフィアは土下座していた。
「ご… ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! 私、何も知らないんですっ! 店主様から『奴隷は言われた事だけ忠実にこなせ。何も聞くな、何も知るな。質問する権利など奴隷には無い』って言われてたんですっ! だから…」
そこまで言った時、ルイーズがソッとソフィアの頭を撫でる。
「そんな事を言われてたんですのね? でも、もう気にする事は無いんですよ? ソフィア様は聖女に成られたんですから、奴隷だった頃の習慣なんて忘れて良いんですよ?」
優しく話し掛けるルイーズに、ソフィアは眼を潤ませながら顔を上げる。
「お… お母さ… いや… ルイーズ様…」
思わず出した言葉にルイーズは微笑む。
「あら… 私を母と…? ソフィア様にそう言って頂けるなんて、嬉しいですわ♪ ねぇ、フランク♪ ソフィア様を私達の養女に…!」
「いや、それは前例が無いし… さすがに許されないだろう…」
一瞬だが聖女から母と呼ばれ、はしゃぐルイーズの無茶振りにフランクがダメ出しをする。
フランクの言う通り、聖女を養女にするのは前例が無く、周囲が認めるとは思えなかった。
「あら、そうですの? 残念ですわ…」
心底残念そうにするルイーズ。
「王侯貴族とは… 王族と、その縁戚である公爵、そして貴族達の事です。歓談とは、打ち解けて親しく語り合う事です。会食とは、人が集まって一緒に食事をする事です。今のソフィア様には少々酷かと思いますが…」
マッカーシー大司教が言葉の意味を説明する。
すると、みるみるソフィアの顔色が悪くなっていく。
「そ… そんな偉い方達と食事や会話なんて、私に出来るんでしょうか…?」
「私も同席しますから大丈夫ですよ。それに、国王陛下は優しい方ですからね」
不安そうなソフィアにフランクが話し掛ける。
「こっこっこっこっ、国王陛下ぁあああああっ!? はぅっ…」
「「「「「あ… やっぱり…」」」」」
前日にフランク達が予想した通りの反応をするソフィアに、全員の声がハモった。
「それにしても、不思議ですね… 大司教様の話を思い出すと、聖女の能力に目覚める時に光に包まれて… その際に様々な知識も授かるんですよね? 何故、ソフィア様は簡単な言葉を知らなかったんでしょう?」
メアリーが当然とも思える質問をし、皆がハッと気付いて大司教に視線が集まる。
「それは単純です。授かる知識は聖女として必要な知識なんです。それ以外は、普通なら知ってる知識ですから…」
マッカーシー大司教の説明に、誰もが納得したのだった。
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ソフィアが失神から覚めたのは、昼食の少し前の事だった。
昼食を食べながらマッカーシー大司教が話し掛ける。
「ソフィア様… 昼食の後、王宮に向けて出発ですが… 大丈夫ですか?」
「だだだだだ、大丈夫ですぅううう~…」
そう言うソフィアの手はブルブル震えており…
皿から抄ったスープを飲もうとするも、口に運ぶまでに全てスプーンから零れてしまっていた。
「ソフィア様、緊張し過ぎですわ? さっきフランクが同席すると言っておりましたけど、私も同席しますから安心なさって下さいな♪」
「ル… ルイーズ様ぁ~… ありがとうございますぅ~…」
ルイーズがソフィアの頭をソッと撫でると、ソフィアは涙をダバダバ流しながらスープを口に運ぶ。
その手は先程と違い、全く震えていなかった。
(もしかしたら、ソフィア様はルイーズに母の面影を見ているのかも知れないな… 私としても、ソフィア様が聖女でさえ無かったら、養女に迎えるのも吝かでは無いのだがな…)
ルイーズや子供達は勿論、フランクもソフィアを気に入っていた。
聖女でさえ無かったら、本気でソフィアを養女にしても良いと考えていた。
(まぁ、それは魔王を倒してから改めて申し出てみるか… 聖女としての役目が終わった後ならば、誰も文句は言わないだろうしな…)
そんな事をフランクが考えてる内に食事が終わり、王宮から迎えの馬車がやって来た。
その造りはやたらと豪奢で、外観は金色・銀色に彩られて輝いていた。
大聖堂がソフィアを迎える為に寄越した聖女用の馬車も豪華だったが、王宮が用意した馬車は、それを遥かに上回る豪華さだった。
「あばばばばばば… こんな豪華な馬車に、私なんかが乗っても良いんでしょうか…?」
キラキラと輝く馬車に、思わず後退りするソフィア。
「勿論でございます。こちらの馬車は、聖女様の為に特別に誂えた物でして… 遠慮せず、お乗り下さいませ」
身体の小さなソフィアの為、馬車に乗る為の階段までが用意されていた。
「わ… 私なんかの為に… なんだか申し訳無いです…」
恐縮しながら馬車に乗り込むソフィア。
その後に続いて乗り込もうとした大司教を、御者と思しき人物が制止する。
「この馬車は聖女様専用にございます。大司教様とバドルス侯爵様御一行には、そちらの馬車に御乗車下さいます様に…」
御者らしき人物が言って指し示した馬車も豪華ではあったが、聖女専用の馬車と比べると明らかに見劣りしていた。
勿論、通常の馬車と比べるとフランク達の乗る馬車も充分に豪華である。
単に聖女専用の馬車が豪華過ぎるだけなのだが…
フランク達は納得して馬車に乗り込んで寛ぐが、ソフィアは豪華過ぎる馬車に気後れしてガチガチに緊張していた。
(わ… 私、なんでこんな豪華な馬車に1人で乗ってるんだろ… それに、これから国王陛下に|会うんだよね… こ… 怖いよぉ…)
そんなソフィアの心配を余所に、馬車は王宮に向かって出発したのだった。




