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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第二章 獣に愛されし少女
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第73話 不思議な人物

「……ジョゼ、何か妙案があるの?」


 マリアがそう尋ねると、彼女は頷く。


「妙案、というほどではないのですけど……四人目にどうかな、という子がいるんです」


「妙案じゃない! まさに求めていたのはそれなのだから。でも、誰? 私とラーヌに怯えないでいられる?」


「マリア様……」


 苦笑しながらラーヌがそう言ったが、マリアの指摘した点は確かに重要だ、と納得はしているようだった。

 マリアとラーヌに怯えない、というのはこのパーティーに入るための最低条件であるのは間違いないからだ。

 これがただのピクニックに行くメンバー選びに過ぎない、というのであれば怯えようがなんだろうが全く構わないだろうが、行く場所はのどかな湖畔ではなく、魔物蠢く迷宮なのである。

 そこでは当然戦闘も予定されており、四人パーティーで入るからにはメンバー同士の意思疎通や連携が重要になる。

 にもかかわらず、そこでマリアやラーヌに怯えて自分の仕事が出来ないようでは問題だ。

 だからこそ、最低限、二人に怯えない、というのが条件になるのだ

 これにジョゼは、


「そこは大丈夫だと思います。ちょっと変わった子なので……ただ、お二人に失礼がないかだけ心配なんですが……」


「別に少しくらいのことなら気にしないわ。流石にいきなり斬りかかってこられたら反撃くらいはするけれど」


 マリアがそう言ったが、流石に冗談であることはジョゼにも分かったらしく、微笑みを浮かべ、


「流石にそこまではしない……と、思います」


「完全には保証しかねるのね……?」


「いえ、そういうわけじゃないんですが……私が誘おうと思っているのは、エリーゼ・ランドールなので」


 その名前に心当たりがあるらしく、マリアとラーヌは頷いた。


「あぁ、あの子だったのね。確かに、私にもラーヌにも怯えないでしょうね」


「エリーゼは誰に対しても態度があまり変わりませんものね。あまり目立たない子なので、ジョゼと仲がいいとは意外でした」


 これにジョゼは、


「最近仲良くなったんですよ。ある日、授業でたまたま隣に座って、それからですね」


「そうなのね……でもどういうところが変わっているの? 私、あんまりそういうイメージを感じたことがないのだけど」


 マリアがそう尋ねると、ジョゼは答える。


「うーん、なんとも言いがたいんですけど、なんだかたまに挙動不審なところがあるというか……」


「たとえば?」


「この間……大体、あの事件があった次の日なんですけど、なぜか私の体を色々とチェックして、『元気そうね、良かった!』とか言ったり……」


 これにマリアは、


「ちょっとそれは……あの事件のことを知っていた、ということじゃないの?」


 と尋ねる。

 しかしジョゼは首を横に振る。


「いえ、それは有り得ないと思います。基本的に箝口令が敷かれたでしょう? 私自身も喋っていませんし、皆さんも特に話してはいないですよね」


 これには全員が頷く。

 ジョゼは続ける。


「ただ、どこかから漏れたか、彼女自身があの魔族の仲間とか、そういう可能性もあるかと思って一応、学園長にも報告した上で調べてもらったのですけど、何も怪しいところは無いそうです。だから何も知らなかった、ということになると思います」


「……でも少し怪しさは残るわ」


「確かに。でもそれだけじゃないんですよ。私が転びそうになった瞬間にすぐ、手を掴んで防いでくれたり、遠くの廊下の角から、全然見えないのに誰が歩いてくるか当てたり……」


「……なんだか占い師のようですわね」


 ラーヌが感想を述べると、ジョゼはなるほど、と納得したような表情で、


「まさにそれです。何がこのあと起きるのか知っていたかのうような行動を取ることがたまにあるんです。でもいつもじゃないですし……不思議なんですよね」


「貴女に元気そうね、良かった、と言ったのも、貴女が怪我をするという未来を知っていたから……? 事件自体は知らない、とそういうことかしら」


「私はそうなんじゃないかなって。やっぱり怪しいので、誘うのは止めた方がいいですかね……?」


 ジョゼは話しながらそう思ったらしい。

 確かにノルブの例もあるし、一緒に行動してたら唐突に後ろから撃たれた、なんて事態も想定できる。

 そこはかとない怪しさがあるエリーゼ・ランドールは誘わない、という方が安全かも知れない。

 しかし、マリアは言う。


「……でも、エリーゼはジョゼのことを何度も助けたりしてくれているのでしょう? その転びそうなときとか」


「そうですね。彼女がいなかったら今頃私、結構擦り傷まみれだったかもしれないです」


 どれだけおっちょこちょいなんだ、という気はするが、学園の授業はハードだ。

 実技系の授業のあとは結構みんな足に来ていたりするので、そういうときはかなり頻繁に転んでいる者を見かける。

 ジョゼのもそういうときのことだろう。

 ジョゼの話を聞き、少し考えたマリアは、言う。


「……誘いましょう」


「えっ、いいんですか?」


「ええ。問題ないでしょう。それに……何かあるかもしれない、と最初から思っているだけで違うもの。迷宮探索で重要なエリーゼの実力自体は申し分ないことも同じクラスだから知っているしね」


「でも、何かあったら……」


「それも大丈夫よ。ノルブはいっぱしの魔術師で、そうそう生徒が対抗できるような人では無かったけれど、エリーゼは少なくとも正真正銘、生徒だからね。それは魔力量やその扱いからも分かるわ。実力を隠している、という可能性はなくはないけれど、私、結構細かく魔力は見れるから、魔術を失敗したりしてるところを見れば、それがわざとかどうか、分かるの。少なくとも、エリーゼのそれはわざとということはないわ。だから、仮にいきなり後ろから撃ってきても、私には対抗できる」


 凄い自信だな、と言いたくなるが、実際、マリアの魔術師としての実力は同学年の中ではトップクラスだ。

 二、三年生を入れてもまだ、上の方にいるだろう。

 学園生徒くらいの実力であれば、それがある程度優秀であっても問題なく対処できる。

 ジョゼはマリアの言葉に頷いて、


「そういうことでしたら……誘いますね。ラーヌもそれでいいですか?」


「私はマリア様がそうおっしゃられるのなら、文句はありませんわ。それに……一度、エリーゼとじっくり話してみたいと思っていましたし」


「そうなんですか?」


「ええ、なぜかあの子、私が近づこうとすると逃げるから……でも、顔を見ると分かるけど、怯えているわけではないのよね。どうしてなのか尋ねるいい機会かも知れないと思って」


「分かりました。エリーゼにも、ラーヌと話すように言っておきますね」


「頼みましたわ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 露骨に気になるキャラでいいんですね。
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