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パイロキネシス

作者: 西園良

 かつて、超能力というものは科学的に証明されていなかった。だから、当時超能力者を名乗る人間は胡散臭い目で見られていた。しかし、現在は超能力というものが科学的に証明され、超能力者という存在が認められるようになった。当時の超能力者を名乗る人間が本物かどうかは分からない。だが、今現在の超能力者は現存している。


 これが俺が習った超能力者の歴史である。西暦2106年の現在では多数派とは言えないが、超能力者の数はそこまで少数でもない。少数派なのには変わらないが。ちなみに、俺も超能力が使える超能力者の一人である。俺の超能力はパイロキネシスだ。自分の意思で発火できる。

 俺は今学生だが、再来年の4月には社会人となる。2108年の4月はまだ先になるが、今から考えておいても損はないだろう。

 そういうわけで、俺は何になりたいのか。うーん。無難にサラリーマンが良いのか。それとも、俺の超能力を活かせる職が良いのか。でも、そういう職は多くない上に、情報もいまいちで少ない。

 俺がうんうんと悩んでいると、スマホから電話がかかってきた。名前を見ると、友人からだった。

「もしもし」

「よお、相本(あいもと)。今大丈夫か?」

「大丈夫だけど。急にどうした?」

 友人がいきなり電話をしてくることはあんまりない。基本的に通信アプリやメールでやりとりするからな。

「国が超能力道場を公開するらしいぞ」

「ああ、そんなのあったな」

 超能力道場とは、超能力者が超能力を鍛えたりするところだ。道場には、大まかに教える師範と教わる門下生の二種類の人間がいる。教える師範等については俺はよく知らない。そして、教わる側の人間には、大別して門下生と参加者に分かれる。門下生にも細かい区分があるみたいだが、俺はそれもよく知らない。

 超能力道場は国が特定の日に道場の一般公開を行っている。年に3、4回は一般公開を行っているから、特別な日というわけではない。当たり前だが、参加者は一時的に道場の関係者になるだけで、公開期間が終われば、道場とは無関係の人間になる。とは言っても、参加記録や成績はずっと残るので、全くの無関係になるというわけでもないけれども。

 参加者のメリットは道場で力試しができることだな。後、相応の実力があれば、条件なしで門下生になれることかな。門下生になる条件を俺は知らないし、なれたとしても門下生になるつもりはないが。実は他にも参加者のメリットがあるとかないとかの噂がある。しかも、そのメリットは先ほどの2つのメリットよりも美味しいらしい。まあ、真偽不明の噂だから気にしないでおこう。

 俺の超能力を活かせる職場のパイプになるかもしれないし、力試しにもなる。よし、応募してみよう。


 結果として、俺は参加者になることが決まった。あ、教えてくれた友人に礼を言っておこう。電話でも良いが、礼を言うだけのために電話するのもな。というわけで、俺は彼に簡潔な感謝の文を送っておいた。

 すぐに返信が来た。特筆する内容ではなかったが、彼らしい文面だった。



 今日は超能力道場の参加初日である。門下生と参加者の集まる場所が違うので、おそらく俺の周りにいる人達が参加者だろう。あちこちでひそひそとした声が聞こえてくる。

「お前も参加者なのか?」

「ああ。お前もか?」

「そうだ。俺は自分の能力に自信があるからな」

「それは俺もだ。二人とも門下生になれると良いな」

「そうだな」

 二人組の人間達がそんな話をしていた。二人は知り合いなのか。まあ、知人や友人と一緒に参加することは珍しくはないから、別におかしくない。

 いきなり周りが静かになった。それと同時に一人の男性が参加者から離れた場所に歩いていくのが視界に入る。参加者の1人か? いや、男性のまとう雰囲気が参加者のそれではない。師範か何か? 男性は立ち止まり、注意深く俺達参加者を見回した。

「参加者の皆さん。今回は超能力道場の一般公開に参加してくれて感謝します」

 男性は一呼吸置いてから、続ける。

「私はこの道場の師範である『浜中』と言います。まあ、師範といってもこの道場は国が管理していますから、実質私は他のところの師範のような偉さはないですけど」

 浜中と名乗った師範はそれから次のようなことを説明した。

 参加者同士で超能力を使った練習試合を行う。これを2か月間続ける。毎日ではなく、一週間に一回の頻度で行われる。試合の相手は最初は参加者ではなく、道場側が決める。2回目以降は参加者達が好きに決めて良い。ただし、お互いに了承し合わないと練習試合ができない。道場側の権限で無理やりやらせることもできるが、道場側は極力それはやらない。練習試合での勝利数が多い人は道場側や国から特典が与えられることがあるかもしれない。

 大体こんな感じの説明だったと思う。国からも特典がもらえるかもしれないとなると、あのウワサは事実の可能性が出てきた。まあ、それは今は置いておこう。

 師範の説明が終わり、さっそく練習試合が始まるようだ。俺は次の次にやることになっている。ちなみに、相手の名前は聞いたが、知り合いではないので、どんな人物かは知らない。


 とうとう俺の番が回ってきた。俺と相手には特殊な服を着させられている。どういう原理か分からないが、この服を着ていると、超能力による怪我がなくなるそうだ。痛みを殺すことはできないみたいだが。本当に大丈夫なのかと一瞬思ったけれども、プロが大丈夫と言っているから、大丈夫だろう。

「二人とも準備はよろしいですか?」

「はい」

「ええ」

 浜中さんの問いかけに俺と相手は肯定した。

「わかりました。では、開始です!」

 浜中さんの開始の声と同時に、俺は相手に向かって念じる。相手の全身を炎で燃やすんだ! さあ、燃えろ!

