第69話 生徒会長
「……おや? 今日は随分と賑やかだな」
そう言いながら生徒会室に入ってきたのは……。
「……アラン会長! お疲れ様です」
ラルフがそう言ってその金髪碧眼の青年を出迎える。
彼こそが、この学園の生徒会会長、アラン・バローであり、バロー公爵家の長男であることはコンラートに以前、朝会で説明された。
いるだけで空気が変わる人間、というのがたまにいるが、アランもまたそう言った選ばれし者の一人であることはなんとなく分かる。
さっきまでどことなく緩んでいた部屋の空気が、彼が入ってきたことでぴりりと締まった感じがあった。
まぁ、これは先ほどまでこの部屋にいた人間が全員一年生で、アランが三年生であるということもあるだろうが。
これでこの生徒会に属するメンバーのほとんどがそろったことになる。
最後の一人は二年生で、このヘリオス王国の第一王子であるラファエロ・プリムム・ヘリオス王子だが、今日は所用があって来ないという話を聞いている。
つまり、今日ここに来られるメンバーはこれで全員というわけだ。
「やぁ、お疲れラルフ。それにユレルミと……マリア嬢もね。それから、君たちは……」
そう言ってアランは僕とコンラートを見たので、
「……リュー・アマポーラです」
「コンラート・バーデンだ」
と二人そろって自己紹介をして頭を下げた。
これにアランは、
「もちろん、知っているよ。リュー、君のことは学園長から聞いている。それにコンラート……君の耳の早さもね。二人がいるのは……生徒会に入ってくれるつもりかな? だとすると凄く助かるんだが……」
と言ってきた。
これに僕は驚く。
僕の話を学園長から聞いている、という言葉の意味は……。
どう捉えるべきか少し悩むからだ。
僕の本来の身分を聞いている、ということなのか、それとも単純に気にかけてやってくれ、というくらいのことを聞いているに過ぎないのか……。
おそらくは後者なのだろう、とは思うが、生徒会に入ったら助かる、と言っていることからすると前者のような気もしてくる。
公的に残っている成績は見せかけだ、ということくらいは聞いているかも知れない。
なにせ、アランは公爵家の継嗣だ。
この国の運営にこれから大きく関わっていくことは間違いなく、国の上層部が知っておくべきことは彼もまた共有していてしかるべきだと言える。
また、驚いたのは僕だけでは無く、コンラートも同様のようだ。
「ちょっと手伝ってるだけだ……しかし、俺の早耳のことを初対面で指摘してきたのはあんたくらいですよ、会長」
コンラートがアランにそう言うと、アランは笑って、
「おや……そうなのかい? 君ほど優秀な男は中々いないと思うがね……皆もそう思うだろう?」
生徒会の他の面々にそう言って同意を求め、マリアとユレルミは頷いていたが、ラルフが少しばかり苦い顔をしていた。
もうコンラートに対しては確執は無いとはいえ、アランが見抜いていたらしいコンラートの優秀さについて気づいていなかったのはどうやら自分だけらしいとそこで突きつけられたような気がしたのだろう。
しかし、アランが続けた言葉に彼は救われる。
「まぁ、おそらく私だけではないとはいえ、君が爪を隠しているからこそ気づかない者も少なくない、というだけのことだろうさ……この学園では、少しでも優秀なものは自らの力を示そうと躍起になるのが普通で……コンラート。君のように控えめな男は珍しいから」
コンラートについて控えめ、と表現したアランに僕は感心する。
ぱっと見、コンラートは決してそのような男には見えないし、実際話してみてもよく喋るしいっそ五月蠅い、というくらいの印象を相手に与えかねない男だ。
けれど、実際には彼をそのように疎んでいる人間はほとんどいない。
ほとんど、というのはラルフのような者がたまにいるからだが、彼の場合はただ、模擬戦の結果に納得が行っていないという個人的事情に基づいてのことだから別である。
大抵の場合、コンラートは、意外なほどに存在感が薄いのだ。
コンラートと会話した者の大半は、彼とどんな内容の話をしたのか今一覚えていないようで、それでいながら自分のことを沢山話したという記憶ばかりが残っていることを僕は確認している。
それはつまり、自分の情報をほとんど与えずに、相手の情報だけを抜き取っているということだ。
いつも自然にそういうことを行っていて、しかし相手に気づかせることは無い、というのはかなり高度な話術である。
アランが言う控えめ、にはそういうコンラートの性質に対する軽い皮肉も入っていたように感じられ、その観察眼の鋭さに感心したわけだ。
コンラートも珍しく顔を少し引きつらせて、
「……大分あんたの印象が変わってきたぜ……」
と絞り出すように言った。
アランは、
「ほう、私の印象は今までどんな感じだったのかな? 参考までにお聞かせ願えないだろうか」
「……文武両道の優男。生徒会長もこなし、教師生徒からまんべんなく評判がいい完璧な男。見た目も貴公子と呼ぶに相応しく、公爵継嗣という地位も持つ……まさに非の打ち所がない存在。だが……」
「だが?」
「だからこそ、どこか嘘くささがへばりついている……」
「ほほう。また面白い意見だね。私が嘘をついているように見えるのかい?」
その瞬間、ぎらり、とした目でコンラートを見るアラン。
冗談なのか、それとも本気なのかは判別がつかない。
これにコンラートは、
「……いいや。俺の気のせい、なんだろう。これだけペラペラと喋ってくれてるわけだしな」
「そうとも限らないだろう。嘘つきは口達者だ。多くの真実の中に、一つの嘘を混じらせることが最も効果的だと知っている」
「あんたもその口だと?」
「どうだろうね? だが、そうだとしたら……」
「そうだとしたら?」
「君がその嘘を見抜いてみるといい。もしそれが正しかったら僕は素直に降伏宣言でも出すことにするよ。君の目は、正しいとね。ただし君が見抜けなかったそのときは……そうだな。将来、僕の部下にでもなってもらおうか」
「……その言い方だとまるで何か嘘をついているみたいだが?」
「どうかな。何も嘘はついていないけど、君が欲しいが為に言っているだけという可能性もあるよ」
「また随分と高く俺を見積もったもんだが……」
「そうでもないさ。正当な評価だ。本当ならリューも部下に欲しいんだけど、彼は他国の貴族だからね……もしもヘリオスに移住したくなったら言ってくれ。我が家が寄親になって、君に爵位を与えるから」
突然水を向けられて驚く。
しかもその内容は相当なものだ。
公爵家なら確かに他人に与えられる爵位の十や百くらい余裕で持っているだろうが、こんなに気軽に約束するものでもないだろうに……。
「いいのですか?」
僕が尋ねれば、
「君が得られるなら安いものだ。僕はこれで結構見る目がある方でね。だからこそ、この生徒会で会長をやっていられる」
その言葉に、生徒会役員の面々の顔を見る。
……なるほど。
確かに何よりも説得力のある言葉だ、と僕は思った。
こんな癖のある人間ばかり集めてまとめられるのは、他人を見る目がなければやっていられないだろうと、そう思ってのことだった。




