01:嘘をついた結果
俺は今、大変な事態に巻き込まれている。
「鈴村?君は一体どういうつもりだったんだ?」
同級生で学級委員長の吉崎栞には睨まれ。
「か、和馬君もきっとわざとじゃないんだよ!」
同い年で幼馴染の澤神楽には庇われ。
「ふふふ・・・許せませんわ・・・末代まで呪いますわ・・・うふふふふふふふ・・・」
部活の部長で社長令嬢の大和田先輩には呪われ。
「それでもあり得ないわよ!どう責任取ってくれる訳!?」
元バイト先の先輩、高町先輩にはキレられている。
俺、この間までは平和な夏休みを謳歌していたはずなんだが・・・どうしてこうなった・・・?
◇
キッカケは、海外で仕事している親父からの一本の電話だった。
「お前、自炊はしてるのか?」
一年半も連絡がなかったのに、珍しく連絡してきたと思ったら・・・
まあ、面倒臭いし適当に答えればいいか。
「してるぞ」
してない。
毎日バイトのまかないとコンビニ弁当しか食べてない。
「家の掃除は?洗濯は?」
「してるぞ」
してない。
家はゴミ屋敷寸前のギリギリ状態、洗濯は限界まで溜まってからである。
「彼女はできたか?」
「ちょっと前までいたぞ」
いない。
彼女どころか会話するような女友達もいない。
「そうか。なら大丈夫だな」
「何が?」
一年半ぶりの連絡が俺の心配だけか?
だったらもっと頻繁に連絡きてるよなぁ。
「実はな、俺の姉・・・お前から見て叔母だな。その叔母が経営してた寮が老朽化で取り壊す事になってな。そこの寮生が家に引っ越してくるから準備しといてくれ。要はシェアハウスだな。詳細は叔母から明日連絡が来るはずだ」
・・・は?
◇
「あら~!大きくなったわねえ和馬君!」
「はぁ・・・お久しぶりです・・・」
翌日、バイト終わりに叔母から呼び出されて喫茶店にやってきた。
お久しぶりですとは言ったが、正直覚えてない。
最後に会ったのが母の葬式(3歳の時)とか覚えている訳がない。
「急にごめんねぇ~・・・?でも、和馬君が引き受けてくれて助かったわぁ」
いや、引き受けるとは言ってないんだが?
親父が勝手に決めただけなんだが?
今からでも遅くないはずだ、さっさと断って帰ろう。
「すみません、実は―――」
「ちゃんと寮父さんとしてやってもらう以上、お給料は払うから安心してねぇ」
「わかりました、任せてください」
金、大事。
俺、寮父、決定。
「詳しくはマニュアルを作ってあるからそれを読んでもらえる?それと、朝食と夕食は和馬君に作ってもらう事になると思うわぁ」
あっ、やべぇ。
そういえば俺、自分の心配されてると思って親父に嘘ついたんだった。
「すみません―――」
「それと、引っ越し後の事なんだけどねぇ」
「えっと―――」
「ああ、それと夏休みが終わってからはねぇ」
その後、俺が言い訳する間もなくマシンガンの如く寮父の説明をされて・・・
「じゃあ、五日後によろしく頼むわねぇ」
満足したのか、コーヒー代を払って帰っていった。
どうしよう。
家の使ってない部屋の掃除を大急ぎでやるのは当然として、どうにもならなさそうな問題が多すぎる。
一つ、俺が最後に包丁を握ったのなんて小学校の家庭の授業の時レベル。
今更料理を勉強した所で到底間に合うとは思えない。
朝食は目玉焼きとか俺でも出来そうなので誤魔化せても、夕食を誤魔化せる気がしない。
二つ、俺は滅茶苦茶朝に弱い。
目覚まし5個用意して、ギリギリ学校やバイトに遅刻しないくらいである。
それが朝食を用意する時間に起きれるか・・・?いや、無理だろ。
三つ、ある意味これが一番キツいんだが―――俺は人付き合いが苦手だ。
昔色々あってから、どうにも同性異性問わず深い付き合いができない。
そのせいで、親友と呼べるような奴はいない。いわゆるぼっち。
・・・そんな奴が寮父なんてできるのか?
詳しくは知らないが、寮って事は俺に歳の近い奴が来るんだろ?・・・無理じゃね?
まあ、新しいバイトと割り切って頑張るしかないか・・・。
帰ったら部屋の掃除をしつつ、料理の勉強だな・・・。
◇
そこからの五日間は、びっくりする程時間が経つのが早く感じられた。
全然触れてなかった夏休みの課題を一日で全て終わらせ。
我が家に来るのは四人と聞いたので、一日一室ペースで掃除を終わらせ。
朝食、昼食、夕食全てをスマホで必死に調べながら自分で作り練習し。
溜まっていた洗濯物は数回に分けて全部洗って綺麗に畳み。
恐らく掛け持ちする余裕はないので無理いってバイトも辞めさせてもらった。
・・・出来る事は全部やった。
後は何とか、人付き合いの苦手な俺でも大丈夫な人達が来るのを祈るのみ。
「お待たせ~!」
朝の間にやる事を終わらせて待っていると、昼前に叔母がやってきた。
「こんにちは、叔母さん」
「大きい荷物は明日なんだけど、先に寮生の子だけ連れてきたわぁ」
「わかりました」
落ち着け、俺。
こういうのは第一印象が大事なハズだ。
しっかり、丁寧な挨拶をすれば大丈夫だ。
「皆おいで~」
「初めまして、鈴村和馬です。今日からよろしくお願いしま・・・す・・・」
「「「「え?」」」」
俺は、そこから先の言葉が出なかった。
というより、寮生と聞いた時点でこうなる危険性を少しは考えておくべきだったのかもしれない。
目の前にいるのは、全員知った顔。
同級生で同じクラス、学級委員長の吉崎栞。
学校は違うが、同い年で幼馴染の澤神楽。
俺の所属する部活の部長で社長令嬢の大和田撫子先輩。
つい先日まで働いていたバイト先の先輩、高町瑠奈先輩。
・・・いや待って、知った顔どころか全員女!?
面白い、続きが楽しみ!と思えましたら・・・
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