 すると、相手の体から炎が湧き上がる。

「がぎゃあああー!」

 相手の口から絶叫が響き渡る。本当に大丈夫かと不安になるが、油断をしたら、俺が負けてしまう。俺は攻撃を続けた。


 俺は無事勝利した。俺と相手の特殊な服は今はすでに脱がされている。相手に火傷や傷はなかったので、俺はホッとした。どうやら、本当に怪我をしないものだったようだ。

「あんた強いな」

 しかし、疲労がすさまじかったのか、大の字で倒れながら、相手はそう褒めてくれた。

「いや、そんなことはない」

 俺は一応否定した。というのも、俺は超能力者として強者なのか弱者なのか分からないからだ。まあ、この人より強いことは分かって良かったかな。


 そして、本日の練習試合は終了した。


 夜。

 俺は親が作ってくれた夕食を食べることにする。食卓には鶏肉があった。やっぱり肉といえば、牛肉、豚肉、鶏肉だよな。まあ、俺個人の意見だが。

 ちなみに、関係ないけれども、家族の中で超能力を使えるのは俺だけだったりする。



 二度目の超能力道場の参加日に俺は別の相手に勝利した。結構痛みを感じるくらいに相手の超能力をくらったが、勝てたので、嬉しさが痛みを上回っている。つまり、それくらい気分が良くなっているということだ。

 ただ、相手は悔しそうな顔をするだけで、俺と話すことはなかった。前回の人は褒めてくれたので、微妙な気持ちになった。負けた相手と談笑したくない気持ちは分かるけれども。



 三度目の超能力道場の参加日は良くなかった。また違う相手と戦ったのだが、俺は負けた。一応善戦はしたはずなのだけれども、相手に勝つことができなかった。

「おまえ強いな」

 相手の言葉は俺の実力を認めているようだった。それは喜ばしい。しかし、負けたことには変わらない。悔しいな。

 俺は超能力者としてもっと強くなることを誓った。



 超能力道場最終日。三度目の相手との再試合だった。4度目から最終日前までの相手には勝利をしていた。三度目の相手はライバルと俺は思っている。それで、今日ライバルに勝てたのだ。あまりの嬉しさに飛び上がりそうになったが、学生とはいえ、俺は成人した人間なので、冷静でいた。

「悔しいが、おまえは俺を越えたな。おめでとう」

 ライバルが一瞬顔を歪めたが、すぐににこやかな笑顔で手を差し出してきた。負けて悔しいはずなのに、人間としての器が大きいなあ。いや、大人として普通なのか? 相手の年齢が分からないから、なんとも言えない。もし、社会人なら、普通かも。俺個人では判断できない。

 とりあえず、俺はにこやかに彼の手を握って握手をした。


 こうして、俺の一般公開の超能力道場が今日で終了した。



 2107年のある日。学校から連絡があった。なんでも公的な所からある人物に会って欲しいという要望があったみたいだ。俺は何かしてしまったのかと戦々恐々としたけれども、どうもそうではないことが、その人物にあった日に判明した。


「わたくしはAと申します」

 Aと名乗った人物がそう言って、名刺を渡してきた。

「これはどうもご丁寧に」

 俺は両手で名刺を受け取って、名刺に書かれていた文字を読む。

 どうやら、『超能力者公益組合』のメンバーの人らしい。通称『超組』と呼ばれていて、メンバーの大部分が超能力者の中でのエリートらしい。らしいというのは、公益財団法人だけど、世間的にあまり知られていないからだ。せいぜいこの組合に入ったら、将来安泰と思われているくらいだろう。公益財団法人の知名度が高いことが普通かどうかは俺にはよく分からないが。

「世間話をしたいのですが、わたくしにはあまり時間がないので、単刀直入に言わせていただきます」

「はい」

 俺の肯定の返事にAさんはふんわりと笑った。

「相本さん。わたくし達が所属する『超能力者公益組合』のメンバーになっていただけませんか?」

 Aさんの話を聞いて、一瞬思考がストップした。

「え、えーと。冗談ではないですよね?」

「わたくしは冗談で訪問しませんよ」

「すみません」

「いえいえ、信じがたいのも分かります」

 Aさんは笑いながらそう言ってくれた。

「しかし、信じていただけなくては話が進みません」

「そ、そうですね」

 ドッキリの可能性もなきにしもあらずだが、そんなことを考えていてはきりがない。

「わかりました。私で良ければ、あなた方のメンバーになりたいです」

「なって下さるのですか?」

 Aさんが前屈みになって問うてくる。

「はい!」

 まさか国からの特典が公益財団法人からのヘッドハンティングとは思わなかった。いや、このヘッドハンティングと国が関わっているかは知らないが、公益的なところからなのは変わらない。より良いメリットの噂は本当だった。ものすごく嬉しい。俺の超能力を生かせる職場のパイプになって良かった。

「色よい返事を聞かせていただきありがとうございます」


 こうして、俺は超組にヘッドハンティングされた。

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