クワガタムシのバッタもんはカブトムシだもん
子供の頃、四つ葉のクローバーをよく探した。大人気だったアニメに、四つ葉のクローバーを口にくわえた王子様が登場した。バッタバッタと魔獣バッタモドキを草刈り鎌で斬り伏せるシーンが大好きだった。バッタモドキを庇った心優しい聖獣カマキリを王子様が誤って斬ってしまうと、聖なる力でカマキリが体内に抑え込んでいた大魔獣ハリガネムシが這い出てきて、ウネウネと広がってテレビ画面を真っ黒に埋め尽くしていたと思い出す。
四つ葉探しは困難を極めた。辛抱強く、お腹が減るまで地面に這いつくばったりしてかなり粘ったけれど、そう簡単には見付からず、たまにイラッとしてクローバーの三つ葉を一枚、真ん中の葉脈に沿って裂いてバッタもんの四つ葉を作ったりした。
中学生の頃、料理が苦手な母親が、セロリのサラダをかなりの高頻度で作るようになった。火を使用しない料理だというのに、母親は料理上手になったと言って喜んでいた。細かく裂いたスルメと千切りのセロリを、エクストラヴァージンオリーブオイルとブラックペッパーで和えるだけの簡単サラダ。調理の難易度的には、子供向け料理番組で流れるレベル。だが、味は洒落ていて、確かに美味しい。
セロリもオリーブオイルも美容に良い。
当時は思春期真っ只中で、ませてきて、ちょうど肌の手入れに関心を持ち始めた頃。自分は取り皿に欲張った盛り付けをして沢山頬張った。母親がサラダを作るときは自主的に手伝いを申し出て、ただひたすらに、無心でスルメを裂いていた。
高校生の頃、縮毛矯正とヘアーアイロンが流行った。暑い夏でも我慢して、肩より下の長さの髪を括らずに下ろしていた。
文系の頭には理解困難で億劫でしかない物理の授業中などは特に、散らばった髪の毛先を人差し指と中指で挟んで枝毛を探し、どこまで長く裂けるかという地味で陰気な遊びをよくしていた。一度、先生に見付かって注意されかけたが、斜め後ろの席の男子が急に大声でツクツクボウシの鳴き真似を始めた為、事無きを得た。その男子は理系科目が得意で、テストはいつも高得点だったが威張った様子の無い、印象の良い、だが普段は物静かで印象の薄い人だった。そんな彼がまさかのツクツクボウシの鳴き真似。自分という殻を脱ぎ捨てて、かなり頑張ったのだと思う。鳴き終わって先生の注意を受ける彼の表情は今でも鮮明に憶えている。表情が抜け落ちて、抜け殻みたいに放心していた。
物理のテストは人物名などの暗記部分で点数を稼ぎ、赤点にならないギリギリのラインでどうにか踏ん張った。無事に進級して文系コースに進み、物理とはオサラバしたが、その感動は生涯忘れないだろう。万歳三唱を三日三晩行った。
二十九歳の大人になった今、カブトムシを三匹飼っている。
七月の資源ゴミの日に、ビニール紐で縛った新聞紙の束をゴミステーションに持って行く際、バッタリ出会った裏の家の奥さんから四匹を譲り受けた。旦那さんの趣味が昆虫採取で、毎年夏になるとカブトムシを捕まえに行くのだという。雄と雌、合わせて二十匹以上捕まえて、息子さんの友達や旦那さんの会社の同僚に配った残りだと言っていた。
自分にはカブトムシの飼育経験は無く、インターネットの複数のページを熟読したが、残念なことに、貰って早々に一匹は死んでしまった。弱っているだとか、そんな兆候は何もなくて、ピクリとも動かなくなったカブトムシを見た時はただただ悲しかった。花壇の土をスコップで掘って死骸を埋め、こんもり盛った土の上に昆虫ゼリーの中身を乗せた。丑三つ時にでも、野生の仲間が遊びに来てくれたら少しは弔いになるかもしれないと思った。
八月に入って気温がグッと上がった。カブトムシは飼育ケースの中で元気に過ごしている。昆虫ゼリーのカップが食べて空になっていたので、新しいものと取り替えてやる。昆虫ゼリーの残りが少なくなってきたので、明日にでも百円均一の店に行って購入しようと決意する。
昆虫ゼリーのフィルムは完全に剥がしてしまうのではなく、鋏で十字に切り込みを入れるといいと、カブトムシを貰った時に裏の家の小六の息子さんが教えてくれた。ちなみに息子さんは、強豪硬式野球クラブの五番バッターなのだとか。
カブトムシを親指と人差指で摘んで持ち上げ、腕に乗せる。よじよじ歩く様子が何ともいじらしく可愛らしい。
カブトムシは夜行性で、日中は大人しい。野生の状態だとまた違うのかもしれないが、飼育してみると夜や明け方にしか飛ばない。人間に忌み嫌われるゴキ(以下省略)とは動き方が全く違う。断然カブトムシが可愛い。
カブトムシの女の子には角は無いけれど、男の子には立派な角がある。
頭の中で想像する。
鋏で、ちょきん。
角が真っ二つ。
クワガタムシのバッタもんの出来上がり。
でも、本当はカブトムシだもん。




