お勉強会!
『今日は巣立ちの時の為に、勉強をします!』
朝起きると、お母さんからそんな事を言われました。
隣にいた飯綱と野鎌は、意味がよく分からなかったのか、口をポカンと開けたマヌケ面を晒していました。
乳離れの時から暫く経ちました。
そして、そろそろ巣立ちの為に、これからの事を色々考えなくてはならない時期です。
それで私達は、今のうちに勉強して色々覚えておかないといけないそうです。
時間の流れは、あっと言う間に過ぎ去ってしまいますからね……
私達はお母さんを前にして、三日月状に横に並びます。
実際そんな物は無いですが、お母さんが教壇に立った様に感じました。
『まずは、貴方達の話の前に前提条件として人間という生物の話をしますね!。
人間とは、外の世界で最も繁栄しているのではないかと言われている生き物です。そして、私達のある意味生みの親とも言えますね…』
「私達の?」
『ええ、貴方達もそうですし、私もそうです。詳しくは後で話しますけど…、私は人間を、全体的に最も悪意に満ちた生物だと思っていますね。ただこれは、知性を持つ存在が持っている宿命だとも思いますし、私達も人の事を言えませんが…』
お母さんは、少し顔を伏せますが直ぐに顔を上げます。
『そして人間は弱い種族ではありません!。いえ、昔は弱かったですが、以前とは比べ物にならない程に強くなりました。原因は科学の進歩の所為で、不可思議な事を解明する力を得たことでしょう。ただ精神の方は、寧ろ弱くなっている気がしますけどね。』
そこで一呼吸挟みます。
『まあ、普通の人間はご飯だと思って良いですが、偶に戦う力を持った人間がいて、退魔師とか言われていますね。他にもいた様な気がしますが…忘れましたね。
それで退魔師は、物理には結構強い私達を消滅させる退魔の力を持っているので、基本的には逃げた方が良いです。
命を失ってからじゃ遅いですからね……』
『それでは話を変えて、私達の話をしますね。まず、貴方達は自立する為に、後二ヶ月程で此処を出て行かなくてはいけません!。所謂、独り立ちです。三匹一緒に出るので少し違いますけど…』
そんな話に、飯綱が小さく前足を上げます。
「何で三匹一緒に出るの?」
巣立ちをする事に関しては、本能で分かっていたのか後者の事を質問します。
あっ、でも野鎌はあんまり分かっていなさそうな顔してる。
後でこっそり教えとこうかなぁ…。
飯綱の質問にお母さんは答えます。
『その為には、私達の種族とかの話さなくてはいけませんね。まずは、私達は鎌鼬の妖怪です。恵那にはもう話していますけどね。』
突然名前を呼ばれたのと、一様に此方を見た事で少しビクッとします。
兄弟は何処となく、先に教えられてずるい〜、とでも言いたそうな視線を送っているように感じます。
私は、そんな視線を無視した振りをして、お母さんの話に耳を傾けます。
『まず妖怪とは、人の思う分からない物、不可思議な物の恐怖や畏怖が形になった物と言われています。』
今度は野鎌が前足を上げます。
「恐怖と畏怖?」
『正確には、それに付いた人の霊力らしいですけど。お母さんも専門家では無いので詳しくは知りません!』
...多分、野鎌が聞きたいのは、そういう事では無いと思うので、補足説明してあげます。
「恐怖や畏怖は、簡単に言うと怖いって事です。貴方が、爪が怖いみたいみたいな感じですね!」
小さく話すと、野鎌は納得した顔をします。
「ああ、なるほど~。前から思っていたけど恵那って物知りなんだな。ありがとう!」
野鎌からの感謝の言葉に、嬉しくなって頬が赤くなります。
そんなやり取りをしながらも、お母さんは話を続けます。
『そして、妖怪には大きく分けて二つの種類があります。一つは半妖タイプで、もう一つは霊体タイプで分けられています。鎌鼬は前者になりますね。』
これには私が質問します。
「前者って事は、半妖タイプ?」
『そうですね。半妖タイプは基本的に、実際にある物に霊力が宿って妖怪になるタイプです。例えば私達は、実際のイタチに霊力が宿って変化したらしく…。唐傘お化けや付喪神は、物に宿って妖怪変化しました。』
すると、少し自分の中で疑問が生じます。
「じゃあ、私達も元は只のイタチだったの!?」
『いえ、どうやら妖怪化した者からは妖怪しか生まれて来ないみたいで、貴方達は最初から、ちゃんと鎌鼬でしたよ。』
そう、落ち着かせる様に言います。
『話を続けると、半妖タイプの特徴としては他に、交配して数を増やす事が出来、食べ物を食べて生きる力に変える事が出来ます。』
「じゃあ逆に、霊体タイプはそれが出来ないの?」
それが出来ないって、どんな生物?なんだろう。そんな私の質問にお母さんは答えます。
『ええ、霊体タイプはその名の通りに、全身が霊力で作られているので、私達と同じ様な事はあんまり出来ません。そして、ポンっと何処かで生まれて、完全に恐怖されなくなり、霊力の供給が途絶えると消えてしまいます。まあ、例外もありますけど…』
「例外?」
『う〜ん、そうですね…。少し難しいですが、食べるという行為で直接栄養を摂るのでは無く、それによって起こる恐怖の力から栄養を摂る感じですね。例えば、人を食べる妖怪がいたとしたら、それを見た人間は怖がるでしょう。その時に出たエネルギーで存在を保つという感じなので、食べるという行為自体が出来る者は結構いますね…』
『まあどちらも、最近では不可思議な事が無くなってきて数が減ってきているんですけどね……』
そこまで言うと、お母さんは手をパチンっと一回叩きます。
『それじゃあ妖怪の話は一旦終わり!。次は鎌鼬の話に移りたいんだけど…』
お母さんの視線が、私の横を見ている事に気づいて横に振り向くと、すやすやと眠る、兄弟の姿が目に映りました。
やけに静かだと思っていましたが、既に夢の世界に旅立っていたとは…。
私は、どうしよう…という視線をお母さんに向けます。
『まあ、難しかったし…続きは明日にやりましょうか。』
そんな事を頬を掻きながら呟きます。
その言葉で私も緊張の糸が途切れたのか、そのまま眠ってしまいました。
Zzz…
まあ、妖怪は恐怖から生まれたので、人間を襲う事が食事であり仕事だよって事が分かればオッケーです。
後はそろそろ、一旦全部修正するかもしれない。分かりづらいと思っていたので…