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神社

 駅舎を出ると、ロータリーのわきで自分に手を振る中年男性の姿がすぐ目に入った。

 正行はその人物に一礼して駆け寄っていった。


「やあ、正行君、よく来たね」

「こんにちは。おじさん。お久しぶりです」


 正行の伯父の陰之口(いんのくち)春芳(はるよし)とは、既に電話で何度か話していたが、実際に顔を合わせるのは祖父の葬式以来、数年ぶりだった。以前見た姿よりだいぶ白髪が増えていた。


「寒くないかい?」

「はは、寒いですね」

「じゃあすぐ車に入ろう」

 

 春芳は、今日は家でゆっくり落ち着いて、翌朝一番に市役所に行って養子縁組手続きをすると告げた。家では伯母の美佳がご馳走を作ってくれているということや、正行の部屋の準備はもうしてあるという話を聞いた。


「ああ、それで、正行君、少し真剣な話になるんだけどね」


 春芳が少し語調を変え、正行はその空気を読んで軽く緊張した。


「はい?」

「年が明けたら、近くの撫手(なで)神社に初詣に行くんだけど、その時、少し特別なものにお参りしてほしいんだ」

「特別なもの、ですか?」

「前に、陰之口のご先祖様が土蜘蛛を退治したって話をしただろう?」

「はい」

「撫手神社にはその土蜘蛛のミイラが祀られているんだ」

「え、ミイラ? え、ちょっと、土蜘蛛って、そんな、本物なんですか?」


 頭が混乱してうまく言葉を返せなかった。彼の頭の中にはアニメの『ゲゲゲの鬼太郎』に登場した妖怪の姿が浮かび、そのミイラが実在するということを受け入れられなかった。

 すると彼の様子から察した春芳は笑った。


「ああ、勘違いしているよ、正行君、土蜘蛛ってのは妖怪じゃない。昔はね、時の権力者に従わなかった人たちを土蜘蛛と呼んでいたんだ。『古事記』や『日本書紀』は学校で習わなかったかい? それにも書いてあるんだけど」

「名前は知ってますけど、実際、読んだことはないです」

「そうか。まあ、つまり土蜘蛛はお化けじゃないんだ」

「そうだったんですか。でも、古くから伝わるミイラなんですよね。それはかなりすごいものじゃないんですか?」

「そうだよ。だからお参りするんだ。何ならその時に実際に見てみるかい?」

「見ていいんですか!? 祟りとか……」

「代々、宮司を務める浜田家と陰之口家の人間だけは見ていいことになっているんだよ。祟りがあったという話は伝わってないなあ」


 妖怪ではなく人間のミイラということで、正行は違う意味での気味悪さを感じたが、それ以上に興味がまさった。


「伯父さんもミイラを見たことがあるんですか?」

「あるよ。ずっと前に。まあチラッと見てすぐ目をそらしたけどね」

「……滅多に見られるようなものでもないですし、見てみたいです」

「うん、後で浜田さんに電話しておくよ」


 それからまもなく春芳の家に二人は到着した。

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