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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第二章 獣に愛されし少女
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第71話 相談

「……必死ですわね」

 

 コンラートの言葉にそう言って少し笑ったのは、貴族女性であるラーヌだ。

 とはいえ、馬鹿にしたような感じではなく、弟が積み木を頑張っているところを見るような微笑みで、柔らかなものだったが。

 彼女は一見、険のある女性に見られやすいところがあるが、実際に付き合ってみるとマナーや常識に厳しいだけで、本当は優しく聡明な女性である。

 だからこそ、マリアも友人付き合いをしているし、庶民女性であるジョゼも問題なく付き合えているわけだ。

 それにマナーなどに厳しいと言っても、その部分は最近、かなりの例外を許すようになった。

 というのは、魔族にマリアとジョゼ共々攫われかける、という滅多に無い恐ろしい経験をしたことに加え、そのときに学園長に助けられたことにより、彼に対して半ば恋情のような、憧れを持つことになったことに原因がある。

 基本的な部分は変わらないにしても、マナーや常識にいくら拘ったところで、人生が終わるときには終わる、というある種の真理を体験し、一種の開き直りが出来たためだろう。

 そのこともあって、ラーヌは非常に付き合いやすい女性になっている。

 こうして僕の部屋にいるのも、本来なら貴族女性としてはアウトだろうが、さほど気にしている様子も無い。

 むしろマリアやジョゼという気の置けない友人とくつろげる空間として楽しんでいるようだ。

 

「そりゃあ、必死だよ。将来の就職先くらい自分で決めたいからな」


 コンラートがそう言うと、ラーヌは少し考えてから、


「でも、会長は公爵家の継嗣ですわよ? 学園卒業後の就職先としてはむしろ望ましいと思えますけど……」


 そう言った。

 実際、学園を卒業した後の学園生の就職先、というのは多くが騎士団や魔術師団であり、一部がエリートとして宮廷魔術師になる、という感じだ。

 その他に、学園に入って魔術を学ぶわけでは無い貴族の家庭教師とか、高位貴族の執務補佐なんかもあるだろう。

 ただ、そんな中にあって、公爵家継嗣から直接に仕官の誘いを受ける、というのは当然、滅多にあることではなく、就職先として考えてもそれ以上望むとすれば、それこそ宮廷魔術師くらいしかない。

 そのことをどう思っているのか、というラーヌの疑問だった。

 これにコンラートは、


「それはそうかもしれねぇけどよ……負けて雇われるのなんて嫌だろ。もし雇われるにしたってだ。勝った上で雇われたい。でなけりゃ、雇われた後に足下を見られるかもしれねぇしな。俺の価値を上げておくんだよ」


「まぁ……したたかな戦略でしたのね。お見それしました」


 話を聞くに、雇われるかどうか自体はまだ決めかねているということらしい。

 ただ、どちらにしろ負けるのは性分に合わない、と。

 価値を上げておく、というのは冗談というか、どっちでもいいと思っている感じなのは僕には分かる。 

 まぁ、その方が雇われた後も一目置いてくれるかもしれないというのは分からない話ではないが、暴くのが会長の隠している何かしらの嘘だ。

 見抜いてしまうと却って警戒される可能性もあるような気がするが……。

 知らない方がいいこと、というのはあるからな。

 そのことを分かっているだろうか、と思ってコンラートに視線を向けると、分かってるぜ、という視線が返ってきた。

 まぁ、それくらいは理解していないと、公爵継嗣との駆け引きなんてする気にならないか……。


「そういえば、お金で思い出しましたけど、もうすぐ始まる迷宮攻略のメンバー、皆さん決まりましたか?」


 マリアと話しながらお茶を飲んでいたジョゼが、皆に向かってそう話しかける。

 

「迷宮攻略って言うと、例の、学園見学をしている子供たちも参加する、あれだよね……」


 僕が尋ねるとジョゼは頷いた。


「はい、それです。私はまだ決まっていない……というか、はっきり決めている人たちはまだ少ないみたいですけど、そろそろ動き出さないとあぶれそうで」


 迷宮攻略の授業は、その名の通り迷宮を攻略していく授業だ。

 学園内に存在する迷宮を、半年をかけて攻略する。

 といっても、完全に踏破することが目標なのでは無い。

 そんなことは一握りの、選ばれた迷宮攻略者のみが可能にすることで、学園生徒に期待できることでは無いからだ。

 あくまでも基本的な迷宮攻略の仕方を、実践を通して学んでいくというのが主題になる。

 その際に、一人で挑むのでは無く、パーティーを組んで挑む、というのが基本だ。

 別に一人ではいけない、というわけではないが、一人で挑むとなると全ての役割を自分でこなさなければならず、それこそ学園生徒に期待できることではない。

 だからこそ、授業はパーティーを組むことを前提に話が進んでおり、当日までにはパーティーを組んでおくように、と言われている。

 四人一組が望ましいと言われていて、これは役割という面でもそうだし、生徒の人数的にも全員がその人数で組めばあぶれる者が出ない、という意味でも推奨されている。

 これを破る者はおそらくいないはずだ。

 破ればここにいる五人で組めるのだが、そうするとミラナ先生が大変になるからな……。

 迷宮攻略の授業もまた、ミラナ先生の担当であるからだ。

 本当は他に担当者がいたのだが、この間、一人学園教師がいなくなってしまったわけで、その穴埋めなどで大きく人事が入れ替わったりしている。

 その煽りでミラナ先生は迷宮攻略の授業を任されることになってしまったようだ。

 学園教師というのも大変だなと思う。

 それこそ学園を卒業した後の就職先の一つであり、研究に潤沢な資金を仕えるためにそれなりに人気はあるのだが、代わりに何も分かっていない生徒という名のクソガキたちを統率して一つの目標に向かって突き進めさせなければならないわけで、激務であることでも知られる。

 そのため、よほど優秀で無ければ務まらない。

 ミラナ先生は実力的にも授業能力にしても優秀であるので問題ないのだろうが、そのせいで余計な仕事まで任されている感があって余計に気の毒だった。


「……あら、ジョゼ。あぶれるって……私とラーヌと組んでくれるつもりはないの?」


 マリアがジョゼにそう言った。

 これにジョゼは驚いて、


「えっ、マリア様。いいのですか? 私なんかと……」


 そう言う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しみなイベントですね。
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