第7話 相棒
「……ははぁ、なるほどねぇ。リラントじゃ、銀髪は吉凶の象徴ってわけか」
感心したような顔でその少年は言った。
いや、少年というか……。
「コンラート、君の反応を見る限り、ヘリオスではそういう言い伝えはないみたいだね。助かったよ。ここでも本国と同様に腫れ物に触るような眼で見られるのは流石に耐えられなかった」
少年とはすでに大まかな自己紹介を済ませた。
名前や出身地、どうしてここに留学することになったか、などについてもである。
もちろん、表向きのものを。
少年の名前はコンラート・バーデンと言い、この国ヘリオス王国のバーデン子爵の子息だという。
それが嘘ではないと言うことは、彼の身分証を兼ねたカードで確認させてもらっている。
ついでにカードの細かい使い方も教えてもらっており、名前以外については他人が確認できないようにロックをかけることも出来るとのことだった。
これについてはありがたい。
表向きの方はいくら見られても構わないのだが、本当の個人情報については誰にも見られるわけにいかないのだから。
もちろん、コンラートが理解しているカードの機能がすべてというわけではないだろうし、間違っているという可能性もあるからやはり後で学園長にも確認しておかなければならないが、とりあえずはいきなり他人の目に僕の本来の情報が触れてしまう、という心配はせずに安心しておいて良いだろう。
「リュー、お前を見て腫れ物を触るような態度を取れる奴は、この学園にはいないだろうぜ。それくらいに見た目整ってるからな。さっきも言ったが、女にもてるぜぇ? 良かったな! 本国じゃ、そういうのもなかったってことだろ?」
リラントで銀髪が吉凶の象徴であり、腫れ物を触るように扱われるというのは本当の話だ。
僕の本当の出身国はリラントではないけれど、僕の本国とリラント王国は文化がかなり部分で重なっており、銀髪についての扱いも同じである。
この情報で僕の本来の出自がばれる、ということはないだろう。
まぁ、ばれたとしても問題ないというか、僕はどうせ捨てられたのであるからどうでもいいのだが、変に騒がれるのも面倒だ。
できるだけ出自は隠していきたい。
「確かにそうだけど……それはあんまり考えたことがなかったな」
「えぇ!? お前、何のために学園に来たんだよ……学園ですることなんて、それくらいしかねぇだろ……!?」
コンラートがあほみたいなことを言うので僕はつい、吹き出してしまう。
「ふふ……君こそ一体、学園に何のために来ているんだい? 学ぶためだろう?」
「それはついでだ。だがリューはそっちが大事ってことか? やっぱり魔術とかもう結構使えるのか? 俺も第一階梯魔術をいくつかはここに入る前に出来るようになったけどよ……実際入ってみると他の奴らが凄すぎでもうやる気なくなってきてるぜ……ここでいい成績修めて卒業すりゃ、就職先もよりどりみどりだが……その成績ももう、諦めかけてるぜ……」
「僕は一応、第二階梯魔術をいくつか使えるよ。といっても第一階梯魔術を全部修めているわけじゃないけどね」
「そりゃそうだろ。第一階梯魔術全部なんて、たしか二百は種類があったはずだぜ」
コンラートはそう言うが、実際のところ僕はすべて修めている。
僕の才能に基づくものではなく、小さな頃からの厳しい教育のたまものだった。
あれだけしごかれれば誰だって覚えられるだろう、というだけの話で褒められたものではない。
しかし、この事実について学園で喧伝すれば変な目で見られることくらい僕にも分かる。
だから無難な《設定》に落ち着かせている。
成績の問題もある。
それだけ魔術を修めていて、総合二十七位なんてことには普通ならないからだ。
整合性を考えなければな……。
「ま、そういうことだね。けど、コンラートのさっきの身のこなしというか、受け身は中々だったじゃないか。学園では体術や剣術なんかの武術も成績に入ってくるだろう? あの木の上から落ちてほぼ無傷でいられる君の成績が悪いなんてことはなさそうだけど」
実際、今のコンラートを見る限り、全くの無傷だ。
頭から落ちたように見えたが、頭にも顔にも見る限り何の傷も、そして汚れすら存在しない。
つまりしっかりと衝撃をコントロールしたということだ。
当然、それは偶然などではなく、彼自身の実力によるものだということは僕から見ても分かった。
これにコンラートは頷いて、
「おう。これでも体術武術には自信があるからな。身につけた第一階梯魔術もほとんど身体強化系だぜ」
「そういうことか……なら、そっち方面で頑張っていけばいい。騎士になれば、出世も望めるだろう。最近はあんまり世の中が平和とも言えないしね」
「リラントでもそうだったのか? ヘリオスじゃ、魔物の活動が活発になってきてるが……」
「リラントでもそうだし、世界的にそうだと聞いたよ。だから、《終末の魔王》の復活も近いんじゃないかって言われているね……そうならなければいいんだけど」
「マジか……」
僕の言葉にコンラートが顔を青くしているのは、たった今出た単語《終末の魔王》によるものだ。
全部で四柱存在すると言われる魔王のうち、世界に終末をもたらすために現れると伝えられる存在だ。
かつて、存在し栄華を誇った文明が古代にいくつかあったことはすでに確認されているが、そのすべては今にわずかな痕跡を残すのみでしかなく、それはこの《終末の魔王》が当時の文明を破壊し尽くしたからだと言われている。
それがゆえに、《終末の魔王》。人の文明に終末をもたらす存在だと。
その出現が近い、とここのところ噂されていて、それは世界的に魔物の活動が活発化しているからだ。
魔王達は、いずれも魔物をその手足として扱うものだから。
「怖いかい?」
僕がコンラートに聞けば、彼は首を横に振って答える。
「少しな。だけど、本来はそのためにこの学園があるんだろ。だから頑張らなきゃいけねぇって思うぜ……まぁ、体使うこと以外、俺は苦手だけどよ……」
苦笑しながら言う彼であるが、僕はその答えにコンラートが少し好きになった。
僕は言う。
「僕はわりと魔術が得意な方だから、何か分からないことがあったら聞いてくれて大丈夫だよ。その代わり、僕は君に体術を学びたいな」
「おっ、本当か? じゃ、よろしく頼むぜ、相棒」
そう言って手を差し出してくるコンラート。
いつ相棒になったのかは分からない。
しかし、本国において僕にこんな風に接してくれる人間はほぼ、いなかった。
だから新鮮で、僕は笑って彼の差しだした手を掴み、握手したのだった。




