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うちのこ いちばん!~息子は悪役令息らしい。~  作者: おもちのかたまり
息子、ご生誕編
5/7

もふもふのふわふわ

「………。」


「………。」


カチャカチャと食器の音だけが響く。旦那様は三日に一度位の頻度で、一緒に食事をとろう。といってくるのだけれど無口と言うか…ほとんどなにも喋らない。私が話しかけたとしても


「あの、旦那様。」


「…ッな、なんだ?」


今みたいに、ビクッと大袈裟なほど肩を跳ねさせてこちらをうかがい見てくるのでそれだけで気疲れしてしまう。


「その、無理にご一緒なさらずとも…私は気にしませんよ?」


あまり直接的に言っては傷付けてしまうかな…、とは思うものの旦那様の地雷がわからなすぎて言葉に迷う。だって旦那様、たまの食事中は世間話もないんだもの。


「ちがっ、無理などしていない!」


「そうですか…。」


そしてまた沈黙タイムがはじまる。正しくは、旦那様は何か話そうとして口をはくはくさせては思い止まって考え込んで…ぶつぶつ独り言を話してはこちらをチラ見してくるの繰り返し。


「…ごちそうさまでした。それでは失礼します。」


「っ、あ、ああ。」


だから食事が終わればすぐに離席して塔に帰る。退室する時に一瞬見える旦那様はいつも眉間にシワを寄せていて…。そんなに嫌なら、放って置いてくれればいいのに。


「あぅ?あー!」


「ふふ、今日も可愛いこさんだねぇ。」


んぶんぶと喃語を話ながら自分の握りこぶしを咥えてよだれまみれにしている天使を撫でると、くすぐったいのかニコニコ笑ってお喋りしてくれる。はぁあ!かわいッ!あっという間に私の心はアレンに持っていかれて、旦那様のことは端に避けてアレンを構い倒した。


なんてことが、大体の旦那様とのサイクルだった。んだけども。


「や!元気?」


「…この間あったばかりでしょう。元気ですよ。」


「そんな顔しないでよ。折角来たんだから。」


塔にある客間のソファでゆったり紅茶を飲むアルベルトに溜め息が出た。なにしに来たかは想像がつくけども…。


「ん、相変わらず美味しいね。」


「それはどうも。お忙しい次期国王様にお褒めいただき光栄ですわ。」


「…怒ってる?」


「怒ってませんよ。目の下からクマさんが逃げ出すブレンドです。ルナマリアのお腹に良くないので飲ませないでくださいね。」


ちょっとカフェインがありますからね。侍女に視線をやれば、優秀なうちの使用人達はすぐにアルベルト付きの使用人に持ち帰り分のブレンドを渡す。


「ありがと。それで、ガイナスと喧嘩中だって?」


「喧嘩…でしょうか…。わかりません。」


困ったように眉根を下げるアルベルトから視線を反らして手のなかのカップをみつめる。揺れる琥珀にうつりこむ私は、困惑しているように見える。


「政略結婚ですし…、私と旦那様では生まれた環境も違いすぎます。些細なことでも気に触るのかもしれません。」


私が無意識に旦那様を怒らせているのかもしれない。生まれ直してから貴族の英才教育を受けてきた私の身体は完璧なマナーを全自動でこなしてくれる。いくら中身が前世を思い出しても、思い出しただけなのだから感覚的には『はっきり思い出せる夢』に近い。魂事態は両方私だから、今の私が死んだとかそう言うことはない。両方しっかり生きていて、混ざりあってる。だからこそ自分では気がつけない違和感があって、獣人特有の鋭い勘のある旦那様は気持ち悪く感じるのかも…。


「ところで…、そちらの大きな犬さんはどうしたんですか。」


アルベルトの隣に座りよいこでマテをしている、深く暗い赤色…ガーネットのような毛色の犬さんが、インクブルーの瞳を輝かせてじっと私をみていた。


「犬じゃなくて狼だよ。犬にしては大きすぎるでしょ?」


「狼でも大きすぎです…で、どうしたのですか?」


訝しむ私と対極にアルベルトは晴れやかな笑顔で。


「プレゼント。お祝いにね!」


「えぇえ…、プレゼントって…」


「賢いからしっかり言うこと聞くし、キミはもふもふしてる動物が好きだろう?」


「それはまあ…好きですけど…、」


押しきられそうになってちら、と狼くんをみるとなんとなくキリッと居ずまいをただして格好いい顔をするものだから、可愛らしくて笑ってしまう。私より大きな狼なのに可愛く見えるのだからもうダメだ。


「気に入った?ガイナスにも伝えてあるから大丈夫。小さい頃から動物と一緒にいるのは情操教育にいいって聞くしさ。」


「んん…わかりました。お名前はなんですか?」


はい、完全に絆されました。無理ですよもふもふが嫌いな人間なんていません!アルベルトが帰ったら存分に撫でさせてもらおう。


「キミの好きに決めていい。ちなみに雄だよ。」


「そうですね…、」


まさかの名前無しでしたか。でも突然過ぎて浮かばない…。じっと見られている気がして視線を向けると、狼さんとバッチリ眼があって、ゆるゆると尻尾を振られた。うう、可愛い…。ガーネットの赤の毛色と深海のような青の瞳…。まるで旦那様みたいな色の狼さんだ。


本当は、旦那様と仲良くなりたい。だって旦那様、ものすごく私のタイプなんだもの。王子様系よりがっしりした騎士系が好きなのよね…。しかもお耳と尻尾までついてらっしゃるし。結婚式の礼装も格好良かったんだよなぁ。好きすぎて、だからこそ旦那様が綺麗なお顔をしかめて私を見るたびに申し訳なさとやるせなさで辛くなる。


「…ガイアくん、」


「!!」


無意識で出てしまった呟きに狼さんが反応した。私から離れない視線のまま、狼さんにそっと近づいて手前で膝をつく。


「ガイアくんは、私と家族になってくれますか?」


「…ッゥオフ!」


キラキラなおめめで私に身体をすり寄せてくるガイアくんの首を撫でると、ふわふわもふもふの毛並みに手が沈んで暖かさと柔らかさがとても気持ちいい。


「ふーん、ガイア、ね。本人には言わないの?」


「言いませんよ…。」


ガイア、は旦那様…ガイナス様の愛称だ。親しくもない私が呼んだところで、嬉しくもないでしょう。それに、


「普通に名前としてもありますし、これくらいいいじゃないですか…。」


たとえうまく行っていなくても、私の中に蟠りかあっても…旦那様を待っていた二ヶ月の間、それこそ初恋の熱で浮わついて色々妄想して寂しさを乗りきっていたんだもの。ちょっと夢を叶えるくらい許して欲しい。


「ガイアくんだって気に入ったみたいですし。ね、ガイアくん。」


肉厚なお耳の付け根をもちもちと揉んでいる間も大人しく座ってくれているけど、尻尾がはち切れんばかりに振られていて絨毯がバフバフ音を立てている。


「そりゃあ気に入るだろうね。」


「なんですか先ほどから…。」


「いいや?ガイナスそっくりだからつけたんだろう?」


ニマニマと笑うアルベルトに、ちょっとムッとしてしまって眉間に皺がよる。わかってるならそっとしておいて欲しい。アルベルトだって旦那様に似てると思ったからガイアくんを選んで私のところに連れてきたのでしょう。


「…色味が似てるから浮かんだだけです。ガイアくんは狼ですけど、旦那様は猫さんでしょう?」


「えっ、」


「え?」


「ッ確かに色はね!そっくりだからね!」


一瞬、旦那様の声がした気がして部屋を見回す。まぁいるはずないんですけど…幻聴?何故か目線を游がせて紅茶を飲むアルベルトに違和感を感じるけれど、ガイアくんがグリグリと私の手に顔を押し付けてナデナデを要求してくるので、違和感はすぐに忘れてしまった。


「じゃあ、ガイアのことよろしくね!」


「わかりました。責任をもって可愛がります。」


「…うん、仲良くね。」


優しく微笑むアルベルトの言葉に、ガイアくんだけでなく私達のことも含んでいるんだろうな。と、すぐに気がついたけれど。私は曖昧に微笑むことしかできなかった。


「きゃあああ!」


「わぁ、大興奮だね。」


アレンのために作ったプレイルーム。そこでガイアくんとアレンの顔合わせをすることにした。アレンは私が抱えて、ガイアくんは隣に私の侍女…キャリーがついてる。お利口に座っていたガイアくんはアレンが入室するとお腹を絨毯につけてマテをしてくれていた。本当に頭の良い子だなぁ。


一方アレンは初めての生き物を怖がるかと心配したけれど杞憂だった。大喜びで眼をキラキラさせて、必死でガイアくんに手を伸ばしてる。ふれさせるか迷ったけれど、視線のあったガイアくんが『いいよ』って言ってるみたいに頭を伏せてくれたから、ガイアくんの隣に座って膝にアレンを乗せた。


「優しく触ろうね。そう、上手。」


きゅむ、と小さな手がガイアくんの赤い毛皮を掴んでにこにこご機嫌で笑っている。んんー!天使!


「赤色は一番見やすい色だもんね。」


「んぶ!ぁぶ!」


「うんうん。嬉しいねぇ。」


無理にガイアくんの毛を引っ張ったりもせず、ただしっかり掴んで離さないままガイアくんに埋もれて笑うアレンに癒される。安全だと判断したキャリーもそっと壁に寄って微笑ましくアレンを見てる。もふもふ狼と猫耳な息子、プライスレス。


「ガイアくんも、アレンに優しくしてくれてありがとう。」


アレンと一緒になってガイアくんに抱きつく。ふぁあ!もふもふ!極上のもふもふだ!ふかふかで長い毛並みはさらさらで。思わず首に手を回して抱き締めると、ガイアくんの首筋に顔が埋まるから頬にもふっと柔らかさを感じられて気持ちいい。それに、


「ガイアくんいい匂い…。」


優しい甘さのような癖になる香りは、洗われた時に香料の匂いがついたのかな?嗅いだことのない匂いだけれど、すごく落ち着く。ガイアくんはその間固まって微動だにせず、それに気がつかないでついつい甘えるようにすり寄ってもふもふと香りを楽しんだ。






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